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第2章
第49話 再会の約束
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「これが……現実だなんて……」
「思えない? これは確かに現実、決して夢なんかじゃないよ」
「魔女様? セシル・ラグレーンさん……でしたよね。先生と呼ばせてもらいますね」
「んん……まあいいや。なんでも好きなように」
一通り自分の身体の確認が終わったアキラ君は改めて、この出来事を夢まぼろしでないと確認するかのように、私に問いかける。
もちろん夢などではないと教えてあげる。手を握ってあげながら。
「なら疑問なんですが……」
「私がこういうのが好きなのが意外ってこと?」
「……! そうです」
適当に機を見て切り出そうとした話題を、向こうからきっかけを作ってくれた。そのまま乗って、私はレンちゃんについて語ることにした。
「それは……私の大切なパートナーが本物だから」
「本物ってことは……」
「そう、私の助手のレンちゃんは元男の子の女の子だよ」
「はあ~どんな人なんですか」
「身体年齢は高校生くらい? 優しくてとっても気が利いて~めっちゃ可愛い銀の髪の美少女!」
「へぇ~」
とても興味津々といった感じで言葉に耳を傾ける。私もちょっと嫁自慢が過ぎてしまったかな……
しかし今話したことは私の本心だ。レンちゃんと出会い、共に生活していくうちに、中身は男の女の子という存在に私は強く心惹かれていた。
レンちゃんは気づかずにその素質があったという感じだが、じゃあ現在進行形で美少女になってみたくてしょうがない男の子をしてあげたらどうかと……その反応を一度見てみたかったのだ。
「今度、俺も会ってみたいです」
「なんなら今からでも会いに行く? 私の買い物帰りを待ってるし」
「えっと今から……あっ、塾行かなきゃ! やばっ忘れてた!」
「あ……そうだったの? じゃあ一回元に戻る?」
「……お願いします」
私が手をかざすと、仮初めの身体を形作っていたスライムは瞬時に形を崩し、吸い込まれるようにして箱へと収まった。
変身を解除する際は感覚同調も切れるため、それに対して苦痛や不快感といったものはない。だが、せっかく念願の女の子になれたのに早くもそれを解除することになってしまった寂しさはその表情からうかがえた。
「ほら、しょぼくれないで。これ貸してあげるから」
「え……俺がこれ持って帰っていいんですか?」
私はスライムの入った箱を置いてあった荷物を手に取り始めたアキラ君に手渡した。
無論、初めからこうするつもりではある。だが向こうにとってはそうではなかったようだ。
「そうだよ、この箱自体に動かすための魔力は込めたから、アキラ君でも問題なく使えるよ。蓋を開けて出したら、なりたい自分を想像するだけ、簡単でしょ?」
「本当に……ありがとうございます!」
「誰かに見られちゃよくないから、一人の時間にゆっくりと楽しんでね」
一転、心からの嬉しそうな笑顔を見せるアキラ君。ああ……いいことしたなあ。
「あとメールアドレス教えてくれない? 私、携帯なくてパソコンしか持ってないからさ」
「はい。えっと……書くものあります?」
「はいこれ、私のも書いといたから。後で撮影した写真送ってね」
「わかりました、これでいいですかね?」
「よし大丈夫。それじゃ暇な時間ができたら、どこでもいいから連絡ちょうだい。レンちゃんを連れていくからさ」
「じゃあ早速、塾が終わり次第連絡いれます」
そうしてメモ帳にアドレスを書いた後、背を向けてアキラ君は歩き始めた。いろいろあったけど、時間的には十分間に合うはずだ。
だけど塾か、あんな体験した後で大丈夫かなあ……そうだ!
