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第9話 貴公子の初陣
9-④
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源次は、時貞を守るように、前面で鉄のテーブルを振り回している。
「博士、こいつの弱点は無いんですか。火に弱いとか?犬が嫌いだとか?」
と、時貞は、源次の肩越しから見える怪物から目を逸らさずに、大きな声で訊いた。
「火に弱いかどうかはしらんが、弱点が一か所だけある。それは、わきの下だ」
「くすぐるんですか?」
「違う、違う」
と、田辺博士は、さっきの三本の矢を思い出して、一本だけ根元までめり込んでいた話をした。
「なるほど」と、話を訊いて、時貞は頷いた。
確かに人間でも、わきの下や喉などは鍛えるのが難しいと訊く。ましてや、左わきの下なら、そのまま肋骨の奥にある心臓をも突き通す可能性は十分に考えられた。
田辺博士は立ち止まって、怪物にこれ以上近寄ることを躊躇っていた。
長い腕を大きく振り回している怪物に、タイミングを計れない様子であった。
「教授、何かいい方法はないですか?」
と、源次が、一応は考古学者の時貞に訊いた。時貞は、部屋の中を見渡して、
「ああ、無くはないんだが」
と、田辺博士の顔を見て、
「博士!」と、呼んだ。田辺博士が、怪物の背後から顔を向けた。
「あの、レーザーメスの機械で、レーザー光線か何かを発射できませんか。それでこいつを、メトロン星人のように真っ二つに、……」と云う、時貞の話の途中で、田辺博士は冷たく首を横に振った。
「おっ、その手があったか!って、云ってくれないんですね……」
と、時貞が残念そうに云った。田辺博士は、お話にならないという顔をした。
源次が、怪物と戦いながら、時貞を睨んで首を振った。
「あははは、ギャグですよ、ギャグ」という時貞に、源次が哀れみの眼差しを向けた。それで空笑いをしていた時貞は、余計にみじめな気持ちになった。それならばと、時貞は、次の手を考えた。
時貞は、室内の中を見渡した。次に天井を見上げた。天井からは、鎖が垂れ下がっている。
「源さん、消防署に繋がる火災報知機とかは付いていませんか」と、天井を見ながら、時貞が訊いた。
「無いです」源次が、怪物に応戦しながら応える。
「警備業者に繋がっている、防犯装置とか……」と、時貞の言葉の途中で、源次が首を横に振った。
(外部へのコンタクトは無理か……)
時貞は天井のウインチから、それを固定している強化板に、そしてそれを支えている鉄骨の柱へと目を移した。時貞がそれに沿って視線を下げた時に、その柱の横で、赤く点滅しているものが目に入った。ビデオカメラの録画中の点滅であった。
「あんたぁ!」と、時貞がいきなり奥にいる男を大声で呼んだ。
「あんた、そんな事をしている場合じゃないでしょう」
と、怪物の向こうで怒鳴っている男に気がついて、麟太郎はカメラを外した。
自分の鼻の頭に、人差し指を持っていき、
「ぼく?」と、小さい声で訊いた。
「そう」
「ぼく?」
「そう、あんたぁ!」と、時貞は、半分怒って云った。
「カメラなんて回してないで、あなたも手伝ってくださいよ」
「嫌です」
「……っ?」
「嫌です。こんなチャンスは二度とない。大金持ちになれるんですよ。それに、ぼくの義務は報道なんですよ。戦場のカメラマンが銃を持って、戦ったりしますか?」
と、眼鏡をかけた小太りな麟太郎は、目の前の現実に、少し興奮気味であった。
「何、云ってんだよ。ぼくたちが殺られた後は、今度はあんたが殺されるんだぞぃ!」と、時貞の語尾が、ほんの少しゾイ調になってしまった。
麟太郎は人差し指を、顔の前で二、三度振ると、「チッ、チッ、チッ」と、三回口を尖らせた。
その後、麟太郎が指を差した後ろの壁には、窓があった。電圧板の横である。麟太郎は、いざとなったら自分だけ、窓から外へ飛び出して、逃げることを考えていた。
「おわ、なんだこいつ。ありえねぇー!」と、時貞の唇が歪んだ。
「教授!無駄ですよ」と、横から源次が云うと、首を振った。
