上 下
26 / 84

王太子クルード・2

しおりを挟む

「――ん?」

 シャーロットの店からの帰り道。近くに待機させていた馬車に乗ったクルードが王城を目指していると……強大な魔力の乱れを感知した。

 とはいえ距離が離れれば離れるほど魔力の探知は難しくなるので、王城にいる人間や貴族街にいる貴族では気づかないだろうが。

 また、魔力を有する庶民は滅多にいないため、魔力の探知もできない。だからこそあの魔力の乱れを感じ取ったのはクルードと、護衛を兼ねた馬車の御者(運転手)くらいのはずだ。

「……止めてくれ」

 車内から御者に命ずると、すぐに馬車は停止した。

「先ほどの魔力の乱れでしょうか?」

「あぁ。何らかの事件の可能性もあるからね。確認した方がいいだろう」

「危のぅございます」

「なに、おそらくはシャーロットが原因だからね。危険はないさ」

 シャーロットは本来の髪色である『銀髪持ち』に相応しく人を超えた魔力量を誇っているが、普段は上手いこと隠している。学園の生徒でも生徒会役員以外では知らないはずだ。

 ただ、感情が高ぶったときなどは簡単に魔力が漏れてしまうし、本来ならわざわざ戻って確認するまでもないことだ。本当に事件があれば(アルバートの息が掛かった)騎士団が駆けつけるのだし。

 だからこそ、確認というのは言い訳だ。

 魔力の乱れを確かめるため。そう言い繕えば多少会議に遅れても許される――つまり、もう少しだけシャーロットと同じ時間を過ごすことができるのだから。

 簡単に女を口説くくせに、『本命』相手にはずいぶんと回りくどい。それを分かっている御者は大人しく馬車を旋回させ、今来た道を戻り始めたのだった。

 そう。本命。

 例えば。奇跡的にクルードがシャーロットを口説き落とせたとして。そのまま結婚するのは難しいだろう。なにせクルードは未来の国王候補なのに対し、シャーロットは伯爵令嬢でしかない。
 しかも、実家は没落気味でなんの財産も政治的権力も持たない伯爵家だ。王家のためにならない以上、王妃として迎えるのは不可能に近い。

 もしもクルードがシャーロットとの結婚を望むなら。その時は王位を諦め、王太子の地位を弟に譲り、自分は大公として半隠居生活をしなければならない。それだけの覚悟と行動が求められるのだ。

 ――それでもいいか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

【完結】何も知らなかった馬鹿な私でしたが、私を溺愛するお父様とお兄様が激怒し制裁してくれました!

山葵
恋愛
お茶会に出れば、噂の的になっていた。 居心地が悪い雰囲気の中、噂話が本当なのか聞いてきたコスナ伯爵夫人。 その噂話とは!?

後妻は最悪でした

杉本凪咲
恋愛
新しい母と妹は私を容赦なく罵倒した。 父はそれを知っていながら無視をした。 全てを変えるために、私は家を飛び出すが……

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

でしたら私も愛人をつくります

杉本凪咲
恋愛
夫は愛人を作ると宣言した。 幼少期からされている、根も葉もない私の噂を信じたためであった。 噂は嘘だと否定するも、夫の意見は変わらず……

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

処理中です...