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月夜と王宮のマグノリア
第三十二話
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おやつの時間を終えルーと別れると、今度は”頭脳の間”で午後の勉学に努める。
頭脳の間とはハリマウ神殿が誇る図書室のことで、王立図書館のつぎに蔵書が多く神官にとっての財産だ。そこで一冊すべて読み終えると、本日の修道は終了となる。
空は橙から萌ゆる茜に染まり、それが過ぎると夜の帳が下りる。いつもは自室に戻るまえの小閑をユエとともに神殿の庭を廻るのだが、今日の楽しみはお預けとなった。
「はあ。もしかしてユエ……ぼくのこと避けてるのかな」
窓外はすっかり暗くなり、もう少しで夕食だとルーが騒ぐ頃だ。
自室に戻りベッドに横たわると、アンジェラスがため息まじりにこぼす。けれどそう思うだけの理由がアンジェラスにはあった。
ルーに教えてもらった永久の命を与える方法。それを知りたがったアンジェラスの気持ちは、そばにいたユエにも伝わったはずだ。
何ひとつ口を挟まなかったが、内心では困惑していたのかもしれない。よかれと思った行為であれ、はたして相手も感謝をするかと言えばそうではない。
血縁関係であれユエは立ち場を弁える堅物だ。直属の主はブランではあるが、現在こうべを垂れるべきはアンジェラス。主君を傷つける行為をユエは望むはずがない。
「でも……ぼくは……」
気づいてしまった真実からは逃れることができない。いつの日か必ず、ユエはアンジェラスの許を去るのだ。見た目の変わらない自身とは違い、確実にユエは老いてゆく。
身を焼くような思いに、アンジェラスは胸が張り裂けそうになる。
苦悩とため息の数が増えるばかりで答えなど出てはこない。いつの間にか夕食の時間を迎え、アンジェラスを呼びにルーが部屋に顔を出す。
ルーと食堂に赴き夕餐を口にしても何ひとつ味などしない。心ここにあらずのアンジェラスを見ながら、ルーもまた胸を痛めるのだった。
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