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閑話 王太子殿下
しおりを挟む――その頃。
この国の王太子、カインは机に向き合っていた。
高位貴族や王家に多い、金髪。その金髪の中でもひときわ輝くような色味をしているのが『王家の色』と称えられる黄金の髪色であった。
風貌はいかにも優しげ。部下がどんな失敗をしても笑って許し、もう一度チャンスを与えそうな見た目をしている。
……もちろん、実際はそんなこともないのだが。
天使のような外見に、中々の腹黒さを持つ性格。それが次期国王であるカインという男であった。
そんなカインは今、書類仕事に没頭されていた。あの愚かな兄がやらかしてくれたおかげで、本来しなくてもいい仕事が発生し、その対応に日々忙殺されているのだ。
これほどまでに忙しく、油断のならない状況でもなければ、視察と称してリリーナに会いに行けたのだが……。
…………。
そろそろ暗殺してやろうか。
本気で検討しはじめたカインの元に、音もなく近づく執事姿の男がいた。
「殿下。ギュラフ公爵が亡くなられました」
「……へぇ、そうかい。となると、リリーナはどうなるのかな?」
書類を処理する手を止めないまま、執事に問いかけるカイン。
「それが……、次期公爵、ケイタス卿はレディ・リリーナを追放したようでして……」
レディ・リリーナ。
本来であれば既婚者であるリリーナは『ギュラフ公爵夫人』と呼ぶべきところ。だが、その呼び方はカインが一気に不機嫌となるので使用禁止というのが側近たちの共通認識であった。
「追放。追放か……」
ペンを動かすことを止めたカインはしかし、顔を上げることなく思考に没頭する。
「教会に確認を。この場合、リリーナの地位はどうなるのかと。……もちろん、嫁入り先から追放されたのだから、離婚状態と判断できるだろうけどね」
「……ははっ」
そういう風になるよう圧力をかけろ。優秀な執事はそのように判断した。
「さて。嫁入り先から追い出されたのだ。行く当てもないだろう。ここは早急に保護してあげないといけないな」
何としても見つけ出せ。
リリーナの実家・リインレイト公爵家より早く。
察しのいい執事はそう判断した。
優先順位を頭の中で確認しながら、執事が一つ問いかける。
「ギュラフ公爵家――ケイタス卿はいかがなさいましょう?」
「放っておけばいいさ」
「……よろしいのですか?」
「放っておけば、勝手に自滅するだろう。そもそも我が国に公爵家は多すぎるからね」
「…………承知いたしました」
ギュラフ公爵家は取りつぶし。
もはやそれは決定事項なのだろうと察した執事は、優先事項を片付けるために部屋をあとにした。
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