20 / 23
第五章
第20話「実験結果-翔太side」
しおりを挟む
(……)
翔太は制服のまま真っ暗な自室のベッドの上に、寝転がっていた。
どうやって、帰って来たのかも分からない。
力が入らない。何もしたくない。何も考えたくないのに――
先程の、華の唇の柔らかな感触が忘れられない。
なんで、あんな事してしまったんだろう――
確かにあの嵐の夜、寝ている華にキスしようとしたが、あれは余りに無防備に、人のベッドで寝こけている幼馴染への苛立ちと、単なる性への興味からだ。恐らく、そう。
でも、さっきのは――
きっと、華に「友達以外に感じてない」とハッキリ言われた事が、ショックだったからだ。
そんな事、言われなくても分かってた。ずっと昔から分かってた筈なのに……
悔しくて、悲しくて、切なくて、その気持ちが唇から伝わればいいのにと、心の何処かで思ってた。
やっぱりこの気持ちはそうなのだと、思わせられる。もしかして、違うんじゃないかと期待していたけれど――
「恋」だなんて、思いたくなかった。絶対報われないのに、そんなの虚しすぎる。
だったら、ただの異性として、性の対象として見ていた方が、まだマシだ。
長年ずっと、気がつかないふりをしていた代償がこれだ。
もう自分の気持ちを誤魔化せない――
その時、コンコンと部屋のドアをノックする音がした。
「おい、翔太、飯出来たぞー!」
「……」
翔太はとても、夕飯を食べる気になれなかった。
「いらない」
「は? ……なんだ? 具合悪いのか?」
「……」
「開けるぞ」
兄の陽太は返事も聞かず、部屋に入って来た。
「おい、真っ暗じゃん。電気も点けずに、マジ具合悪いのか?」
そう言うと、ベッドで寝転がっている翔太の額に手を当てた。
翔太はその手を跳ね除けるのも、億劫だった。
「熱はないな。何だ、またなんかあったのか?」
「……なんもない」
陽太は翔太を無視し、部屋の明かりを点けた。
翔太の項垂れる様子を見て、陽太はハァと深く溜息をつく。
「思春期拗らせんのもいい加減にしろ。ちゃんと飯は食わせろって、父さんに言われてんの! オレが怒られるの!」
そう言うと、陽太は無理やり翔太を抱え上げようとした。
突然の事に、翔太は対応出来なかった。
「わっ! ちょっ、ちょっと! 待って!」
「重っ! お前でかくなったなー! もう高一だもんな。わっ! 暴れんな!」
「分かった、分かったから! 降ろせって‼︎」
あー腰に来たと陽太は乱暴に、ベッドに翔太を放り投げる。
「痛った! ……何すんだよ、馬鹿兄貴!」
「いいから、下に降りて来い! 今すぐ!」
そうジト目で命令すると、陽太は翔太の部屋を怒った様子で出て行った。
(なんで、あっちが怒ってるんだよ……)
翔太は理不尽に思ったが、兄弟間の理不尽さは今に始まった事ではないので、ネクタイだけ外し、大人しく下に降りる事にした。
つづく
翔太は制服のまま真っ暗な自室のベッドの上に、寝転がっていた。
どうやって、帰って来たのかも分からない。
力が入らない。何もしたくない。何も考えたくないのに――
先程の、華の唇の柔らかな感触が忘れられない。
なんで、あんな事してしまったんだろう――
確かにあの嵐の夜、寝ている華にキスしようとしたが、あれは余りに無防備に、人のベッドで寝こけている幼馴染への苛立ちと、単なる性への興味からだ。恐らく、そう。
でも、さっきのは――
きっと、華に「友達以外に感じてない」とハッキリ言われた事が、ショックだったからだ。
そんな事、言われなくても分かってた。ずっと昔から分かってた筈なのに……
悔しくて、悲しくて、切なくて、その気持ちが唇から伝わればいいのにと、心の何処かで思ってた。
やっぱりこの気持ちはそうなのだと、思わせられる。もしかして、違うんじゃないかと期待していたけれど――
「恋」だなんて、思いたくなかった。絶対報われないのに、そんなの虚しすぎる。
だったら、ただの異性として、性の対象として見ていた方が、まだマシだ。
長年ずっと、気がつかないふりをしていた代償がこれだ。
もう自分の気持ちを誤魔化せない――
その時、コンコンと部屋のドアをノックする音がした。
「おい、翔太、飯出来たぞー!」
「……」
翔太はとても、夕飯を食べる気になれなかった。
「いらない」
「は? ……なんだ? 具合悪いのか?」
「……」
「開けるぞ」
兄の陽太は返事も聞かず、部屋に入って来た。
「おい、真っ暗じゃん。電気も点けずに、マジ具合悪いのか?」
そう言うと、ベッドで寝転がっている翔太の額に手を当てた。
翔太はその手を跳ね除けるのも、億劫だった。
「熱はないな。何だ、またなんかあったのか?」
「……なんもない」
陽太は翔太を無視し、部屋の明かりを点けた。
翔太の項垂れる様子を見て、陽太はハァと深く溜息をつく。
「思春期拗らせんのもいい加減にしろ。ちゃんと飯は食わせろって、父さんに言われてんの! オレが怒られるの!」
そう言うと、陽太は無理やり翔太を抱え上げようとした。
突然の事に、翔太は対応出来なかった。
「わっ! ちょっ、ちょっと! 待って!」
「重っ! お前でかくなったなー! もう高一だもんな。わっ! 暴れんな!」
「分かった、分かったから! 降ろせって‼︎」
あー腰に来たと陽太は乱暴に、ベッドに翔太を放り投げる。
「痛った! ……何すんだよ、馬鹿兄貴!」
「いいから、下に降りて来い! 今すぐ!」
そうジト目で命令すると、陽太は翔太の部屋を怒った様子で出て行った。
(なんで、あっちが怒ってるんだよ……)
翔太は理不尽に思ったが、兄弟間の理不尽さは今に始まった事ではないので、ネクタイだけ外し、大人しく下に降りる事にした。
つづく
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音
青春
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※第7回ライト文芸大賞奨励賞受賞作品です。
※表紙イラスト=ミカスケ様
ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!
いーじーしっくす
青春
赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。
しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。
その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。
証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。
そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。
深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。
拓真の想いは届くのか? それとも……。
「ねぇ、拓真。好きって言って?」
「嫌だよ」
「お墓っていくらかしら?」
「なんで!?」
純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。
のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。
水曜日は図書室で
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
青春
綾織 美久(あやおり みく)、高校二年生。
見た目も地味で引っ込み思案な性格の美久は目立つことが苦手でクラスでも静かに過ごしていた。好きなのは図書室で本を見たり読んだりすること、それともうひとつ。
あるとき美久は図書室で一人の男子・久保田 快(くぼた かい)に出会う。彼はカッコよかったがどこか不思議を秘めていた。偶然から美久は彼と仲良くなっていき『水曜日は図書室で会おう』と約束をすることに……。
第12回ドリーム小説大賞にて奨励賞をいただきました!
本当にありがとうございます!
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる