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山賊
しおりを挟む翌日。
リチャードさんから馬車を貸してもらったというか半ば強引に押しつけられた私は、王都に向けて旅立った。
いやまぁ正直王都までは転移魔法を使おうと思っていたんだけど、ご厚意は素直に受けないとね。それにこの世界に転生してから旅行とかしたことないし。馬車の旅というのも悪くないでしょう。
服装は喪服。この国では夫を亡くした妻は一年間喪に服し、喪服を身に纏うべきという慣習があるのだ。いくら書類上だけの夫婦だったとはいえ、そのくらいは守らないとね。
私は公爵家から追放されたので、屋敷の部屋の荷物は置きっ放しだ。でもまぁ、空間収納にはお父様から生前分与されたお金や権利証などの他、ある程度の着替えなども突っ込んであったのでさほどの問題はなかった。何か足りなくなったら途中の街で買えばいいのだし。
「……すみませんね、ライヒさん。付き合わせちゃって」
馬車の窓を開けて、馬に乗って馬車と並走する伯爵家騎士団長・ライヒさんに声をかける。彼は少数の騎士を引き連れて王都まで護衛してくれるらしいのだ。
「いやいや、お気になさらず。ここ最近は平和になりましたが、山賊などが消えたわけではありませんからね。レディを守るのは騎士の勤めですよ」
「いやぁ、レディだなんて……」
「それに、いずれは伯爵夫人となるかもしれない御方ですからね。護衛の予行演習もしておきませんと」
「……あ、そうですか……」
そういえばあのプロポーズのとき、リチャードさんの護衛として近くにいましたものね。当然あの求婚は知っているのか……。
なんだかじわじわと包囲網が狭まっている気がする。いやリチャードさんのことは嫌いじゃないし、好感も抱いているけれど、だからといっていきなり『結婚しましょう!』とは考えられないわけで……。せめてお付き合いから初めて欲しいというか……。
王都までは馬車で二日。
なんだか悶々とした旅になりそうな予感だった。
◇
馬車というのは一日で進める距離はだいたい決まっている。
つまり、王都から一日馬車を走らせた場所には宿場町ができるし、そこから一日走らせた場所にはまた宿場町ができて――という感じに、王都から貴族の領地までの間には宿場町が等間隔に整備されることとなる。
夕方となり。
そろそろ最初の宿場町が見えてくるという森の中で。
道の先から、なにか争うような音が聞こえてきた。
「んん?」
窓から顔を出して、肉体強化魔法の応用で視力と聴力を強化。すると、道の先で貴族が乗るような豪華な馬車が襲われているようだった。
もちろん貴族が乗っている馬車なので護衛騎士も周りにいる。……けれど、山賊の数が多いのか苦戦しているようだった。
どうやらあの山賊たちは『新人』らしい。何度か庶民を襲って味を占め、大きな獲物である貴族を狙うと。で、騎士団が本気になって捕らえられて縛り首というのがお決まりの流れだ。
「……リリーナ様。彼らの助太刀に向かってよろしいでしょうか?」
ライヒさんが馬の上から確認してくる。私としても見て見ぬふりをするつもりはない。
「いえ、ここは手っ取り早く行きましょう」
「手っ取り早く、ですか?」
訝しげな顔をするライヒさんに見せつけるように馬車の窓から腕を伸ばし、空に向かって掲げる。手のひらに魔力を集中させて――
「――雷よ、我が敵を討て!」
上空に雲もないのに発生した雷は、正確無比に山賊らしき連中に落ちた。おー、人に使うのは久しぶりだけど、やっぱり便利ね雷系の攻撃魔法。水魔法では倒すのが難しいし、炎系だと延焼が心配だものね。
もちろん、手加減したので死んではいない。……はず。
ちょっと不安になった私はライヒさんたちにお願いして山賊たちの生存確認と拘束をお願いしたのだった。
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