時の織り糸

コジマサトシ

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35(ユカ)

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 シャワーだけをそこそこに、まずまず気に入っているパジャマに着替える。でも、やっぱり。どうにも、眠れない。布団に入ったものの、目をつぶったり、電気は消えているが視界は薄く開けている。白っぽく見える。

 今日は色々な事が多すぎた。脳がオーバーヒートしている感覚。ハヤカワには見事にスルーされてしまったが…本当は、バッカみたいにお酒でも飲んで、酔ったまま、流れで寝てしまいたかった。…独りになると、今日はあった事が鮮明に浮かび上がって、頭の中をぐるぐる回ってしまう。何しろ情報量が多すぎる。

 今日話したハヤカワは二十年後の五十歳のハヤカワが中身であって、あたしの知るハヤカワでは無かった。だって明らかに違う。もちろん見た目は、今までと何にも変化が無いようにも思うし、多分本当にそれはそうなんだろう。あくまでも中身だけ。でも本人は、まったくそんな『異常な状況』を気にしていない…というよりも、楽しそうに、期待をしたような気持ちでいるのが、何だか、ほんの少し、気持ち悪い。

 わかる。アイツにとっては、二十年も前の時代に、若返って戻って来た、みたいな感覚なんだろう。五十歳のハヤカワがどんなもんなのか…あたしは何にも知らないけれど。

 あとは…なんだろ…今までは同世代?同士?戦友?として、ずっと一緒だったような感覚なんだけど、今日は、どれだけ手を伸ばしても届かないような…。ずっと先に行ってしまったような。そもそも繋がっていないような。

 何だか、色んな大変な事があった一日だったのに、考えているのは、そんな事ばかり。この感覚と感情が何かは正直よくわからないけれど。

 ふと、ケータイを手に取る。…メールの通知がめちゃくちゃある。珍しい。パカッと開けて、差出人とタイトルをざっと見てみる。

…ああ、あたしは今日が、誕生日だったのか。昨日で二十九歳は、さようなら。

 なんだか、急に酷く疲れたような気がして、ケータイをベッドから落ちない範囲に放り投げた。

 うん。なんとなく眠れそうな気がする。
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