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新しい生活へ

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日の光を感じて目が覚めた。
「ふわぁー」とつい欠伸をしていると
「おはよう詩織…」その甘い声に振り向くと肩肘を立てた亘くんが私の髪の毛を撫でていた。
「おはよう」そう返すと「チュッ」とリップ音をならして唇を交わす。啄むようなその甘いその口づけに身を返して亘くんと向き合う。しっかりと亘くんを感じたくて唇を合わせた。
「そんな積極的にされたら我慢できなくなっちゃうから…」耳元で囁かれて少し恥ずかしくなってしまった。でも亘くんを感じたかった。
隣の布団の中でスヤスヤと寝ているわが子の横でキスなんて…と思いながらも口づけを交わした。差し込まれた熱につい甘い声が出そうになるのを必死で抑えてると亘くんにクスッと笑われてしまった。
「このままだと色々と抑えられなくなりそう。しかも俺こんなんだし…」亘くんに手を掴まれ触った場所はすでに立ち上がりかけていた…思わず顔を真っ赤にしていると…
「その反応、初めての感じてかわいい」と目尻にキスをされた。

私も身体の奥の熱が疼いてきたが、ここは沙代子さんの家だし…みんながいる。しかも隣ではまだ気持ち良さそうに寝ている息子がいる。抑えないとね…そう思いながら熱のこもった目で亘くんを見てしまった。

「詩織…愛してる。愛してるよ。だから…また詩織をこの手で抱きたい。今すぐは無理だけどね」そう言って抱きしめられて、もう一度だけキスをした。お互いの熱を感じながらも吐き出せないもの苦しさを感じながらも起き上がる。すると
「まんまっ」と息子が起きてきた。

亘くんを見つけるなり「ぱっぱっ」と駆け寄って体当たりする。すぐさま望夢の体を抱っこするとケラケラと朝から賑やかな笑声が響いた。

トントン部屋のノック音がしてきた。「はぁーい」「詩織ちゃん起きてる?ご飯食べましょう」沙代子さんの声が聞こえて私たちは支度をして部屋を出た。
望夢と笑い合ったせいか私の身体の熱もおさまっていた。

みんなで朝ごはんを食べた後、沙代子さんと絢さんに向き合った。

「沙代子さん、絢さん今まで詩織と望夢を守っていただいてありがとうございました。これからも、どうか支えてください。そしてもし僕のことを認めていただけるのなら…この書類にサインをいただけないでしょうか?」
そう言ってテーブルの前に出された婚姻届を見て2人は目配せをしていた。

「僕はずっと詩織と生きていきたいと思ってました。すれ違ってしまったあの日からもずっと…なのでお願いします」
亘くんが深々と頭を下げたので私も頭を下げた。

「2人とも頭を上げて」沙代子さんに言われて頭を上げた。
沙代子さんもあやちゃんも目に涙を浮かべて微笑んでくれた。

「ずっとね、詩織ちゃんには幸せになってほしいと思ってたのよ…」そう切り出した沙代子さんは亘くんの目を見て話始めた。

私が札幌で働き始めた頃のこと。いつも悩んでそうな顔してるけど何も声をかけられなかったこと。
そして仕事中に倒れて妊娠してるとわかったこと。結婚するのかと思ったが父親には知らせない、仕事も辞めて違う所に行くと言った私を引き止めたこと。

「一緒に暮らそうと声をかけたの最初に住んでた所は単身者用だったから…私もね…シングルで絢を産んだの。絢が産まれる前に病気で死んでしまったけど…だから詩織ちゃんを助けたかった。望夢がお腹にいる時も頑張ってたのよ。元々頑張り屋さんだったけど、望夢が産まれた時は嬉しかった。なんだか孫ってこんな感じなんだろうって、だからいつか望夢のお父さんに会わせたいって思ってた。だからこうやってまた出会えたのは縁があったからよ。これから支え合って頑張りなさい。私はいつでも応援してる。でも本当に私たちが証人でいいの?亘さんのご両親とか…」

「沙代子さんとあやちゃんがいいんです。望夢と安心して毎日過ごさせてもらえたし、私にとってお母さんとお姉ちゃんだから」

「沙代子さん、詩織と望夢にとって大切なお2人ですから…僕もその一員になりたいので、お願いします」
そう言って頭を下げた。

「ありがとう。書かせてもらうわね」
証人欄に沙代子さんとあやちゃんの名前が埋まった婚姻届を見てまた涙が溢れた。

「これから出しに行くんでしょ?望夢は?保育園はまだお休にしてるでしょ?」

「はい。一緒に連れて行こうと思います」

「2人で行っておいでよ。私休みだし、暇だから。大河もまだ寝てるけど、夕方までいるだろうからさ」

「でも…」

「色々、話もあるでしょ。ゆっくりしていいから。遠慮しなくていいから…ね。」

「じゃあお言葉に甘えて…行ってきます」

「うん。うん。行っておいで、のぞ~パパとママにバイバイしよー」
あやちゃんが抱っこしようとすると
「イヤー」と亘くんの足元にしがみついた。沙代子さんや、あやちゃんが宥めてもダメだった。置いていかれると思ったのか余計に泣き出してしまった。私達はそのまま望夢も抱っこして役所に向かった。

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