上 下
51 / 84

伯爵家でどんな生活を?

しおりを挟む


「つまりカラック様は殿下やアルバート様と共謀して、私を誘拐しに来たのですね! そして私を実験動物にしようと!」

「「待て待て待て待て」」

 思わずシャーロットとカラックの間に割り込むアルバートとクルードだった。何が悲しくて好きな女性から誘拐犯扱いされなければならないのか。

 アルバートとしては結婚契約終了後もシャーロットが元気そうで安心したし、この勘違いには懐かしさすら感じられる。……だが、それと『人を誘拐して実験動物として売り渡すような男』と勘違いされるのは話が別だった。

 懇々と。懇切丁寧に誤解を解いていくアルバートとクルード。さすがのシャーロットもダブルで説明&訂正を繰り返されるとボケる暇がないのか、比較的素直に『カラックがシャーロットに興味を抱いた』と理解させることができた。

「しゃ、シャーロット嬢は状態保存の魔法を掛けることができるのかな?」

 警戒しながら。言葉を選びながら尋ねるカラックだった。下手な発言をすればあんな大惨事となるのだから当然の反応か。

「そうですね」

「どこで誰から習ったのか聞いてしまっても……?」

「う~ん……。自然と覚えていました?」

「自然って。いくら本来の状態保存がほとんど価値のない魔術だからといって、そんな自然に覚えられるとは……」

「とは言いましても……。別邸に残されていた魔導書を読んで、使えそうだから覚えただけですし」

「使えそう、とは。貴族令嬢が一体どんな場面で活用できると?」

「ぼうけんしゃ――街で確保できた食糧を保存するとか、使用人さんが持ってきてくれたごちそう・・・・を少しずつ食べるためとか」

「…………」

 貴族令嬢が『食料を街で確保』とは、どういう状況なのだろう? 『冒険者』と口にしかけていたから、冒険者の協力者から食料を得ていたとでも?

 興味本位で庶民の食事を欲しがる貴族はいないでもないし、貴族相手なら儲かるので冒険者も付き合ってくれるだろう。好奇心旺盛なご令嬢のお遊び。そう考えるのが自然だ。

 しかし、使用人が持ってきてくれたごちそうを少しずつ食べるという言い方には違和感がある。貴族の食事なんて基本的にはすべてごちそうであり、一食ずつ新たに準備されるもので、『少しずつ食べる』ものではない。

「…………」

 もしかしたら。伯爵家では満足な食事すら出ていなかったのではないか? 食料を街から得なければならなかったのではないか? 見かねた使用人たちが『本邸』で出た食事の余り物を『別邸』のシャーロットにこっそりと持ってきていたのではないか?

 伯爵家内におけるシャーロットの地位。親との不和の噂。それらをほぼ同時に思い出したアルバートたちがシャーロットを問い詰めようとすると――

「――ひぃ!?」

 若い女性の悲鳴が店内に響き渡った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

処理中です...