19 / 40
月夜と王宮のマグノリア
第十九話
しおりを挟む「――なるほどねえ。獣王ほどのハンサムだ、言い寄る娘のひとりやふたりいてもおかしくはないがね、まさかあの国の女王がねえ」
ロッタは指で頤をなぞりながら感心するような口ぶりで窓に目をやる。視線の先は海を越え、絶壁の要塞王国に向いているようだ。
その様子をうかがうアンジェラスは、カップをテーブルに戻すと前のめりでロッタに問う。
「レジーナ国の女王を知っているの!?」
「ああ、そうさ。知ってるとも」
「ロッタさんに知らないことってないの!?」
ハリマウの森とともに永きを生きるロッタ。けれどグランディーから大海を隔てた国の内情を、どうしてロッタは知り得るというのか。森の長とはいえ謎の多き獣だ。
驚愕の声をあげるアンジェラスに対し、ロッタは然も可笑しそうに種明かしをする。
「ははは。そりゃあ知らないこともあるさ。あたしはただの古ねずみだ、セレナのようにすべてを見通せる訳じゃない。あたしゃね、ウジャトの力があるのさ。それで大抵のことは知ることができる」
「ウジャト……それって確か、遠く離れた土地を見ることができる力だよね」
「おや、よく知ってるね。さすがは獣王のお子、アンジェラスは優秀だ。そうさ、知りたいことを心に呼び込むだけで、鳥の目を借りて見ることができる」
「じゃあロッタさんて聖獣なの?」
「驚いたかい。もっともあたしゃ人型になるなど御免だ、いくら獣王の決め事だからって変化なぞしない。アンジェラスにも言っとくよ。生まれたすがたが一番さ」
獣の頂点に立つ獣王の理であろうと、それに従うことのないロッタ。ティグリスとて了知するところであろうが、あえて咎め立てないのはロッタの考えを認容しているからだ。
驚き目を瞠っていたアンジェラスだが、ふと思いついたことを口にしてみる。
「お願い。レジーナ王国のことや女王のこと、ロッタさんが知っているかぎりを教えて」
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる