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過去
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「でもその手じゃ何もできなくて不自由だろ?利き手だろ?」
「いえ…私、左利きなので、それほど不自由ではないかと…」
「左利き…そんなわけないか…」
顎に手を当ててなんか考えていたように見えた。
「悪い。ちょっと電話してくるから、いい子で待ってて」と言って部屋を出てってしまった。
いい子って、もう20歳になるのに…そう思っていたら
「じゃあ高橋さん、行こうか?」
私のスーツケースを持って歩き出した。
なんか名字で呼ばれて寂しいと思ってしまった。そりゃそうだ。もうあれから10年近くも経ってる。たくさんの子ども達の中にいた私のことなんて覚えてないだろう。別にこれから先も言うつもりはないけど…
「大丈夫か?歩けないのか?」
ぼーっとしていたからだろう再度、声をかけられた。
「大丈夫です」
「いいから。伊川さんタクシー呼んでくれるかな?」
「わかりました」
そう言って女性の方が出て行ってしまった。私はどこに連れて行かれるんだろう?弁護士だから変な所に連れて行くことは考えられないけど、きっと不安な顔をしていたんだろう。
「別に変なところには連れて行かない。だから安心して」
「はい」
待っていたタクシーに乗せられた。どこに行くんだろう?と思いながらも何だか疲れちゃったな。色んなことがありすぎた。まさか健吾さんとの結婚が白紙だったこと、大ちゃんとあったこと、転んで生まれて初めての骨折をしたこと。疲れた。きっと明日、健吾さんは帰ってきて私のことを知るんだろう。でももういい。前日の寝不足と疲れもあった私はそのままタクシーの中で眠ってしまった。
ー大輔sideー
本当にあの子なんだろうか?タクシーで眠ってしまった咲希ちゃんを見ながら俺は考えていた。
本人なのか?でも確かに名前は一緒だし、左利きって言ってたし…まさか会えると思わなかった。
あれはもう10年近く前になるだろうか、いとこのあゆみに誘われて児童養護施設のボランティアをすることになったのは…あゆみからめちゃくちゃ 可愛い子がいるんだよ。と聞いたことがあった。
実際に見ると平均より小さく痩せていた子だったが目がぱっちり大きくて、色が白い子どもだった。
施設長から虐待の影響なのか、人と関わることが苦手で自分の意見を言わない子だと教えてもらった。
初めて会った日、俺はなるべく怖がらせないようにしようと屈んで挨拶をした。仲良くなるには握手でもしようとしたが拒まれてしまった。その後も気になって声をかけたり自分の夢を語ったりしていたが、なかなか距離が近づくことはなかった。一緒に勉強していた時に今までつまづいてた算数の問題が解けた時、嬉しくてつい頭を撫でようとして手を上げたら肩をビクッと縮こませて「ごめんなさい」と小さな声で言われた。俺は咄嗟に手を下げて咲希ちゃんに謝ったけど、きっと今までに何回も何十回も手を挙げられたんだろうと思うと胸が苦しくなった。
それからは咲希ちゃんに嫌な思いをさせないように気をつけていた。時々、他の子達と遊んでいる時に目が合うことがあった。その度に声をかけるけど俯いていなくなってしまう。他の子も咲希ちゃんとは仲良くしてるように思えなかった。施設でも孤立してるようで、助けてやりたかった。
ある日、いつもより帰りが遅い咲希ちゃんと会った。手と頬に大きな絆創膏をつけて帰ってきた。
「痛いの痛いの飛んでけ~」と気休めのように言ったけど、本当はその頬を撫でてあげたかった。
後日、施設の人から聞いた話は、その日咲希ちゃんは運動会の練習中にクラスの子に足を引っ掛けられて転んだようだ。学校でいじめにあってるんじゃないかと思ったが、俺にはどうすることもできなかった。
俺は勉強のために1年間だけしかボランティアを続けることができなかった。俺のボランティア最後の日、1人ずつと握手やハイタッチをして別れたが、咲希ちゃんとは結局、触れ合うことができなかった。でも咲希ちゃんがこれから先、幸せになれるようにと思っていたが…大きなスーツケースとリュックどう見ても普通じゃない。咲希ちゃんに何があったかわからないが、俺はあの時の子どもじゃない。弁護士になれたんだ。咲希ちゃんがもし何かに苦しんでいるのなら救ってやりたい。助けてやりたい。あの頃は何もできなかったから…そういえばさっき抱き上げた時にずいぶん軽く感じたが、ちゃんとご飯は食べてるんだろうか?先生は痛さで気絶したと言っていたが本当はまだ男性が怖いんじゃないだろうか…そんなことを思ってるうちに着いてしまった。
「お客さん、お嬢さん寝ちゃいましたね」
「今、家のもの呼ぶんで」
と言った途端
「おかえり。寝ちゃってるの?」
「あぁ、なんか疲れてるみたいで、荷物トランクにあるから頼んでいいか?」
「うん。どうする?起こすの手伝おうか?」
「いや…かわいそうだから抱き上げて連れてく」
「抱き上げるの?」
「あぁ、荷物とドア頼む。運転手さんありがとうございました」
