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第1話 猫と異世界 前編

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                                   <1>

   ドアを開けると春の日差しが容赦なく体に突き刺さっていく。あぁ、今日からは高校2年生になるのか……そう思うと嬉しさなんかよりは憂鬱という二文字が頭にこびり付く

   「ったく、さっさと授業が終われば気が楽なんだけどな」

   そう言いながらも足は止まらず学校へと運んでしまう、しかし何故か足が止まった。見たくはなかった、決して見たくはないし遅刻ギリギリということもあって関わりたくはなかった──三歩下がるとそこには白色の猫が横たわってぐったりとしていた

   「おい、大丈夫か?  ──おい!  くそっ、大丈夫じゃないなこれは」

   よく見れば猫の足に切り傷のようなものがありそこから血がぽたぽたと流れ落ちていっている。ポケットからハンカチを取り出して猫の足に結びつける、止血だ

   「ふぅ、ひとまずこれで血は止まるだろう。でもこのまま放置はさすがに危ないよな」

   「ニャー」

   白い猫はこちらに顔を向けると小さく甘えるような声で鳴いた

   結局学校の1時限目が終わっているであろう時間帯にやっと猫が歩き出し古い屋敷に入ってくのを見届けてから学校へと歩き出した

   「そういえば──こんなとこに屋敷なんてあったかな?」

   誰にも聞こえないくらいの小さな声で自分自身に問うてみる、しかし答えは見つからない

   「ニャー」

   猫の鳴き声が聞こえたような気がして後ろを振り向くがそこには古い屋敷がぽつんとあるだけだった

   「気のせいか」

                                     <2>

   「遅い! 一体なんで遅刻なんてするのさ、ほら怒らないから理由を言ってごらん?」

   学校へ着くなり生徒会長に捕まりこうして生徒会室で正座させられているこの状況に頭が追いつかないが遅刻は遅刻だ、理由をきちんと話すべきだろう

   「実はさ、怪我した猫がいてそいつを助けてたらこんな時間になった。すまん白井」

   生徒会長こと白井優菜はため息をついてプリントをこちらに手渡す

   「如月ってほんとバカよね、お人好しっていうかただのバカっていうか、バカだけど優しいし……じゃなくて!  はい、これ一応反省文ね。形だけでも書いてくれないと私が困るからね」

   渋々受け取り枚数を数えるが5枚はあるようだ、見間違いだと嬉しいが現実のようだ。まぁ帰ったらすぐに書けばいいか

   「わかった、次からは気をつけるよ。またな」

   ドアノブに手を置いて開けようとしたとき白井が肩に手を置いた

   「なんだ?」

   「あのね、実は一つだけお願いがあるの」

   「お願い?」

   白井からお願いなんて初めてだ、だがそれと裏腹に凄く嫌な予感がするのは気のせいだろうか、それともなにか気になるというか聞かなければならないような気がしてならない。とても不思議な気持ちだ

   「実はね、この住所の屋敷にこれを持って行ってほしいの」

   そう言って箱をこちらに押しつけてくる。中身を見るとみたらし団子が大量に入っていた、思わず白井をみる

   「勘違いしないで」

   言おうとしたことを読んだのか白井は目を釣り上げる。そして箱を指を置いてトントントンと軽やかなリズムで音を立てていく

   「その屋敷に住む人がこの高校の名物を買いたいって言ってくれてね。でも私は生徒会の雑務で忙しいし、なら遅刻魔の如月にやらせたほうが楽できるかなーって」

   おい、本音がめっちゃ混じってるぞ。楽できるかなーじゃねえよ。こっちの気持ちはどうなるんだよと心の中で思わずツッコミをいれる。しかしこの流れは完全に行かなければならない空気だ。それになんだがほんとに行かなければならないような気がしてならない。どうも気になる

   「わかったよ、行くよ。行けばいいんだろ?」

   「あら、話が速いわね。じゃあ頼んだわよ遅刻犯の如月くん」

   後ろでやったー休みが増えた等と喜びながら紅茶を飲んでる会長はほっといて生徒会室から出て教室へ向かう。この時間なら3時間目に間に合いそうだな

   教室へ着くなり机に突っ伏して寝たりと時間を有意義に潰していく。そんな感じで放課後になった

   「さてと、この住所の屋敷へ行けばいいんだな?  あれ、ここって」

   目の前の屋敷には見覚えがある。というか朝見たばっかだった、ここは確か──

   「ニャー」

   そう、猫が帰っていった屋敷だ

   「偶然か……?  とにかく中に入ろう」

   玄関と思われる扉に手を触れるとまたしても中から猫の鳴き声が聞こえてきた

   「何がどうなってんだよ……まったく」

   悪態をつきながら玄関の扉を開け中に入り込む

   「お邪魔しまーす。お届けものです、誰かいませんかー?」

   反応がない、というか玄関に靴なんてない。もしかして誰も住んでないのか?  いや、そんなはずがない。だとしたらなんで、なんのために──

   「ニャー」

   「うわっ、びっくりした。朝の白猫じゃないか」

   真横で鳴き声が聞こえた時はかなりびっくりしてしまったがこの屋敷には猫しかいなさそうだ

   「うーん、また出直すか」

   「まって」

   「え、声……?」

   帰ろうとしたとき、後ろから中学生くらいの女子の声がした。振り返るとそこには──猫がいた

   「気のせい、なのか?  にしても」

   「ようこそ、私の屋敷に」

   「え、え、は?  待ってくれ、どういうことだよ、なんで猫が喋って……」

   すると猫がみるみる人間の形になっていった。白色の髪が肩の高さまで伸びていて頭の上には耳がついていて水色の瞳に外国人みたいな可愛らしい顔立ち、身長は150センチくらいだろうか。一言でその猫──猫少女(?)を表すなら美少女だった

   「さて、自己紹介をしよう。私は猫宮咲という」

   猫宮咲と名乗った少女はニコリと笑って

   「ただの、猫だ」

    そう付け加えた


                   

   

   
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