源次は、怪物の攻撃に防戦一方である。何度討ちのめしても、怪物には微塵も効いた素振りが無い。その逆に、怪物の一振りで、こちらの首が飛ぶ。明らかに割の合わない、不利な戦いであった。
「博士、こいつの弱点は無いんですか。火に弱いとか?犬が嫌いだとか?」
と、時貞は、源次の肩越しから見える怪物から目を逸らさずに、大きな声で訊いた。
「火に弱いかどうかはしらんが、弱点が一か所だけある。それは、わきの下だ」
「くすぐるんですか?」
「違う、違う」
と、田辺博士は、さっきの三本の矢を思い出して、一本だけ根元までめり込んでいた話をした。
「なるほど」と、話を訊いて、時貞は頷いた。
確かに人間でも、わきの下や喉などは鍛えるのが難しいと訊く。ましてや、左わきの下なら、そのまま肋骨の奥にある心臓をも突き通す可能性は十分に考えられた。
田辺博士は立ち止まって、怪物にこれ以上近寄ることを躊躇っていた。
長い腕を大きく振り回している怪物に、タイミングを計れない様子であった。
「教授、何かいい方法はないですか?」
と、源次が、一応は考古学者の時貞に訊いた。時貞は、部屋の中を見渡して、
「ああ、無くはないんだが」
と、田辺博士の顔を見て、
「博士!」と、呼んだ。田辺博士が、怪物の背後から顔を向けた。
「あの、レーザーメスの機械で、レーザー光線か何かを発射できませんか。それでこいつを、メトロン星人のように真っ二つに、……」と云う、時貞の話の途中で、田辺博士は冷たく首を横に振った。
「おっ、その手があったか!って、云ってくれないんですね……」
と、時貞が残念そうに云った。田辺博士は、お話にならないという顔をした。
源次が、怪物と戦いながら、時貞を睨んで首を振った。
「あははは、ギャグですよ、ギャグ」という時貞に、源次が哀れみの眼差しを向けた。それで空笑いをしていた時貞は、余計にみじめな気持ちになった。それならばと、時貞は、次の手を考えた。
時貞は、室内の中を見渡した。次に天井を見上げた。天井からは、鎖が垂れ下がっている。
「源さん、消防署に繋がる火災報知機とかは付いていませんか」と、天井を見ながら、時貞が訊いた。
「無いです」源次が、怪物に応戦しながら応える。
「警備業者に繋がっている、防犯装置とか……」と、時貞の言葉の途中で、源次が首を横に振った。
(外部へのコンタクトは無理か……)
時貞は天井のウインチから、それを固定している強化板に、そしてそれを支えている鉄骨の柱へと目を移した。時貞がそれに沿って視線を下げた時に、その柱の横で、赤く点滅しているものが目に入った。ビデオカメラの録画中の点滅であった。
「あんたぁ!」と、時貞がいきなり奥にいる男を大声で呼んだ。
「あんた、そんな事をしている場合じゃないでしょう」
と、怪物の向こうで怒鳴っている男に気がついて、麟太郎はカメラを外した。
自分の鼻の頭に、人差し指を持っていき、
「ぼく?」と、小さい声で訊いた。
「そう」
「ぼく?」
「そう、あんたぁ!」と、時貞は、半分怒って云った。
「カメラなんて回してないで、あなたも手伝ってくださいよ」
「嫌です」
「……っ?」
「嫌です。こんなチャンスは二度とない。大金持ちになれるんですよ。それに、ぼくの義務は報道なんですよ。戦場のカメラマンが銃を持って、戦ったりしますか?」
と、眼鏡をかけた小太りな麟太郎は、目の前の現実に、少し興奮気味であった。
「何、云ってんだよ。ぼくたちが殺られた後は、今度はあんたが殺されるんだぞぃ!」と、時貞の語尾が、ほんの少しゾイ調になってしまった。
麟太郎は人差し指を、顔の前で二、三度振ると、「チッ、チッ、チッ」と、三回口を尖らせた。
その後、麟太郎が指を差した後ろの壁には、窓があった。電圧板の横である。麟太郎は、いざとなったら自分だけ、窓から外へ飛び出して、逃げることを考えていた。
「おわ、なんだこいつ。ありえねぇー!」と、時貞の唇が歪んだ。
「教授!無駄ですよ」と、横から源次が云うと、首を振った。
源次は、怪物の攻撃に防戦一方である。何度討ちのめしても、怪物には微塵も効いた素振りが無い。その逆に、怪物の一振りで、こちらの首が飛ぶ。明らかに割の合わない、不利な戦いであった。
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