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閑話 アリス
しおりを挟むシャーロットの妹、アリスは不愉快そうな顔を隠しもせずに待たせていた馬車に戻った。
学園時代。クルードやアルバートはシャーロットと親しく交流していたと聞いているのに、自分に対してはなんて冷たいことだろう。
「ねぇチェシャ、どう思う?」
つまらなそうに髪を弄びながら、自分付きのメイドに問いかけるアリス。
「そうですね、やはりお嬢様の美しさに照れているのではないでしょうか?」
「そう? でもお姉様とは学園で親しくしていたのでしょう?」
「シャーロット様は、あの見た目ですから。殿下たちも哀れんで仲良くしてくださっていたのでしょう」
「見た目……。そんなものかしら……?」
首をかしげるアリスに対し、チェシャが今思い出したかのように両手を叩いた。
「そうでした。とうとうシャーロット様が伯爵家から追放されるそうですよ?」
「ほんと!?」
「えぇ。これで伯爵夫人の寵愛はますますお嬢様に注がれるでしょうね」
「わぁ! わぁ! 素敵だわ! お姉様はもう伯爵家に戻らないのね!? お父様やお母様に顔を見せないのね!」
「えぇ。御二方も喜ばれることでしょう」
「素敵! 素敵だわ! これでやっと平穏が訪れるのね!」
馬車の中で小躍りするアリスだが、ふと気づいたように小首をかしげた。
「あら? でも伯爵家を追放されたらお姉様はどこに行くの? アルバート様からのところも追い出されてしまったのでしょう?」
「大丈夫でしょう。シャーロット様は庶民に混じって花屋を始めたそうですし」
「はなや?」
「えぇ。公爵家から追い出されるときに金をせびったのでしょうね。まったく情けない……」
「――そうだわ!」
名案を思いついたのかアリスが手を叩く。
「伯爵家から追放されたことを、お姉様に教えてさしあげましょう!」
「……いえ、それは。お嬢様が街に行くことを伯爵も許さないでしょうし……錯乱してお嬢様に危害を加える可能性も……」
「こっそりと行けば平気よ。ふふふっ、楽しみだわぁ。お姉様はどんな顔をするかしら? 悔しがってくれるかしら? 睨み付けてくれるかしら? もしかして負け犬みたいに汚い言葉を投げつけてくだっさったり? うふふっ、楽しみだわぁ。とっても楽しみだわぁ」
「……ご随意に」
漏れそうになったため息を何とか抑えつつ、チェシャは椅子に座ったまま頭を下げたのだった。
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