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複雑

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伊川さんと事務所の応接室で待つことになった。友達と呼べる人がいない私にとってどう接していいのかわからなかったが伊川さんに質問されて答えることにした。
「咲希さんはいくつなの?」

「私はもうすぐ20歳になります」

「そうなんだ。私と2歳しか変わらなんだね。仲良くしてね」
仲良くしてなんて今まで言われたことがなかったので嬉しかった。
「こちらこそです」

「先生は優しいでしょ?」

「そうですね」

「私は先生みたいに仕事もできて、イケメンだったら釣り合わないって卑屈に感じちゃうけど、でも咲希さん、可愛いしお似合いだね」

「私なんか…大ちゃんに助けてもらってるばっかりで」

「いいんじゃない?彼氏なんだから」

「伊川さん彼氏は?」

「腐れ縁の幼馴染がいるよ。高校の時から付き合ったり、離れたりしてるけどね」

「仲がいいんですね」

「そんなことないよ。それより貰ったんだけど、このクッキー美味しいの食べてみて」
伊川さんおススメのクッキーは美味しかったが、あんまり食べると昼ごはんが食べられなくて大ちゃんに怒られそうだ。
それから伊川さんと話をたくさんした。短大を卒業してからパラリーガルになったと聞いた。大ちゃんと一緒に働いている彼女を少し羨ましく思ってしまった。私も大学とか出てたら大ちゃんの役に立てたんだろうか?それとも…施設を出てる私はこんな華やかな職場はやっぱり合わないのかもしれない。そんなことを考えてたら
「咲希さん、どうかした?クッキー好きじゃなかった?」

「いえ美味しいです。でも私いっぱい食べたらご飯食べられなくなりそうで…」

「いやだ~お菓子は別腹じゃない。紅茶お代わりするでしょ?持ってくるから待ってて」
そう言って伊川さんは部屋を出ていった。昔からお菓子に縁がなかったし、食にも興味がない私は別腹の意味があまりよくわからないが…初めて仲良くしてくれるお姉さんのような伊川さんに出会えて嬉しかった。あの質問をされるまでは…

新しく紅茶を持ってきた伊川さんはこんなこと聞くのはダメかな?と言いながら
「先生って、夜も優しいの?」
と聞いてきた。夜?過保護かもしれないが、食欲がまだ半分しか戻らない私を気にして一緒に食べてくれるようになったが、どういえばいいのか言い淀んでいると

「うちの彼氏、ちょっと強引なんだよね。キスは上手いからすぐ絆されちゃうんだけどね」
そう言われてエッチのことを聞いてるんだとわかったが…大ちゃんからは好きと言われたけど、そういえばそんな関係になってない。罰ゲームでキスをすることはあってもおでこやほっぺにだ。それなのに大ちゃんを彼氏と呼んでもいいのだろうか?それともやっぱり私は……と考えていたらノック音がした。伊川さんが外で誰かと話をしてるのをぼーっと眺めていたら

「ごめんね咲希さん、ちょっと頼まれごとしちゃって。ここで待っててね」と部屋を出て行った。
1人ぼっちになった部屋で考えることはやっぱりさっきの伊川さんのことで、私は大ちゃんのなんなんだろうか?やっぱり家政婦なんだろう。気まぐれで、昔出会った私が可哀想で助けてくれただけなのかもしれない。だって大ちゃんとそういう関係になりそうにもない。そう思うと胸が苦しくなった。どうしようもなく寂しくて、自分が暗闇の中にこのまま落ちていく感じがする。結局1人ぼっちには変わりはないか…骨折も治ったし、早く自立して大ちゃんを解放してあげないと、こんな私みたいに甘ったれで、寂しがりやな子、お荷物でしかない。大ちゃんが新しく買ってくれたスマホでバイトの検索をした。資格も経験も何もないけど高校を卒業してればたくさんの仕事の情報が出てくる。どの仕事がいいだろうか?と悩んでたら綺麗な女性が入ってきた。

「あら?依頼者さんかしら?」

「いえ私は…」
大ちゃんのことを言ってもいいのかわからなかったとき伊川さんが入ってきた。
「咲希さんごめんね。つまらなかったでしょ?って西条さんどうしたんですか?」

「ごめんなさいね。珍しくこのドアが少し開いてたから…伊川さんこの方は?」

「はい。園田先生の彼女さんです。園田先生、今電話で打ち合わせ中で」
すると西条さんは

「園田先生、彼女いたの?」
となんとなく睨まれてるように感じたが、そのまま部屋を出ていった。

「咲希さんごめんね。さっきの西条さんって言うんですけど、前から先生を狙ってるのに全然、先生に相手にされなくて…だから咲希さんみたいに可愛いい彼女がいるのがわかってびっくりしたんだと思うよ。本当に先生と咲希さんお似合いだしね」
そう言われてもあまり嬉しくなかったが曖昧に笑ってその場を誤魔化した。私なんかよりさっきの女性の方がよっぽど大ちゃんにお似合いだ。こんな子どもみたいな私より…そう思っていたら大ちゃんが入ってきた。

「咲希、遅くなってごめんな。伊川さんもありがとう。咲希を送ってくるから」

「わかりました。咲希さんまたね」

「ありがとうございました。クッキーごちそうさまでした」
伊川さんにお礼を言って大ちゃんと一緒に事務所を出た。なんだかモヤモヤとした複雑な気分で落ち着かなかった。


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