秋良と伊織のHappy Ending

最高のはじまり

第十六話

　その頃よりサマンサは大人びた顔立ちに体格をしていて、十八と歳を偽り働いていたそうだ。初めは順調であったバイトだけど、客とのトラブルにより警察が動く事態となった。

　オーナーだけはサマンサの境涯とほんとうの歳を知っていたため、事情聴取により未成年を雇用したうえに、労働基準法に定められた時間を上まわる労働を与えたと露呈する。

　稼ぎたいがために雇ってくれたオーナーに、深夜まで働きたいと自分が頼んだばかりに迷惑がかかるのを回避するため、聴取を受ける際”自分は従業員ではなく客”だと偽る。

　幸いなコトに、サマンサは厨房での作業が主であったため、店のスタッフにしか存在を知られてはいない。

　トラブルを起こした客が従業員だと主張しても、その他が口裏を合わせ客だと声をそろえば、警察も加害側の偽証だと疑わなかった。

　そして一件が落着すると、また働けと言ってくれたオーナーの情けを断わり、夜の街へとすがたを消した。

　高等部に進まず稼ぎに出たサマンサは、孤児院で肩身の狭い思いをする。誰ひとり邪見にはしないけど、それが逆にサマンサの居場所をなくし追いつめた。

　それまで稼いだ貯金を孤児院に残すと、育った場所をも手放した。彼が所持していたものは、着の身着のまま……それから顔も知らぬ父の懐中時計。

　院長に聴かされた話によれば、孤児院のまえに産着に包まれたサマンサのそばに、その懐中時計が置かれていたという。

　添えられていた手紙には、謝罪の言葉と自分は執事であることのみ。それ以外のコトは何ひとつ分からず、サマンサも親などいないものと育ったそうだ。