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11(ハヤカワ)
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社長からメールが入る。
『トイレ休憩してから22時30分開始』
周りのスタッフの退勤が21時くらいだったので、オフィスで1人随分待ったが、その時間で、かなり頭の中は整理出来た。そろそろ時間か…と思い、社長室に向かう途中で、ユカがぼーっとしているのが見える。
「ユカ、おつかれさま」
「は-い!疲れましたー!眠いでーす!腹ペコでーす!もう帰りたいでーす!」
「人事部長、またトイレで泣いていたぞ。みんなの前で何を言ったんだ?」
「まあまあまあ…後でフォローしとくから!」
(だいたい想像できるけどなあ…)と、俺はボソボソ言いつつ、社長室の前までの数歩の中でユカと話し、ノックもそこそこにドアを開けた。いつもながら上品な社長室であり、若い社長ならでは感性と趣味が表現されている。ユカやハヤカワは、実はこの部屋に大きな魅力を感じている。
「二人とも遅くまでお疲れさま…ユカさん、人事部長が会議の後、トイレで毎回泣いてるの何とかならない?」
「うわあ…社長もそれ、言いますか…」
俺はニヤニヤしているが、ユカは気にせず、切り出す。
「まあ、それはそれとして…社長!この3人でカイギ?打合せ?珍しいですよね!」
「うん…この話は、この3人で話したいな…と思っていて。もう日付が変わるような遅い時間に申し訳ないけど、正直『年寄り』はいらないんだ。この話には」
社長は2代目である。もう還暦をとうに過ぎた初代である父親は会長職に。他の経営陣も会長と共にあった大ベテラン達…控えめに言って『おじいさま』達である。つまりは経営陣の中で、圧倒的に社長は若く。今は三十三歳だ。社長が赤子の頃に、おむつを替えた事があるとか何とかで、番頭的存在の常務が笑いを取ろうとして、場を凍るのがテンプレート化されている。ちなみにこのエピソードを無表情で聞いている社長の顔は見ないようにするのが、全社員の暗黙マナーとなっている。
そんな社長でも、そのジジイ達を…おじいさま達を、解りやすく『年寄り』と表現したり、『いらない』という話をしていた所は、今まで見聞きした事がなかった。正直な所、驚き、背筋が自然に伸びる。
社長が「まあ座って」と、小さな声で革張りのソファへの着席を促すと、自らコーヒーを俺たちに運び、ゆっくりと話し始めた。
「来年は…今からちょうど11ヶ月後に、ウチのブランドが10周年を迎えるのは知っているよね?」
「もちろんです」「モチロンです!」
ハヤカワとユカの声が、重なって部屋に響く。
少しの沈黙が生まれたが、俺たちは社長が、次に口を開くのを待った。
『トイレ休憩してから22時30分開始』
周りのスタッフの退勤が21時くらいだったので、オフィスで1人随分待ったが、その時間で、かなり頭の中は整理出来た。そろそろ時間か…と思い、社長室に向かう途中で、ユカがぼーっとしているのが見える。
「ユカ、おつかれさま」
「は-い!疲れましたー!眠いでーす!腹ペコでーす!もう帰りたいでーす!」
「人事部長、またトイレで泣いていたぞ。みんなの前で何を言ったんだ?」
「まあまあまあ…後でフォローしとくから!」
(だいたい想像できるけどなあ…)と、俺はボソボソ言いつつ、社長室の前までの数歩の中でユカと話し、ノックもそこそこにドアを開けた。いつもながら上品な社長室であり、若い社長ならでは感性と趣味が表現されている。ユカやハヤカワは、実はこの部屋に大きな魅力を感じている。
「二人とも遅くまでお疲れさま…ユカさん、人事部長が会議の後、トイレで毎回泣いてるの何とかならない?」
「うわあ…社長もそれ、言いますか…」
俺はニヤニヤしているが、ユカは気にせず、切り出す。
「まあ、それはそれとして…社長!この3人でカイギ?打合せ?珍しいですよね!」
「うん…この話は、この3人で話したいな…と思っていて。もう日付が変わるような遅い時間に申し訳ないけど、正直『年寄り』はいらないんだ。この話には」
社長は2代目である。もう還暦をとうに過ぎた初代である父親は会長職に。他の経営陣も会長と共にあった大ベテラン達…控えめに言って『おじいさま』達である。つまりは経営陣の中で、圧倒的に社長は若く。今は三十三歳だ。社長が赤子の頃に、おむつを替えた事があるとか何とかで、番頭的存在の常務が笑いを取ろうとして、場を凍るのがテンプレート化されている。ちなみにこのエピソードを無表情で聞いている社長の顔は見ないようにするのが、全社員の暗黙マナーとなっている。
そんな社長でも、そのジジイ達を…おじいさま達を、解りやすく『年寄り』と表現したり、『いらない』という話をしていた所は、今まで見聞きした事がなかった。正直な所、驚き、背筋が自然に伸びる。
社長が「まあ座って」と、小さな声で革張りのソファへの着席を促すと、自らコーヒーを俺たちに運び、ゆっくりと話し始めた。
「来年は…今からちょうど11ヶ月後に、ウチのブランドが10周年を迎えるのは知っているよね?」
「もちろんです」「モチロンです!」
ハヤカワとユカの声が、重なって部屋に響く。
少しの沈黙が生まれたが、俺たちは社長が、次に口を開くのを待った。
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