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ごはん

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 剣の柄を握ったままの状態で、剣自身が飛び回ったせいで振り回され、腕やら肩やらが痛い。めっちゃ痛い。

≪私が動いた方が早いと判断しました≫

 悪気もなくしれっと答える聖剣だった。そりゃあ王太子妃になるための勉強ばかりで剣の修行なんてしてこなかったけど……。そんな私がへっぴり腰で剣を振り回すよりは早く終わるでしょうけど……。

 まぁともかく。ゴーレムは倒せたし、ゴーレムを生み出した水晶は(うまいことゴーレムに踏みつぶされなかったので)回収。空間収納ストレージにしまっておく。こうすれば本人以外は取り出せないからね。

 さて、これからどうしよう? 剣を片手に頭を悩ませる私だった。

 聖剣アズベインと判明したからには、元の場所に置いて行くわけにもいかないわよね。とりあえず王宮に申請しないと。遺失物届でいいのかしら?

 となると、この剣を王都まで持って行くことになるのだけど。

「……空間収納ストレージにしまっていい?」

≪断固拒否します。私のマスターなのですから、堂々と私を腰に差してください≫

 剣にも意志があるみたいなので一応確認したら、断固拒否されてしまった。腰に剣を佩く貴族令嬢って……。

 ま、どうせ腫れ物扱いなんだから別にいいか。そもそももう『令嬢』でもないし。

 山賊が使っていたらしい革製のベルトを見つけたので、それを使って腰に固定。黒い喪服に華美な装飾の剣。似合っているような、いないような。

 聖剣については一応決着したので、次は当初の目的である子供の保護と、ご飯を食べさせることだ。

 ゴーレムのせいで洞窟が滅茶苦茶になってしまったけれど、食材は無事だったので外に出て、魔法で火起こし。これまた洞窟内にあった鍋などを使ってシチューを作る。牛乳はないけれど、そこはまぁ前世知識を信じてフィーリングでいい感じに。

「…………」

「…………」

 二人の子供のうち、男の子は尻尾を振りながらシチューを凝視している。けれど、もう一方の女の子が警戒して、男の子を押しとどめている状態だ。

 そりゃあまぁいきなり現れた人間から食べ物をもらって警戒するのも分かるけど……う~ん、これはまさしく『待て』の状態だ。子犬に『待て』をしている状態だ。

「ほーら大丈夫よ。毒なんて入ってないから!」

 疑いを晴らすため、子供たちの皿に盛ったシチューをスプーンで一掬い。そのまま食べてみせることで安全だと証明する。

 と、なぜか男の子の方が涙目になり、そのまま泣き出してしまった。

「え? ちょっと、どうしたのよ?」

 問い糾すけれど相手は年端もいかない子供。さらには(お互いが未熟ながらも使える)大陸共通語は片言でしか通じない。どうしたものかとオロオロしていると、


≪補助スキル発動:自動翻訳ヴァーセット


 聖剣アズベインがそんなことを言いだして、

「お姉ちゃんが! ボクの、ボクのシチューを食べちゃった!」

 男の子の言葉が突然鮮明に理解できるようになった私だった。あー、お預けされている目の前でパクッといっちゃったからね。子供なら泣いちゃっても仕方ないか。

「ご、ごめんね! ほら! お姉ちゃんの分のシチューもあげるから!」

 私が自分の分のお皿を男の子に差し出すと、男の子は泣き止んでくれた。そのままの流れでシチューを食べようとして……。動きを止めた。

「……はい、セナ」

 何かに気づいたように女の子へスプーンを差し出す男の子だった。

「…………」

 何か言いたそうにしながらも、大人しく『あーん』される女の子。あー、なんだか微笑ましいわね。仲のいい姉弟(兄妹?)って素敵だわー。いやどっちが年上かは知らないし、そもそも本当に血縁なのかも知らないけれど。


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