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第2章
第27話 写真を眺めて
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「ふう、少し休憩する?」
「いいよ、こっちも終わったし」
一通りの作業を終えた僕と母さんはエプロンを脱いでいすに腰掛けた。母さんを見ながら、こうして二人で並んで座ることの懐かしさを味わう。さっきは三人だったしね。
「そういえば、父さんにはもう何か言ったの?」
「さっき電話したよ。ビックリすることがあるから、寄り道しないで早く帰ってきてねって」
「ビックリすることか……そうだろうね」
「もうじき帰ってくる時間だから」
父さん……僕を見てなんて言うかな。いくらセシルさんが説明してくれたとしても、驚くだろうな。
優しかった父さん……会うのが嬉しくもあり、ちょっと怖くもある。ファンタジーとか好きだったから、きっと理解は早いだろう。それに魔術を見せてあげたら喜ぶかも。
「レン……さっきから思ってたけど、あなたの髪すっごい綺麗だよね。本当にサッラサラの手触りで……それにこの色、薄めの灰色……銀色? 染めたりとかじゃなくてこれ元からなんでしょ?」
母さんはほどいた僕の髪を撫でながら、そう聞いてきた。
髪色は家に入ったときから戻しているが、度々母さんが見つめてきたのには気づいていた。まあ……今となっては羨ましく思うのもなんとなくわかる。
「そうそう、切ってもらうのはセシルさんにやってもらってる。いろいろ便利な道具があるから手入れも簡単だしね」
「いいわね~それにあなた達は年取らないんでしょ。さすが魔法使い、羨ましい」
「いや~でも、それできるのは僕たちだけだから……それに母さんも見た目若いじゃん」
「そう、ありがとう。そういえばさあ……」
「ん……何?」
「あなたの格好ってあんまり昔と変わってないよね?」
えっ……そんなこと?
「この服装も悪くないけど、こんな綺麗な足をしていて……ジーンズよりスカートとかの方が絶対似合うって。それに髪型とかももっと可愛く……」
「そうだね……でもあんまり気が乗らないんだよね」
「え~なんで~」
スカートか……何度かセシルさんにすすめられて履いてみたから、似合うのは知ってるんだよな。
でも実際自分が履いてみると、どうにも落ち着かないから、普段はあまり履いていない。
「その心配はないですよ。ちゃ~んとレンちゃんは自分の可愛さ、魅力をわかってますから」
「え……」
そんな感じで僕と母さんが話していると、今まで沈黙を守ってきたセシルさんが話に入ってきた。
「例えば……お母さん、ちょっと来てこれ見てくださいよ」
「え、なんですか?」
「ちょっ……それってまさか……」
さっきからリビングで僕の昔のアルバムを母さんから貸してもらい、眺めていたセシルさんが一連の会話を聞いていたのか、母さんを呼び出し、荷物から何かを探し始める。
そしてその手に持った物を見たとき……僕は目を疑った。
「えっ! これ……レンだよね」
「私が撮ったんです。よく撮れているでしょう」
「それ……持ってきたんですね」
セシルさんが出してきたものは一枚の写真だ。この人はスケッチも得意だが、それとは別にカメラでの写真もよく撮っていて、現像も自分でやっている。
そして、その写真に写っているのは……ドレス姿の僕だった。
「やっぱりこういうのはちゃんと見せないとね。もったいないでしょ」
うん、確かに可愛い……
写真の中の自分はフリルをあしらったドレス、肘までのドレスグローブを身に付け、やや短めの丈のスカートからはスラッとした足が見え隠れする。
それらの黒い生地が白い肌とアップにまとめた銀の髪に映えて、清楚であり妖艶な雰囲気を醸し出した……まさに絶世の美少女だ。自分だけど。
「このときは確か、パーティー行くからって……」
「でも楽しそうだったじゃん。これなんて自分から喜んで着てたでしょ」
「う……はい……」
「ほら、お母さん。この通りですよ」
「へえ~」
初めての華やかなパーティーが楽しかったのは事実だし、こうやって着飾ることに嬉しさをを覚えたこともまた事実だ。それは否定できない。
「まだまだありますよ。これなんかどうですか?」
「ああ~これも可愛い」
「ちょっと、ちょっと二人とも……」
それからもセシルさんは写真を出し続け……全部で二十枚ほどもあった。
さっきのとは違うドレスを着た写真、研究の時の白衣やローブを着た写真、髪をもう少し長く腰ぐらいまで伸ばしていた時のやつや首元の辺りまで切っていた時の写真など。
中には盗み撮りしたんじゃないかと思う写真も……
「は~幸せだわ……」
「母さ~ん……」
母さんは僕の写真を、それはもう取り付かれたように眺めている。
「お母さん、それは差し上げますよ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「いいですよ、予備もありますから。それに何かしら証拠がないと、私たちが来たことが、なんだか信じられなくなっちゃうかもしれませんしね」
それもそうだ、セシルさんの言うことにも納得できる。
それから母さんは特に気に入った最初の写真を額に入れて飾った後、残りの写真を大事そうにアルバムへとしまっていった。
母さんが喜んでいること、それ自体は僕も嬉しい。嬉しいんだけど……なんだか複雑だ。
と、そんなことを考えていた時……
「ただいま~」
