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あとしまつ・4

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「――そしてあのお店を壊したら! やっとお姉様は怒ってくれたのです! あのときのお姉様は素敵でした! わたくしだけを見てくださって! わたくしに強い感情を向けてくださって! あのときだけはお姉様の世界にわたくしだけが存在していたのです!」

 熱に浮かされたようにアリスは語った。今までの私と彼女の勘違い・・・を。

 ちょっと待って。

 ちょっと待ってほしい。

「……それじゃあなに? アリスは、私を躾けていたつもりだったの? 良い子にするつもりだったの?」

「えぇ! ですがそれは間違っていたのですね! だってお父様とお母様は処刑されるほど悪い人間だったのです! そんな二人から虐げられていたお姉様は元々良い子だったに違いありません! そんなお姉様を躾けようとしたわたくしも悪い子であり、処刑されて当然・・・・・・・なのでしょう!」

「…………」

 この子は、一体何なのだろう?

 自分というものがないのだろうか?

 判断基準はいつも両親の言動で。親が嫌うから私が悪い子だと信じて。親が悪人だったから、親が嫌っていた私が良い子だったに違いないと確信して……。

 あぁ、でも、仕方ないのか。

 幼い頃から働かされて。たぶん友達と一緒に遊ぶような時間もなくて……。あの母親であれば子供が遊ぶ時間など許さず働かせていたはずだ。

 必然的にアリスの世界は母親と自分だけになり。判断基準も母親の言動だけになる。これで友達との交流があればもっと異なる価値観を得られたのだろうけど……。彼女にとっての外の世界は、媚を売ってお金を稼ぐためのものでしかなかったのだ。

 そしていきなり貴族社会に放り込まれ。
 子供の教育は妻と家庭教師の仕事。そう考えているあの父親は何も教えなかったはずだ。

 義母は元々平民であり、貴族社会の常識なんて持っているはずがない。

 頼りの綱は家庭教師だけど……。そもそもの問題として。没落寸前のうちがレベルの高い家庭教師を雇えるはずがないのだ。

 私の場合は幼い頃に貴族である実の母親お母様から色々教わることができたし、前世の知識もあったからそれなりに貴族社会で貴族らしく活動できたと思う。もちろん完璧じゃないけれど、取り繕うことくらいはできていたはずだ。

 でも、アリスは?

 庶民として生きてきたのに突然貴族社会に放り込まれ。母親も平民だから貴族としての礼儀や常識を知らず。安く雇える家庭教師ガヴァネスはクビになることを恐れて厳しいことは言わないまま、アリスのご機嫌取りに終始し、碌な教育を施さなかったはずだ。

 貴族について何も知らないアリス。

 だからこそ、彼女は真似をしたのだ。真似をするしかなかったのだ。もっとも近くにいる貴族だった父親と。もっとも信頼できる母親の言動を。「貴族とはそういうものだ」と信じて。

 私への虐待も、母親からの『躾』であり、貴族にとっては普通であるはず・・

 シャーロットわたしは父親からは無視され、母親からは厳しく『躾』される。
 逆に父親から可愛がられ、母親も『躾』をする必要がないアリス。

 何の知識もないままそんな状況に放り込まれたのなら……姉よりも自分の方が『上』であると、そう勘違いしてしまっても仕方がないのかもしれない。

 なんということだろう。
 私は、アリスのことを何も知らなかったのだ。


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