上 下
32 / 40
月夜と王宮のマグノリア

第三十二話

しおりを挟む

 4

 おやつの時間を終えルーと別れると、今度は”頭脳の間”で午後の勉学に努める。

 頭脳の間とはハリマウ神殿が誇る図書室のことで、王立図書館のつぎに蔵書が多く神官にとっての財産だ。そこで一冊すべて読み終えると、本日の修道は終了となる。

 空は橙から萌ゆる茜に染まり、それが過ぎると夜の帳が下りる。いつもは自室に戻るまえの小閑しょうかんをユエとともに神殿の庭を廻るのだが、今日の楽しみはお預けとなった。

「はあ。もしかしてユエ……ぼくのこと避けてるのかな」

 窓外はすっかり暗くなり、もう少しで夕食だとルーが騒ぐ頃だ。

 自室に戻りベッドに横たわると、アンジェラスがため息まじりにこぼす。けれどそう思うだけの理由がアンジェラスにはあった。

 ルーに教えてもらった永久の命を与える方法。それを知りたがったアンジェラスの気持ちは、そばにいたユエにも伝わったはずだ。

 何ひとつ口を挟まなかったが、内心では困惑していたのかもしれない。よかれと思った行為であれ、はたして相手も感謝をするかと言えばそうではない。

 血縁関係であれユエは立ち場を弁える堅物だ。直属の主はブランではあるが、現在こうべを垂れるべきはアンジェラス。主君を傷つける行為をユエは望むはずがない。

「でも……ぼくは……」

 気づいてしまった真実からは逃れることができない。いつの日か必ず、ユエはアンジェラスの許を去るのだ。見た目の変わらない自身とは違い、確実にユエは老いてゆく。

 身を焼くような思いに、アンジェラスは胸が張り裂けそうになる。

 苦悩とため息の数が増えるばかりで答えなど出てはこない。いつの間にか夕食の時間を迎え、アンジェラスを呼びにルーが部屋に顔を出す。

 ルーと食堂に赴き夕餐を口にしても何ひとつ味などしない。心ここにあらずのアンジェラスを見ながら、ルーもまた胸を痛めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運命の改変、承ります

月丘マルリ(12:28)
恋愛
 凶悪な魔術師を倒した聖騎士は、最後に不死の呪いをかけられ、呪われた英雄と呼ばれるようになった。彼は呪いを変えることができる魔女のもとへ訪れる。魔女はいう。「呪いを緩和するために、生贄となる花嫁が必要だ」と。呪われた英雄と魔女の婚活が始まった。  お引越し。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...