【こんな恋なら男なんて絶滅すればいいのに】

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◾️◾️ 言えないしごと

「お、美人じゃないか。幾つなの、歳？」

「26歳です、よろしくお願いします」

「へぇ、落ち着いて見えるね。まぁいいやヨロシク」

　年齢のサバを読むことは当たり前だが、ひと回り誤魔化すのは図太い神経出ないと出来ない。好江にはそんなことは関係はなかった、自分でそう思い込むようにしている。　
　仕事に取り掛かる前にルール説明と集金を手早く済ます。標準型のラブホテルは狭くて好きではないが好江に選択権はない、客の汚い自宅への派遣よりは断然マシである。

　好江には『派遣型マッサージ(風俗)』と呼ばれる仕事が現在の収入源である。これをしているので城東賢一の自宅に宿泊する事は制限されてしまう、この仕事の需要が夜間に高いからである。肉体労働で収入は悪くはないが、労働対価として適正かというと疑問だが、労働時間が自分で調整できるのは良い。

「ありがとうございました、ご利用の際はご指名お待ちしてます」。客を残して部屋を後にすると、ドッと疲れが寄せてくる。

「次は30分後に新規が入ってますけど行けますか？」

　送迎運転手兼、マネージャーが聞く。

「もちろん、行くわよ。稼がなきゃ」

「助かります、モモさん」と、源氏名で呼ばれる。

「お客から歳聞かれるとさ、26って言ってるんだけどさ、無理あるかな？」

「モモさんなら、ぜんぜんオッケーですよ。若いもん」

「ありがと、お世辞でも元気でるわ」

　他愛無い会話で息抜きが出来る空間が好きだった。そんな会話の中で、マネージャーが何気なくしたことで好江の心に黒い炎が上がった。

「モモさんは免許は持ってないんですか？」

「あ、そうね、もう車は運転しないわ」

◾️◾️ 黒い炎

「アタシを捨てて父親との生活を選んだのよ、未唯は」

「捨てたなんて事はないよ、未唯ちゃんにも選択の自由があったと考えてあげれば？それに好江がひとりだから、こうして付き合っていられるのも事実だし」

「そうかしら？アタシを裏切ったりするから、変質者に付け狙われて怖い思いしたんじゃないのかな」

　変質者とは武井隆のことである。元旦那の山ノ井と娘の未唯に、タカシを利用して不安と恐怖の嫌がらせをしたのは好江の計画である。もちろん主たる目的は、好江の稼いだ金を当てにしてヒモ生活をしていたタカシに代償を払わせることだが、一石二鳥とはこのことだ。

「そんな事は考えないで、気持ちが暗くなるよ」

　一生懸命に励ましてくれている賢一だったが、好江は心の隅で『オマエもアタシを都合よく使ってた時期があったわよね』と思っていた。その代償は(決して不倫関係を他言出来なかった)愛人に妻子を轢き殺されるという、大きなものとなってしまったが。

「もう許してあげるわ」

「そうしてあげなさい」

　会話は成立していたが、内容は全く一致していない。好江の『許す』は賢一への言葉であり、未唯へ向けてはいなかった。何も知らない賢一は娘のことを思ってのことだと思っていた、まさか自分に向けられたものだと知らずに。