「気をつけてね」
運転手さんに言われて、俺は咲希ちゃんを抱き上げた。
「いえ…私、左利きなので、それほど不自由ではないかと…」
「左利き…そんなわけないか…」
顎に手を当ててなんか考えていたように見えた。
「悪い。ちょっと電話してくるから、いい子で待ってて」と言って部屋を出てってしまった。
いい子って、もう20歳になるのに…そう思っていたら
「じゃあ高橋さん、行こうか?」
私のスーツケースを持って歩き出した。
なんか名字で呼ばれて寂しいと思ってしまった。そりゃそうだ。もうあれから10年近くも経ってる。たくさんの子ども達の中にいた私のことなんて覚えてないだろう。別にこれから先も言うつもりはないけど…
「大丈夫か?歩けないのか?」
ぼーっとしていたからだろう再度、声をかけられた。
「大丈夫です」
「いいから。伊川さんタクシー呼んでくれるかな?」
「わかりました」
そう言って女性の方が出て行ってしまった。私はどこに連れて行かれるんだろう?弁護士だから変な所に連れて行くことは考えられないけど、きっと不安な顔をしていたんだろう。
「別に変なところには連れて行かない。だから安心して」
「はい」
待っていたタクシーに乗せられた。どこに行くんだろう?と思いながらも何だか疲れちゃったな。色んなことがありすぎた。まさか健吾さんとの結婚が白紙だったこと、大ちゃんとあったこと、転んで生まれて初めての骨折をしたこと。疲れた。きっと明日、健吾さんは帰ってきて私のことを知るんだろう。でももういい。前日の寝不足と疲れもあった私はそのままタクシーの中で眠ってしまった。
ー大輔sideー
本当にあの子なんだろうか?タクシーで眠ってしまった咲希ちゃんを見ながら俺は考えていた。
本人なのか?でも確かに名前は一緒だし、左利きって言ってたし…まさか会えると思わなかった。
あれはもう10年近く前になるだろうか、いとこのあゆみに誘われて児童養護施設のボランティアをすることになったのは…あゆみからめちゃくちゃ 可愛い子がいるんだよ。と聞いたことがあった。
実際に見ると平均より小さく痩せていた子だったが目がぱっちり大きくて、色が白い子どもだった。
施設長から虐待の影響なのか、人と関わることが苦手で自分の意見を言わない子だと教えてもらった。
初めて会った日、俺はなるべく怖がらせないようにしようと屈んで挨拶をした。仲良くなるには握手でもしようとしたが拒まれてしまった。その後も気になって声をかけたり自分の夢を語ったりしていたが、なかなか距離が近づくことはなかった。一緒に勉強していた時に今までつまづいてた算数の問題が解けた時、嬉しくてつい頭を撫でようとして手を上げたら肩をビクッと縮こませて「ごめんなさい」と小さな声で言われた。俺は咄嗟に手を下げて咲希ちゃんに謝ったけど、きっと今までに何回も何十回も手を挙げられたんだろうと思うと胸が苦しくなった。
それからは咲希ちゃんに嫌な思いをさせないように気をつけていた。時々、他の子達と遊んでいる時に目が合うことがあった。その度に声をかけるけど俯いていなくなってしまう。他の子も咲希ちゃんとは仲良くしてるように思えなかった。施設でも孤立してるようで、助けてやりたかった。
ある日、いつもより帰りが遅い咲希ちゃんと会った。手と頬に大きな絆創膏をつけて帰ってきた。
「痛いの痛いの飛んでけ~」と気休めのように言ったけど、本当はその頬を撫でてあげたかった。
後日、施設の人から聞いた話は、その日咲希ちゃんは運動会の練習中にクラスの子に足を引っ掛けられて転んだようだ。学校でいじめにあってるんじゃないかと思ったが、俺にはどうすることもできなかった。
俺は勉強のために1年間だけしかボランティアを続けることができなかった。俺のボランティア最後の日、1人ずつと握手やハイタッチをして別れたが、咲希ちゃんとは結局、触れ合うことができなかった。でも咲希ちゃんがこれから先、幸せになれるようにと思っていたが…大きなスーツケースとリュックどう見ても普通じゃない。咲希ちゃんに何があったかわからないが、俺はあの時の子どもじゃない。弁護士になれたんだ。咲希ちゃんがもし何かに苦しんでいるのなら救ってやりたい。助けてやりたい。あの頃は何もできなかったから…そういえばさっき抱き上げた時にずいぶん軽く感じたが、ちゃんとご飯は食べてるんだろうか?先生は痛さで気絶したと言っていたが本当はまだ男性が怖いんじゃないだろうか…そんなことを思ってるうちに着いてしまった。
「お客さん、お嬢さん寝ちゃいましたね」
「今、家のもの呼ぶんで」
と言った途端
「おかえり。寝ちゃってるの?」
「あぁ、なんか疲れてるみたいで、荷物トランクにあるから頼んでいいか?」
「うん。どうする?起こすの手伝おうか?」
「いや…かわいそうだから抱き上げて連れてく」
「抱き上げるの?」
「あぁ、荷物とドア頼む。運転手さんありがとうございました」
「気をつけてね」
運転手さんに言われて、俺は咲希ちゃんを抱き上げた。
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