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リュヒト様

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『今日は何か用事があるのか?』

「はい。お花をいくつかもらおうと思いまして」

『……そこは嘘でもいいから「リュヒト様に会いに来たんです」と言うべきではないか?』

「? リュヒト様は嘘をついたら見抜いてしまうでしょう?」

『いやそれはそうなのだが……そういうことではなくてだな……』

 なぜかつまらなそうな顔をするリュヒト様だった。

 まぁリュヒト様は貴族とはまた違った高貴な御方らしいし、私程度ではその悩みを理解することもできないでしょう。ここはさっさと用事を済ませて、静かな日常を取り戻してもらいましょうか。

「とうとうお花屋さんを始めることになりましたので、これからはかなりの量をもらいに来ると思うんですけど」

『あぁ、そんなことは気にするな。この『世界』は元々シャーロットのものなのだからな』

 よく理屈は分からないけど、そういうものらしい。なんでもリュヒト様は居候の身なのだとか。高貴な存在なのに居候……。

『しかし、花屋か。お前は労働などする必要はないと言っているだろう?』

「そりゃあリュヒト様みたいに生まれながらの高貴な存在なら働かなくてもいいんでしょうけど。私の場合は働かなければ修道院行きか野垂れ死になんですよ」

『……お前は何も理解していないのだな』

「何も……? あぁ、まだ若いのだから手っ取り早く身体を売って稼いでしまえと? う~ん確かに銀髪は珍しいですから物好きが買ってくれるでしょうけど……」

『お前はバカか?』

「ぐっ、そりゃあリュヒト様に比べれば回転の遅い頭をしているかもしれませんけど……」

『……お前はアホなのだなぁ……』

 しみじみと言われてしまった。ハイエルフはやはり辛辣らしい。

 これ以上呆れられたら心に大ダメージを喰らいそうなので、さっさとお花を摘んでしまいましょう。

 とりあえずメインはバラ。これはこっちの世界でも人気がある花なのだ。

 切り花を長持ちさせるなら『水切り』という、バケツの中に貯めた水の中に茎を入れ、ナイフで茎を斜めに切り取る方法をとるのが一般的だ。

 でも、バラの木から切り取るときに水切りをするのは不可能なので早さ重視でハサミを使う。

 バラの収穫をするときに重要なのはつぼみの堅さだ。一般の人だと満開のバラを摘んでしまうものだし、自宅で楽しむならそれが正解だと思う。

 でも、お花屋さんに並べるなら話は別。満開のバラを収穫するとお店までの輸送やお店に並んでいるときに花が終わってしまうからだ。

 だからこそ、お花屋さんがバラを収穫するときはつぼみが堅い――まだ咲いていないものを取ってしまうのだ。五分咲きとか七分咲きとかあるけれど、これは収穫してからお店に着くまでの時間で逆算すればいい。

 うちの場合は開錠オープンのおかげでお店と直通しているから七分咲きくらいのバラを次々に収穫していく。

『……花の良さなど我にはよく分からぬが、シャーロットが楽しそうならばよいか』

 どことなく嬉しそうな顔でリュヒト様が私の作業を見守っていた。それはいいですけど、ひたすら後ろ髪を弄ぶのは止めてもらえません?


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