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約束
しおりを挟む≪溶岩に落っこちたわ!≫
犠牲となった子供たちのお墓から洞窟に戻ると、アズもまた戻ってきた。
溶岩に落っこちても無事とか、さすがは聖剣である。……いや、髪の毛先が焦げているような?
そんなアズの姿を目にしながらも冷淡な態度を崩さないフレイル。
≪マスターに乱暴狼藉を加えようとするからです、この駄剣≫
≪感謝の印に抱きつこうとしただけです!≫
≪そういうのを『せくはら』と言うらしいですよ? マスターの前に住んでいた世界では≫
言い争うアズとフレイル。なんだか仲がいいというか、悪友感があるというか。というかなんで前世の言葉を知っているの? マスターとは意思疎通ができるってヤツ?
「……お姉様は本当に、周りに人が集まってきますわね。良くも悪くも」
良くも悪く持ってどういうことよ? そもそも魔導具だから人ではないのでは? いやでも人格があって意思疎通ができるのだから『人』でもいいのかしら?
◇
誘拐された獣人の子供たちは精神的疲労のためか早々に眠ってしまった。そういえばまだ名前を聞いてなかったわね。女の子の方は(男の子に名前を呼ばれていたから)セナだろうと分かるけど。明日は自己紹介をしましょうか。
私はまだ眠くなかったし、ミアもそうみたいなので、私たちは雑談で時間を潰すことにした。
「最近の社交界はどう?」
「そうですわねぇ。誰が浮気しているとかの下世話な話ばかりですね。相変わらず。……あ、でも最近は王太子殿下の婚約者が誰になるかの話で持ちきりですわ」
「あー、あの子ももう16とか17歳くらいだものねぇ」
貴族なら婚約者がいてもおかしくないというか、王太子ならとっくの昔に有力貴族の娘を婚約者に迎えているはずだ。
だというのに殿下に婚約者がいないのは……。前の王太子の廃嫡やらなんやらでゴタゴタしていたというか、現在進行形でゴタゴタしているからだ。
本来の王太子であったあのバカは私の婚約者だった。しかしあのバカは自滅で廃嫡されてしまったので、弟であるカイン殿下が新たに王太子となられたのだ。
私が最後に会ったのは、彼が12歳くらいの頃か。私のことを『お義姉様』と呼び慕ってくれる可愛い弟分だったのだ。いやほんと、素直でいい子だったのよ。なんであの子じゃなくてアレが婚約者なのかと親を恨むほどに。
「カイン殿下の婚約者候補は、やっぱりミアが筆頭なの?」
年齢も同じくらいで、公爵家令嬢。しかも兄は殿下の側近候補で、将来は近衛騎士団長になるだろう人。ほぼ決まりじゃないだろうか?
「えー……?」
嫌っそうな顔をするミアだった。未来の王妃になれるかもしれないのにずいぶんな反応だこと。
「そんなに嫌?」
「……そもそもお姉様の事件がありましたし。王太子殿下の婚約者という地位や、結婚そのものに夢を抱けませんわね。まぁ、貴族令嬢ですから家のための結婚は仕方ないと諦めていますが、進んで婚約者になるつもりはありません」
私のアレコレは妹分の結婚観というか人生観に大きな傷を残してしまったみたい。あの事件に関して私は何も悪くないはずなのだけど、それでも少し申し訳なくなってしまう。
「結婚もそんなに悪くはない……わよ?」
いや私の結婚生活は『夫と妻』というよりは『父と娘』だったので参考にならないか……。しかも二回も追放されているし。改めて考えると波瀾万丈な人生を送っているわね私。実際はそれなりにエンジョイしているんだけどね私。
「お姉様ならば、いざとなればすべてを捨てて自由に生きられるのかもしれませんが……」
そんな私を自由人みたいに言うの、やめてもらえないかしら? そもそもほんとにそんな人間だったなら元王太子から婚約破棄された時点で嬉々として自由への道を歩き始めたはずだし。
……いや、ギュラフ公爵家に大人しく嫁入りしたのは、自由に生きるにはもう少し誰かの庇護下での準備期間が必要だと判断したからであり。準備ができたらさっさと出て行くつもりだったんだけどね?
ただ、お父様の隣が予想以上に居心地良かったから居着いてしまっただけで。
「わたくしは、そこまで自由には生きられません」
すべてを諦めたような声でつぶやくミアだった。
顔では笑いながら相手を蹴落とすことばかり考えている貴族社会において。ミアという少女は本音でやり取りできる数少ない友達であり、妹分だ。
そんな彼女が、もしも本気で望むなら――
「――もし。もしもすべてが嫌になって、全部捨ててしまいたいと思ったなら。その時は私に相談しなさい。あなたの願いを、叶えてあげるから」
私は、そんな約束をした。
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