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第10話 一番槍の武功はうつけに

10ー①

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時貞は、麟太郎の方向を見て、何を思いついたのか、
「ではまず、あなたの前に怪物が寝てるでしょう」と、云って、顔がほころんだ。
端正な顔立ちが、ニンマリしている。また悪い癖が出てこなければ良いのだが……。きっと叱られるぞ。

「これっ?」と、麟太郎が目の前の、両腕を切断されて、左わき腹を大きく切り開かれている怪物の死骸を指差した。時貞が大きく頷く。

「これをどうすれば?」

「それの、切り開いた、わき腹から、……」

「はい」 

「中に入って、……」

「え、入る?」

「中に入って、無い腕のところから、両腕を出してください。ウルトラマンみたいに、それを着るんですよ!」

「着るって、これを?」と、麟太郎が、引き裂かれている腹の間を、横目で覗いた。

「そぉー!それを着て、怪物の口のところから目を出して、外が見えるようにしてください」と、時貞が、怪物の口に見立てて両手で円を作り、そこから目を出して覗いた。

源次は、大きくため息をついて、頭を横に振った。田辺博士は、呆れている。

「これで、あいつと戦うんですか?」と、麟太郎が生きている怪物の方を指差す。

「いや、いや、戦うのでは無くて、メスの振りをして、尻を振って、色気を出して、……」
「教授、いい加減にしてください!」
と、源次の、怒鳴り声が響いた。源次は、時貞の前で怪物の攻撃を必死でかわしている。

「あははは、ギャグですよ、ギャグ。そんなに怒鳴らなくても……」
「教授っ!」と、源次にやっぱり叱られた。

「判りましたよ、判りました。……では、そこの壁にある配電盤を開けてください」
と、時貞は、麟太郎の横を指差した。麟太郎は動かずに、困惑した表情で時貞を見詰めている。

「今度は、本当ですから。あんたぁ!」と、時貞が大声を出した。
麟太郎は、瞬きを数回すると、後ろの配電盤に顔を向けた。

「まず、あなたの横にある配電盤を開けて、そこのレーザー機器に繋がっているコードを探してください」と、時貞が、さっきとは違う真面目な口調で云った。

麟太郎は立ち上がると、急いで蓋を開けた。中にはいくつかのスイッチ類とメーター計が付いていた。外の機器に繋がるコードを辿って、他より少し太いコードを掴んだ。

「ありました、これです!」
「では、その電源スイッチを切ってから、それをレーザー機器から引き抜いてください。そして、そのコードを二つに裂いて、一本ずつにしてください」
麟太郎は、コードを両手で握って、力一杯に引き抜いた。
「ガツッ!」と、短い音を上げて、レーザー機器が揺れた。

麟太郎は、抜けたコードを手繰り寄せると、その先を両側に広げて引き裂いた。電源コードが、プラスとマイナスの二本に分かれた。

「できました!」と、麟太郎が声を上げた。
「では、そのマイナスの一本を……、あ、源さん、マイナスの色は?」
「白です!黒がプラス」
と、源次が怪物の攻撃を防ぎながら応えると、時貞が、
「白い方のコードを後ろの鉄の柱に巻き付けて、黒のコードは手に持っていてください」と、大きな声で云った。
麟太郎は、白いコードの先に露出している銅線を、鉄の柱の、丸く開いていたネジ穴に通して巻き付けた。

「源さん、怪物を部屋の真ん中に吊ってある鎖に」と、時貞が声を掛けた。
源次は、少し考えると頷いた。時貞の意図が判った。
だが、怪物の攻撃は、少しも衰えてはいない。逆に源次の方が押され気味であった。
―――と、その時、壁際にいた田辺博士が、怪物の後ろから、すぐ傍まですり寄っていた。
手には大きな鉗子のような器具が握られ、その先には、鋭利な平爪が挟んであった。
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