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虐めてません!

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 花束に満足したのか殿下は再びお帰りになった。

 しばらく警戒していたけれど、どうやら三度みたび戻ってくることはなさそうだ。……いやお客さんなのだから何度来ていただいてもいいはずなんだけどね。それはそれとして殿下は警戒しなければならない存在なのだ。なにせ女に飢えれば大して興味がない私ですら口説いてくる野獣なのだから。

 なにやら殿下から「名誉毀損だ!」とのツッコミをいただいた気がするけれど、気のせいに決まっているので気にしないことにする。

 テーブルセットに腰を落ち着け、殿下から支払われた銅貨をテーブルの上に置く。

「……むふふ」

 銅貨を眺めながら私はついつい気持ち悪い声を漏らしてしまった。いやでもしょうがないじゃん? 前世の頃から夢だったお花屋さんとして、はじめて稼いだお金なのだから。

 ただの銅貨。
 王子様だからと言って特別な貨幣を使っているわけでも、新品というわけでもない。何の変哲もない銅貨だ。

 しかし、私にとっては価値のある銅貨なのだ! こう、前世からの怨念が篭もっているというか因縁が篭もっているというか……あらなんだかイメージが悪いわね?

 これは額縁を買ってきて飾っておきましょう。

 買うものがどんどん増えていくけれど……まぁまずは予定通り買い物に行きましょうか。お店で使う資材は後日にするとしても、食品を買わなければ飢えてしまう。

 あ、この店って食品用の冷蔵庫ってあるのだろうか? まぁ無くても最悪お店の切り花用冷蔵庫に突っ込んでおけばいいんだけどね。さすがにそれは見栄えが悪いでしょう。

 色々と考えながら私が店を出て、鍵を掛けると――

『――にゃあ』

 こ、この声は!

 私が振り向くと、そこにいたのはさっきの黒猫ちゃんだった! ふふふ! こうして再び現れるとは、やはりあの頬引っ掻きは照れ隠しだったのね!

 先ほどはいきなり距離を詰めてしまったので驚かせてしまったみたい。なので、今回はジリジリと黒猫ちゃんに近づいていく。

「にゃあ!」

『にゃ、にゃあ……』

 じり、と一歩近づく私。

 じり、と一歩後ずさる黒猫ちゃん。ふふふ、恥ずかしがらずに私の胸に飛び込んできてくれてもいいのに!

 そのまましばらくジリジリしていると、

「――ちょっとあなた。猫を虐めちゃいけないわよ。可哀想じゃないの」

 と、横から声を掛けられた。
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