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ぼくの楽しいハネムーン
第十話
しおりを挟むちょうど身長差が頭ひとつ分あるぼくらだ。伊織さんのまえに立つ格好でも、ぼくの頭部からしっかり顔をのぞかせるほどに彼は長身で、悔しいやらぎゅっとされて恥ずかしいやら。
「ほら秋良。うつむいてないで、ちゃんとまえを見て笑って」
「うう……」
恥ずかしい。顔から火が噴くほどに。
ぼくを背中から抱きしめるポーズを取りながら、伊織さんは満面の笑みをレンズに向けている。きっとぼくなど足元にも及ばないほど、強靭な心臓をしているのだろう。
けれど写真は撮ってもらいたい。赤くなった顔をあげると、どうにか笑顔をつくりシャッターがおりた。すると地元のひとや観光客も、ぼくらにカメラを向けてくる。
抱き合う男が珍しいのだろうか、ぼくらを撮影しようというのだ。
「離して伊織さん。あのひとたち、ぼくらのコト撮ってるよ」
「いいじゃないか。僕らの仲を世界中に見せつけてやるチャンスだ」
そう言ったがはやいか、後ろから覗き込むように話す彼がぼくに口づける。
「んんっ!」
ほんの五秒ほどだったけど、そのとき耳に届いたシャッター音の凄まじさだけは、生涯にわたり忘れるコトのない音となった。
旅の恥はかき捨てというけれど、奇異の目に晒されながらの撮影会は寿命が縮まる。
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