【完結】モノクロの僕と、色づく夏休み

第二章

第12話「再会」

　すでに俺の家では、恒例になっている夏の帰省……

　今年も両親の仕事の都合で、俺一人早く出発した。

　毎度のことだが、祖父母の家に着いたのは夕方近くだった。

「じいちゃんー！　来たよー!!」
「おお、晧平こうへいよう来たな！　疲れてるんじゃないか？」
「そんなでもない。電車で寝て来たから」
「皓平、お前にお客さん来とるぞ」
「客？」
「居間で待っとる」
「だれ？」
「友達じゃろ？」
「……友達？」

　祖父母の家の近所に同世代の子供はいないし、もし集落の子供なら祖父とは顔馴染みだろうから、こんな言い方しないはずだ。

　俺は訝しく思いながら、スニーカーを脱いだ。

　地元の友達だろうか？　ただこんな田舎くんだりまで、来るような友達に覚えはない。

　だいたい地元の友達に、俺の祖父の家を知ってる奴なんかいただろうか？

　俺は、あいつか、こいつかと友達の顔を思い浮かべながら、居間に向かった。　　

＊＊＊

（⁉︎）

　俺が居間に入ってまずビックリしたのは、人が倒れていたことだ。

　テーブルの影に隠れて体は見えなかったが、すらりと長くて白い脚が二本。

　始め、死体かと思い飛びのきそうになったが、その人間の体は微かに上下していて息をしており、俺はホッと息を撫で下ろす。

　俺は恐る恐る近づいて、テーブル越しにその正体を見極めようとした。

　長い脚の上には、さらにすらりとした体がついていた。

　ノースリーブのパーカーの裾から、細い腕が頭の方に伸びている。
　薄い唇の上に、形の良い通った鼻、長い睫毛を携えた瞼は閉じていた。

　髪は昆布のように黒くて長くて、畳の上に扇状に広がっている。

　身長は俺よりやや高いだろうが、どう見ても女性だ。

　だれだろう？
　見覚えがない。

　大体、俺に年上の女友達なんていないし。

　でもこの人、じいちゃんには「俺の友達」って言って、家に上がりこんでいるんだよな？

　忘れているだけで、もしかしてどこかで会ったのかも……と俺は脳をフル回転させて、思い出そうとした。

　俺は少女に近づいて、瞳の閉じた顔を恐る恐る覗きこんだ。

　……だれだっけ？

　その時、少女の目がぱちりと開いた。


「うわー！」

　俺は思わず後ず去って、バランスを崩し尻餅をついてしまった。

　ねっころがったまま、少女はそのまま顔だけ俺の方に向けた。

「……久しぶり、松葉晧平まつばこうへい」

　え？　久しぶり？　……それに俺の名前……やっぱり俺、この人とどこかで会ってる？

　俺の心を見抜いてか、少女はニヤリと微笑むと意地悪く目を細めた。

「薄情だなー。もう忘れちゃたの？」
「……どこかで、会いました？」
「二年前の夏、一夜を共にした仲じゃないか？」


　二年前……の夏？

　……。

「……お前、もしかして、蘇芳すおうアキラか⁉︎」
「うわっ、本当に分からなかったの？　薄情な男だな……」
「……だって……そんな……」

　二年前のあいつとは、まるで似ても似つかない……

　身長も、外見も、面影も……全然一致しない、っていうか別人だ。

　それに……


「お前、女だったのか⁉︎」

　まあ……その……アキラとの再会は、こんな感じだった。


つづく