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第3章 延長戦は何回までですか?
照れと夕暮れ
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「撮影しているところ見てもいい?」
そんなことを言われたのは初めてで、何だか恥ずかしい。ただ、彼からお願いされるとなかなか断れない。いや、断ろうとは思えないのだ。不思議だ。
「つまらないと思うけど、いいよ。」
照れと不可解な感情を隠して、そっけなく言うと、彼は嬉しそうに目を輝かせた。その反応にまた恥ずかしくなって目を背ける。
とりあえず、まず神社に来たのでお参りをする。五十嵐くんがうちにチョコレートを取りに来たのが15時ごろだったから、今はもうすぐ夕方になろうとしている。小さな神社だから、おみくじや御守りを売る社務所ももう閉まっている。今日はバレンタインデーなのに、人気のない神社に二人でいる私達は周りからどう見えるのだろう。そう思っていると、五十嵐くんがちょうど同じことを言った。
「何だか変な感じだね。バレンタインデーなのに、神社にいるなんて。」
あまりにも考えていることが同じだったので、笑ってしまった。
しかし、のんびりしている時間はない。日暮れは刻一刻と迫りつつある。五十嵐くんもいることだし、あんまり暗くならないうちに帰ろう。猫は探し回ると逃げてしまう。まずは神社の写真でも撮っておくとしよう。伸び伸びと続く石段、夕焼けに染まる鳥居、手水舎の水の煌めき、本殿の影と光のコントラスト、気になったものをフィルムに収めていく。その間五十嵐くんは黙ってこちらを見ていた。
「五十嵐くんも撮ってみる?」
興味深かそうにこちらを見ていたので、声をかけてみる。彼は目を丸くして、
「いいの?」
と言った。その様子に可愛いと思ってしまう。おかしいな、同い年の男の人なのに。
カメラを渡してみると、恐る恐る持ってシャッターを切る。ズームの仕方、ピントの合わせ方を教えてあげると、色々なものにレンズを向けて撮り始めた。夢中になっている彼は少年みたいだ。彼の邪魔をしないように、私もトイカメラに変えて、写真を撮り始める。一眼レフとはまた違った風合いで、こういう写真も私が好きだ。
集中して撮っていると、近くでシャッター音が聞こえた。びっくりして振り返ると、五十嵐くんが私を撮っていた。そのカメラで自分の写真を撮られるのは初めてだ。
「ごめんね。珍しいから撮っちゃった。」
彼はいたずらっ子のように言った。普通ならここで私も彼の写真を撮り返すのが可愛い反応なのだろう。でも、人の写真を撮るのは古傷に触れるような気がしてできなかった。それもあって、数年前から私は人を被写体にした写真は避けている。
「勝手に撮らないでよー。変な顔してるかもしれないじゃん。」
その傷を彼に悟られないように、怒ったような振りをする。
「ごめんごめん。ついつい可愛くて。」
可愛いと言われたことで、勝手に被写体にされた不快感も忘れて照れてしまう。照れ隠しでプイッとそっぽを向く。他の人に同じことをされたら、きっと気持ち悪いと思う。でも、五十嵐くんにされてもなぜか不快にならない。この不思議な現象を、きっと彼は私を人間関係のトラブルから遮蔽してくれるプロテクターだからと無理矢理結論づけた。
そんなことを言われたのは初めてで、何だか恥ずかしい。ただ、彼からお願いされるとなかなか断れない。いや、断ろうとは思えないのだ。不思議だ。
「つまらないと思うけど、いいよ。」
照れと不可解な感情を隠して、そっけなく言うと、彼は嬉しそうに目を輝かせた。その反応にまた恥ずかしくなって目を背ける。
とりあえず、まず神社に来たのでお参りをする。五十嵐くんがうちにチョコレートを取りに来たのが15時ごろだったから、今はもうすぐ夕方になろうとしている。小さな神社だから、おみくじや御守りを売る社務所ももう閉まっている。今日はバレンタインデーなのに、人気のない神社に二人でいる私達は周りからどう見えるのだろう。そう思っていると、五十嵐くんがちょうど同じことを言った。
「何だか変な感じだね。バレンタインデーなのに、神社にいるなんて。」
あまりにも考えていることが同じだったので、笑ってしまった。
しかし、のんびりしている時間はない。日暮れは刻一刻と迫りつつある。五十嵐くんもいることだし、あんまり暗くならないうちに帰ろう。猫は探し回ると逃げてしまう。まずは神社の写真でも撮っておくとしよう。伸び伸びと続く石段、夕焼けに染まる鳥居、手水舎の水の煌めき、本殿の影と光のコントラスト、気になったものをフィルムに収めていく。その間五十嵐くんは黙ってこちらを見ていた。
「五十嵐くんも撮ってみる?」
興味深かそうにこちらを見ていたので、声をかけてみる。彼は目を丸くして、
「いいの?」
と言った。その様子に可愛いと思ってしまう。おかしいな、同い年の男の人なのに。
カメラを渡してみると、恐る恐る持ってシャッターを切る。ズームの仕方、ピントの合わせ方を教えてあげると、色々なものにレンズを向けて撮り始めた。夢中になっている彼は少年みたいだ。彼の邪魔をしないように、私もトイカメラに変えて、写真を撮り始める。一眼レフとはまた違った風合いで、こういう写真も私が好きだ。
集中して撮っていると、近くでシャッター音が聞こえた。びっくりして振り返ると、五十嵐くんが私を撮っていた。そのカメラで自分の写真を撮られるのは初めてだ。
「ごめんね。珍しいから撮っちゃった。」
彼はいたずらっ子のように言った。普通ならここで私も彼の写真を撮り返すのが可愛い反応なのだろう。でも、人の写真を撮るのは古傷に触れるような気がしてできなかった。それもあって、数年前から私は人を被写体にした写真は避けている。
「勝手に撮らないでよー。変な顔してるかもしれないじゃん。」
その傷を彼に悟られないように、怒ったような振りをする。
「ごめんごめん。ついつい可愛くて。」
可愛いと言われたことで、勝手に被写体にされた不快感も忘れて照れてしまう。照れ隠しでプイッとそっぽを向く。他の人に同じことをされたら、きっと気持ち悪いと思う。でも、五十嵐くんにされてもなぜか不快にならない。この不思議な現象を、きっと彼は私を人間関係のトラブルから遮蔽してくれるプロテクターだからと無理矢理結論づけた。
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