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殿下は泣いていいと思う

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 とある日。
 相変わらずお客さんのいない店内で。さも当然のような顔をしながらお茶会をするマリーとヴァイオレット様だった。

 もしや、店内に貴族令嬢がいるからお客さんも入りづらいのでは……? 特にヴァイオレット様なんていかにもな『偉い貴族!』って見た目をしているし。

「……あら? 銅貨?」

 そんな貴族の中の貴族なヴァイオレット様が作業台近くに置いてあった額縁と、その中に収められた一枚の銅貨に気づいたようだ。

「なぜ銅貨をわざわざ額縁に入れて飾っておりますの? アンティークというわけでもなさそうですし……」

 ヴァイオレット様の当然の疑問にマリーが答える。

「王太子殿下からお支払いいただいた銅貨らしいですわよ?」

「……あの男はさっそくシャーロットに媚を売っていますの? 花を買う程度で気を引こうとするとは……せせこましいことで」

 いやいやヴァイオレット様。殿下に対して『あの男』って。媚を売るって。せせこましいって。いくら公爵令嬢でもヤバいのでは?

 と、私としては冷や汗ものなのだけど、なぜかマリーは深く頷いている。

「王太子ともあろう者が普段から銅貨を持ち歩いているはずがありませんから……どうせこの店で使うために従者に用意させたのでしょうね」

「……気持ち悪い」

 あまりにもあまりな発言についつい殿下のフォローに回ってしまう私。

「いやいやヴァイオレット様。容赦なさすぎですって。それに王太子殿下でも町に出るときは銅貨くらい持って行くものなのでは?」

 と、私としては真っ当なツッコミをしたつもりなのだけど。なぜかヴァイオレット様だけではなくマリーも呆れ顔だ。

「シャーロットは甘いですわねぇ」

「まったくね。王族や高位貴族が自分でお金を払うはずがないでしょう? 普通の支払いは小切手で十分ですし、もし庶民の店で買い物をしたくなったときは従者から受け取ればいいのですから」

「それをせずに、シャーロットの店で花を買うと決め、わざわざ事前に従者から銅貨を受け取っておく……」

「気持ち悪いですわね」

「意識しすぎですね」

 散々に言われる殿下。なんかもう、殿下に代わって泣いてあげたくなる私であった。

「……そうね」

 と、一人で何か納得したような顔をするヴァイオレット様。なんだか嫌な予感というか面倒くさそうな予感。

「殿下は初めての客となり、アルバートはこの店を準備。マリーがテーブルセットをプレゼントしたというのなら……わたくしも何か与えるべきではなくて?」

 う~ん予感的中。面倒くさいことになりそうな。だってヴァイオレット様って高位貴族の中の高位貴族だし。一般的な常識など存在しないのだ。どれくらい存在しないかというと、プレゼントを『あげる』ではなくて『与える』とか言っちゃうあたり。

「そうね。花屋なのだから……宝石を散りばめた黄金の花瓶でも与えましょうかしら?」

「いやいや、いやいやいや」

 そんなもんどこで使えというのか。結婚式場に頼まれてアレンジメントを作るときに使う? そうすればちゃんと器は戻ってくるだろうし……。いやダメだ。花嫁に勝っちゃうキラキラしさだ。お花と器はあくまでサブ。主役である花嫁を引き立てるものでなければ。










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