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第3章 延長戦は何回までですか?

潮風

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お昼前で平日ということもあり、並ばずに済みそうだ。以前新しいお店がオープンした時にはとても混雑している様子をテレビで見た。人混みは苦手なので、今日のタイミングで来れてラッキーだとほくそ笑む。

話題になっていたメロンパンと肉まんを買って、五十嵐くんと半分こする。半分こした肉まんとメロンパンの写真もスマートフォンで撮る。証拠作りも欠かさない。それでも、本当のカップルみたいだ。現に店員さんの態度も恋人扱いで、動揺を見せないように苦労した。

「「おいしー!」」
肉まんを一口食べて、声が揃ってしまった。何だか恥ずかしい。二人で笑いあって誤魔化す。

「これから、どうする?」
照れを隠すために、無理矢理話題を変える。
「うーん、下道に降りて海沿いに向かって走ってみるか。暗くならないうちに撮影したいでしょ?」
「そうだね!ありがとう。お昼は向こうで何か食べよう。」

メロンパンを食べ終えて、車に戻る前にカフェでコーヒーをテイクアウトする。運転のお礼もあり、私の奢りだ。本当は肉まんもメロンパンも払おうと思っていたが、断られて割り勘になってしまった。ガス代もあるのに申し訳ない。コーヒーも最初は遠慮されたが、無理矢理払わせてもらった。


車に乗り込んで目的地をセットする。
着く前からお昼は何を食べようか、どんな写真を撮ろうか想像して、ワクワクする。

下道に降りてしばらく進むと、海が見えてきた。海なんて珍しいものじゃないのに、今日は今まで見た海で一番キラキラして見えた。窓を開けて海沿いを走る。季節外れで少し寒いが、潮の匂いがして海にきたと思えた。
江ノ島が見えてくると、古いけどサザンを思い出す。よくお父さんの車で流れていたなと感傷に浸ってしまう。今日は父の車じゃなくて、五十嵐くんの車に乗っている。だけど、私たちは恋人同士じゃないし、お互いに好きな人ができるまでのこの関係は誰にも話せない。そう思うと、心に潮風がしみるように感じた。

片瀬海岸の近くに車を止め、江の島弁天橋を渡る。車道の大橋と別れているので、ゆっくり歩きながら風景を楽しめるのもいい。今日は晴れていたこともあって、遠くに富士山も見える。久々の遠出にワクワクしてたくさん写真をとる。波にきらめきと遠くに見える島が絵になるなと思い、シャッターを切る。五十嵐くんは相変わらずで、私が写真を撮るのを嫌な顔せず、興味深そうに見てくれている。
一通り写真を撮って、橋を渡りきって島に上陸する。

やっぱり観光地だ。人が多い。江ノ島神社にお参りするために階段を上る決意が出来ず、とりあえずお昼度にしようということになった。さっきメロンパンを食べたばかりで、二人とも何かしょっぱいものが食べたいと合意したので、海近くの海鮮が食べられるお店に入った。

「海鮮が食べたいと思ってたから、ちょうどよかったよー。お店の表の磯焼きの匂いに釣られちゃったな。」
笑いながら、五十嵐くんが言う。
「私も。ちょうどこういうのが食べたいと思ってた!」

二人で名物の生しらすや焼きイカ、サザエの壺焼きなどをシェアして食べる。
「今度は電車で来てもいいかも。こういう食べ物ってビールが飲みたくなるよね。」
食べながら五十嵐くんが言った。
「酒飲みの舌だね。すごく分かるけど。」
どの口が言う、と自分で突っ込みながら返す。
「うん、朝霞さんなら分かってくれると思った。」
嬉しそうに彼が言う。

「運転させちゃってごめんね。」
ずっと運転させてしまって、申し訳ないと思って言ってしまう。すると、
「気にしないでって言ってるでしょ。俺が勝手について来ただけだし。それに俺もすごく楽しんでるから。」
と言ってくる。その一言に安心した。
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