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苦しい気持ち

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俺は客間に用意されてあったベットに咲希ちゃんを寝かせた。後ろからついてきたあゆみが靴を取ってくれた。

「咲希ちゃん…だよね?」

「あぁ…名前もそうだし、左利きだって言ってた」

「それにしても本当に家出なの?」

「そうみたいだな。何があったか聞けてはいないが」

「それにしても骨折なんて、かわいそう」

「そうだな」

「とりあえず、起きたら聞いてみよう。それにしても覚えてるかな?」

「お前のことは覚えてるんじゃないか?俺より長くボランティアしてたし」

「大輔のことだって覚えてるんじゃない?」

「いゃ…何も言われてないから」

「言わないだけで本当は覚えてるかもよ」

「だといいけど」

「とりあえず、ゆっくり寝かせてあげよう」

「悪かったな。呼び出して」

「うん大丈夫」

「そうか」

「とりあえず私は帰るよ。また明日来るから」

「ありがとな」

「じゃあね」
あゆみが帰ってからも俺は咲希ちゃんの部屋にいた。まだ顔色が悪いが、このまま朝まで寝てくれるといいけど、明日起きたらびっくりするんだろうな。そう思ってたら

「あゆみ帰ったの?」
母さんが入ってきた。

「あぁ…さっきな」

「びっくりしたわよ。いきなり女の子連れて帰るっていうから」

「悪い。ちゃんと伝えられなくて」

「あゆみから聞いたわよ。もう10年も前なのね。あなたがいつも気にしてた女の子だってことは」

「何があったかわからないけどな」

「でも助けてやりなさい。でも厄介な問題ならお父さんにも声かけてね」

「父さんは?」

「今お風呂に入ってる。お父さんには話してるから、ご飯は?まだなら冷蔵庫に入ってるから食べなさいね」

「わかった。ありがとう」
咲希ちゃんの頭をひと撫でして俺も自室に戻った。最近はほとんど家に帰ってきてなかった自室だが、きっと掃除をしてくれてたんだろう。ベットに仰向けになって咲希ちゃんのことを考えていた。
一体何があったのか。あの施設で暮らしていたなら18歳で施設を出たことになる。それからどこで働いてたのか、それとも誰かと暮らしていたのか…本人に聞くまでわからないな。とりあえずシャワーを浴びて、ご飯を食べた。そういえば咲希ちゃんはご飯を食べなくていいのだろうか?起きたかもしれないと部屋の前に行くと部屋の中からすすり泣く声が聞こえた。思わず部屋に入ると咲希ちゃんは背中を丸め、寝ながら泣いていた。時折「ごめんなさい…ごめんなさい」と小さな声で謝っている。頭を撫でて背中をさすってあげると、だんだんと穏やかな寝息に変わった。彼女を苦しめているものがあるのなら救ってやりたい。涙に濡れた頬を拭ってあげた。


日の光が眩しくて目が覚めた。一体ここはどこだろう?私は温かいお布団の上にいた。そういえば大ちゃんとタクシーに乗ったことは覚えてるけど、私そのまま寝ちゃったの?もしかして大ちゃんに運ばれた?久しぶりの再会だったのに2回も運ばれるなんて…一体私は何をやらかしているんだろう。ベットから降りて布団を整えてから部屋のドアをそっと開けるとコーヒーのいい匂いがしてきた。ここはどこだろう?と見渡してると

「あ!咲希ちゃん起きた?今起こしにいこうと思ってたの。私のことわかる?覚えてるかな?」

「え?あゆちゃんですか?」

「そう。咲希ちゃん覚えててくれてたの嬉しい」とあゆちゃんが抱きついてきた。どうしてここにあゆちゃんが?そう思ったが、その疑問はすぐに解かれた。

「あゆみ、いきなり抱きつくな。腕も骨折してるんだぞ」

「だって嬉しかったんだもん。そんなやきもち妬かないでよ。大輔のこと覚えてなかったからって」

「そんなこと言ってない」

「ほらほら、みんな座りなさい。ご飯食べましょ」

「ありがとう。咲希ちゃん、こっちが洗面所だから顔洗っておいで」

「ありがとうございます」
そうか…大ちゃんと、あゆちゃんは恋人同士なのかな?もしかして夫婦になってるのかもしれない。確かにあの頃も仲が良さそうだった。そうか…そうだよね。あれから10年近くも経ってるんだもん。

「咲希ちゃん支度できた?」
心配そうに咲希ちゃんが覗きにきた。

「すみません。大丈夫です」
テーブルの上には朝食が並んでいた。

「たくさん食べてね」
大ちゃんのお父さんとお母さんから声をかけてもらった。大ちゃんの隣にはあゆちゃんが座っている。そしてあゆちゃんの左手の薬指には綺麗な指輪が光っていた。あぁ…やっぱり…そんなことで落ち込む立場じゃないのに。美男美女の2人を見るのがだんだん苦しくなってきた。私には得られなかった幸せだ。こんな家族団欒の席にお邪魔して申し訳ない気持ちでつい手が止まってしまった。

「まだ痛いのか?」
そう大ちゃんが声をかけてくれた。

「いえ…大丈夫です」

「咲希ちゃん、あんまり顔色良くないけど、無理しないほうがいいよ」
あゆちゃんからも声をかけてもらった。
ここに居るのが辛くなってきた私は、すみませんとさっきまでいた部屋に戻った。
なんだか無性に泣きたくなった。私には親もいない。友達もいない。幸せになれると思って結婚したのにまさか籍も入ってなかった。なのに、結婚して幸せそうに笑ってる2人が羨ましかった。私は幸せになれない。涙が溢れるのもそのままに布団に顔を埋め声を殺して泣いた。

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