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ぼくの楽しいハネムーン

第五話

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 伝統と格式を重んじる品格と歴史を感じる本館の雰囲気は、ぼくのような凡人には足が竦んで仕方がない。となりに伊織さんがいなければ、回れ右をして即刻立ち去るだろう。

 部屋を一歩出ると途端に場違いな気がするのは、ホテルの雰囲気に呑まれているからか、単にぼくが分不相応なのか……たぶん後者で間違いない。

 黄金色のエレベーターを降車し、ロビーを抜けホテルを後にすると、大通りに面したレストランに入る。

 すぐにウエイターが現れると、テーブルに案内され着席を――

「どうぞ、僕の王子様」

「うっ……ありがとうございます」

 着席しようと椅子に手を伸ばしたところで、それよりもはやく伊織さんが椅子を引き手を座面に向け、ぼくに腰を下ろせと秋良ファーストをしてくれた。

 まるで女性やお姫様にするような対応に頬が熱くなる。けれど隣席の女性客から感嘆のため息が耳に届くと、ぼくの鼻はにゅーんとまえに伸びていく。

「秋良は何が食べたい?」

「うーんと、そうですね……」

 メニューをひらき活字を読む。英語にはそこそこの自信があるけども、書かれている内容がサッパリ理解できない。

 顔を引きつらせていたところで伊織さんがくすりと笑い、ウエイターに声をかけオーダーをする。ぼくの分も合わせ料理を注文してくれたようで、ほっと安堵のため息をつく。

「秋良の好きな魚介と卵の料理をオーダーしたよ。今夜は肉か魚、どっちがいい」

「ありがとうございます。だったら晩はお肉がいいな」

「ふふ。了解」

 ぼくのコトを何でも分かってくれる彼に胸が甘く疼いてしまう。姿勢よく着席する彼のすがたは、まさしくお忍びでバカンスに訪れた王子様といったところ。

 周りの女性客と一緒になり、ぼくも感嘆のため息がもれた。
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