一人の男性の声が玄関から聞こえた。
僕は……その声を聞いて、一瞬自分の呼吸が止まったのを感じた。
「いいよ、こっちも終わったし」
一通りの作業を終えた僕と母さんはエプロンを脱いでいすに腰掛けた。母さんを見ながら、こうして二人で並んで座ることの懐かしさを味わう。さっきは三人だったしね。
「そういえば、父さんにはもう何か言ったの?」
「さっき電話したよ。ビックリすることがあるから、寄り道しないで早く帰ってきてねって」
「ビックリすることか……そうだろうね」
「もうじき帰ってくる時間だから」
父さん……僕を見てなんて言うかな。いくらセシルさんが説明してくれたとしても、驚くだろうな。
優しかった父さん……会うのが嬉しくもあり、ちょっと怖くもある。ファンタジーとか好きだったから、きっと理解は早いだろう。それに魔術を見せてあげたら喜ぶかも。
「レン……さっきから思ってたけど、あなたの髪すっごい綺麗だよね。本当にサッラサラの手触りで……それにこの色、薄めの灰色……銀色? 染めたりとかじゃなくてこれ元からなんでしょ?」
母さんはほどいた僕の髪を撫でながら、そう聞いてきた。
髪色は家に入ったときから戻しているが、度々母さんが見つめてきたのには気づいていた。まあ……今となっては羨ましく思うのもなんとなくわかる。
「そうそう、切ってもらうのはセシルさんにやってもらってる。いろいろ便利な道具があるから手入れも簡単だしね」
「いいわね~それにあなた達は年取らないんでしょ。さすが魔法使い、羨ましい」
「いや~でも、それできるのは僕たちだけだから……それに母さんも見た目若いじゃん」
「そう、ありがとう。そういえばさあ……」
「ん……何?」
「あなたの格好ってあんまり昔と変わってないよね?」
えっ……そんなこと?
「この服装も悪くないけど、こんな綺麗な足をしていて……ジーンズよりスカートとかの方が絶対似合うって。それに髪型とかももっと可愛く……」
「そうだね……でもあんまり気が乗らないんだよね」
「え~なんで~」
スカートか……何度かセシルさんにすすめられて履いてみたから、似合うのは知ってるんだよな。
でも実際自分が履いてみると、どうにも落ち着かないから、普段はあまり履いていない。
「その心配はないですよ。ちゃ~んとレンちゃんは自分の可愛さ、魅力をわかってますから」
「え……」
そんな感じで僕と母さんが話していると、今まで沈黙を守ってきたセシルさんが話に入ってきた。
「例えば……お母さん、ちょっと来てこれ見てくださいよ」
「え、なんですか?」
「ちょっ……それってまさか……」
さっきからリビングで僕の昔のアルバムを母さんから貸してもらい、眺めていたセシルさんが一連の会話を聞いていたのか、母さんを呼び出し、荷物から何かを探し始める。
そしてその手に持った物を見たとき……僕は目を疑った。
「えっ! これ……レンだよね」
「私が撮ったんです。よく撮れているでしょう」
「それ……持ってきたんですね」
セシルさんが出してきたものは一枚の写真だ。この人はスケッチも得意だが、それとは別にカメラでの写真もよく撮っていて、現像も自分でやっている。
そして、その写真に写っているのは……ドレス姿の僕だった。
「やっぱりこういうのはちゃんと見せないとね。もったいないでしょ」
うん、確かに可愛い……
写真の中の自分はフリルをあしらったドレス、肘までのドレスグローブを身に付け、やや短めの丈のスカートからはスラッとした足が見え隠れする。
それらの黒い生地が白い肌とアップにまとめた銀の髪に映えて、清楚であり妖艶な雰囲気を醸し出した……まさに絶世の美少女だ。自分だけど。
「このときは確か、パーティー行くからって……」
「でも楽しそうだったじゃん。これなんて自分から喜んで着てたでしょ」
「う……はい……」
「ほら、お母さん。この通りですよ」
「へえ~」
初めての華やかなパーティーが楽しかったのは事実だし、こうやって着飾ることに嬉しさをを覚えたこともまた事実だ。それは否定できない。
「まだまだありますよ。これなんかどうですか?」
「ああ~これも可愛い」
「ちょっと、ちょっと二人とも……」
それからもセシルさんは写真を出し続け……全部で二十枚ほどもあった。
さっきのとは違うドレスを着た写真、研究の時の白衣やローブを着た写真、髪をもう少し長く腰ぐらいまで伸ばしていた時のやつや首元の辺りまで切っていた時の写真など。
中には盗み撮りしたんじゃないかと思う写真も……
「は~幸せだわ……」
「母さ~ん……」
母さんは僕の写真を、それはもう取り付かれたように眺めている。
「お母さん、それは差し上げますよ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「いいですよ、予備もありますから。それに何かしら証拠がないと、私たちが来たことが、なんだか信じられなくなっちゃうかもしれませんしね」
それもそうだ、セシルさんの言うことにも納得できる。
それから母さんは特に気に入った最初の写真を額に入れて飾った後、残りの写真を大事そうにアルバムへとしまっていった。
母さんが喜んでいること、それ自体は僕も嬉しい。嬉しいんだけど……なんだか複雑だ。
と、そんなことを考えていた時……
「ただいま~」
一人の男性の声が玄関から聞こえた。
僕は……その声を聞いて、一瞬自分の呼吸が止まったのを感じた。
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