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月夜と王宮のマグノリア
第四十話
しおりを挟むユエとアンジェラスの想いは同じであるのに、それが交差することは叶わない。
力づよい腕に抱きしめられ、アンジェラスもまたユエを抱きしめているのに、互いの距離は大きく心が氷のように冷たくなっていく。
ユエに聞かされた内容は、アンジェラスを打ちのめすには充分だった。いくらユエのことが好きでも、彼は主としか見てはくれないのだ。
主従関係。アンジェラスの肩に重くのしかかる、まるで心を蝕む鎖のような立場がアンジェラスは憎かった。自身の境涯を恨みそうにさえなる。
覚悟を決めて告白しようとして、けれどもそのまえに玉砕したのだ。
アンジェラスもまた、ユエの胸にとじ込められながら思う。想いを伝えてもユエを困らせるだけだ。ならば今この時をこの熱を身体に刻み、彼への想いを胸の奥にとじ込めようと。
心臓が悲鳴をあげている。
アンジェラスの悲しみの分だけ、胸裡は血を流しずきずきと痛んだ。声を殺しても肩が震えてしまう。嗚咽が漏れ、ユエの胸はアンジェラスの悲しみに濡れた。
どれだけそうしていたのだろう。涙を吸い込んだ軍服は夜風で冷え、アンジェラスの瞳からも涙が失われた。
ふたり会話を交わすこともなく、静かに腕を解くと距離を取る。また明日からはいつもの関係に戻ろうと、互いが心に誓うのだった。
少しずつユエから後ずさり踵を返すと、アンジェラスはガゼボを飛び出し神殿に戻る。
走り去ってゆく愛しき者のすがたが見えなくなると、ユエは月の光に照らされたマグノリアに視線を移し、そして「愛しき俺のアンジェラス」とつぶやくのだった。
月夜と王宮のマグノリア/END
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