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王太子クルード・2
しおりを挟む「――ん?」
シャーロットの店からの帰り道。近くに待機させていた馬車に乗ったクルードが王城を目指していると……強大な魔力の乱れを感知した。
とはいえ距離が離れれば離れるほど魔力の探知は難しくなるので、王城にいる人間や貴族街にいる貴族では気づかないだろうが。
また、魔力を有する庶民は滅多にいないため、魔力の探知もできない。だからこそあの魔力の乱れを感じ取ったのはクルードと、護衛を兼ねた馬車の御者(運転手)くらいのはずだ。
「……止めてくれ」
車内から御者に命ずると、すぐに馬車は停止した。
「先ほどの魔力の乱れでしょうか?」
「あぁ。何らかの事件の可能性もあるからね。確認した方がいいだろう」
「危のぅございます」
「なに、おそらくはシャーロットが原因だからね。危険はないさ」
シャーロットは本来の髪色である『銀髪持ち』に相応しく人を超えた魔力量を誇っているが、普段は上手いこと隠している。学園の生徒でも生徒会役員以外では知らないはずだ。
ただ、感情が高ぶったときなどは簡単に魔力が漏れてしまうし、本来ならわざわざ戻って確認するまでもないことだ。本当に事件があれば(アルバートの息が掛かった)騎士団が駆けつけるのだし。
だからこそ、確認というのは言い訳だ。
魔力の乱れを確かめるため。そう言い繕えば多少会議に遅れても許される――つまり、もう少しだけシャーロットと同じ時間を過ごすことができるのだから。
簡単に女を口説くくせに、『本命』相手にはずいぶんと回りくどい。それを分かっている御者は大人しく馬車を旋回させ、今来た道を戻り始めたのだった。
そう。本命。
例えば。奇跡的にクルードがシャーロットを口説き落とせたとして。そのまま結婚するのは難しいだろう。なにせクルードは未来の国王候補なのに対し、シャーロットは伯爵令嬢でしかない。
しかも、実家は没落気味でなんの財産も政治的権力も持たない伯爵家だ。王家のためにならない以上、王妃として迎えるのは不可能に近い。
もしもクルードがシャーロットとの結婚を望むなら。その時は王位を諦め、王太子の地位を弟に譲り、自分は大公として半隠居生活をしなければならない。それだけの覚悟と行動が求められるのだ。
――それでもいいか。
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