「待ってアキラ君!」
「ん? 何か……」
「こんな事の後じゃ、勉強に集中できないでしょ。私がここでのことを忘れさせてあげるよ」
「え、ええっ!?」
その言葉にアキラ君は驚きを見せた。だけどこれは思い通りのリアクション。ちょっとからかっただけだ。
もちろん完全に記憶を消してしまうなんてことはしない。
「大丈夫だよ、私がこの魔術をかけたら、君はここでの出来事を忘れて何事もなかったように塾に向かう。それから……」
「それから?」
「塾が終わったら、勝手に全て思い出すようにしてあげる。その方がもう一回、女の子になれることを知る感激があるでしょ」
「ぜひやって下さい!」
迷いのない即答だった。
こういった体験は実際に試す瞬間以上に、不可能であったはずのことが可能となったと知った時にこそ一番の感激があるものだ。
「それじゃさよなら、また後でね。はい」
「────!」
私が彼の後頭部に杖で触れると、一瞬彼の身体は硬直し、そしてすぐに動き出した。
それにしても現代っ子は忙しいねえ……
「ん……俺、ここで何してたんだっけ? まあいいや、早く行こ」
「…………」
私も結構時間を食った、レンちゃんも待っているし改めてコンビニに行き、早いとこホテルに戻るべきだろう。
そうしていつも通りの日常に戻ったアキラ君を一瞥し、結界を解いてその公園を後にした。
彼の人生で二度目の夢の叶う瞬間を想像しながら……
「思えない? これは確かに現実、決して夢なんかじゃないよ」
「魔女様? セシル・ラグレーンさん……でしたよね。先生と呼ばせてもらいますね」
「んん……まあいいや。なんでも好きなように」
一通り自分の身体の確認が終わったアキラ君は改めて、この出来事を夢まぼろしでないと確認するかのように、私に問いかける。
もちろん夢などではないと教えてあげる。手を握ってあげながら。
「なら疑問なんですが……」
「私がこういうのが好きなのが意外ってこと?」
「……! そうです」
適当に機を見て切り出そうとした話題を、向こうからきっかけを作ってくれた。そのまま乗って、私はレンちゃんについて語ることにした。
「それは……私の大切なパートナーが本物だから」
「本物ってことは……」
「そう、私の助手のレンちゃんは元男の子の女の子だよ」
「はあ~どんな人なんですか」
「身体年齢は高校生くらい? 優しくてとっても気が利いて~めっちゃ可愛い銀の髪の美少女!」
「へぇ~」
とても興味津々といった感じで言葉に耳を傾ける。私もちょっと嫁自慢が過ぎてしまったかな……
しかし今話したことは私の本心だ。レンちゃんと出会い、共に生活していくうちに、中身は男の女の子という存在に私は強く心惹かれていた。
レンちゃんは気づかずにその素質があったという感じだが、じゃあ現在進行形で美少女になってみたくてしょうがない男の子をしてあげたらどうかと……その反応を一度見てみたかったのだ。
「今度、俺も会ってみたいです」
「なんなら今からでも会いに行く? 私の買い物帰りを待ってるし」
「えっと今から……あっ、塾行かなきゃ! やばっ忘れてた!」
「あ……そうだったの? じゃあ一回元に戻る?」
「……お願いします」
私が手をかざすと、仮初めの身体を形作っていたスライムは瞬時に形を崩し、吸い込まれるようにして箱へと収まった。
変身を解除する際は感覚同調も切れるため、それに対して苦痛や不快感といったものはない。だが、せっかく念願の女の子になれたのに早くもそれを解除することになってしまった寂しさはその表情からうかがえた。
「ほら、しょぼくれないで。これ貸してあげるから」
「え……俺がこれ持って帰っていいんですか?」
私はスライムの入った箱を置いてあった荷物を手に取り始めたアキラ君に手渡した。
無論、初めからこうするつもりではある。だが向こうにとってはそうではなかったようだ。
「そうだよ、この箱自体に動かすための魔力は込めたから、アキラ君でも問題なく使えるよ。蓋を開けて出したら、なりたい自分を想像するだけ、簡単でしょ?」
「本当に……ありがとうございます!」
「誰かに見られちゃよくないから、一人の時間にゆっくりと楽しんでね」
一転、心からの嬉しそうな笑顔を見せるアキラ君。ああ……いいことしたなあ。
「あとメールアドレス教えてくれない? 私、携帯なくてパソコンしか持ってないからさ」
「はい。えっと……書くものあります?」
「はいこれ、私のも書いといたから。後で撮影した写真送ってね」
「わかりました、これでいいですかね?」
「よし大丈夫。それじゃ暇な時間ができたら、どこでもいいから連絡ちょうだい。レンちゃんを連れていくからさ」
「じゃあ早速、塾が終わり次第連絡いれます」
そうしてメモ帳にアドレスを書いた後、背を向けてアキラ君は歩き始めた。いろいろあったけど、時間的には十分間に合うはずだ。
だけど塾か、あんな体験した後で大丈夫かなあ……そうだ!
「待ってアキラ君!」
「ん? 何か……」
「こんな事の後じゃ、勉強に集中できないでしょ。私がここでのことを忘れさせてあげるよ」
「え、ええっ!?」
その言葉にアキラ君は驚きを見せた。だけどこれは思い通りのリアクション。ちょっとからかっただけだ。
もちろん完全に記憶を消してしまうなんてことはしない。
「大丈夫だよ、私がこの魔術をかけたら、君はここでの出来事を忘れて何事もなかったように塾に向かう。それから……」
「それから?」
「塾が終わったら、勝手に全て思い出すようにしてあげる。その方がもう一回、女の子になれることを知る感激があるでしょ」
「ぜひやって下さい!」
迷いのない即答だった。
こういった体験は実際に試す瞬間以上に、不可能であったはずのことが可能となったと知った時にこそ一番の感激があるものだ。
「それじゃさよなら、また後でね。はい」
「────!」
私が彼の後頭部に杖で触れると、一瞬彼の身体は硬直し、そしてすぐに動き出した。
それにしても現代っ子は忙しいねえ……
「ん……俺、ここで何してたんだっけ? まあいいや、早く行こ」
「…………」
私も結構時間を食った、レンちゃんも待っているし改めてコンビニに行き、早いとこホテルに戻るべきだろう。
そうしていつも通りの日常に戻ったアキラ君を一瞥し、結界を解いてその公園を後にした。
彼の人生で二度目の夢の叶う瞬間を想像しながら……
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