74 / 95
3rd round after
第74話「三周目〜残酷な世界〜」
しおりを挟む
どのように帰ったか覚えていない――
家に帰ると「黙って一泊するなんて、どこに行ってたのっ」と母親が凄い剣幕でまくし立てて来た。晩酌しながら居間のテレビで野球の中継を観ていた父親が「まあまあ母さん、男にはそう言う時があるんだよ」と宥めに入った。
その時、斗哉のズボンのポケットにしまっていたスマホから着信音が鳴る。
『今度の土曜、三人で海行かね?』と言う、将暉からのグループメッセージだった。そのメッセージに陸が『OK』と返して来た。
スマホから消えていた、二人のログが戻っている。後二人……誰が消えていたのか確認できなかったが、この調子ならその二人の存在も元に戻ったのだろうと、斗哉はゆっくり目を細めた。
***
翌日斗哉は記憶を辿り、如月家まで来ていた。正確には「如月家があった場所」だ。
確かに如月家があったはずなのに、そこは空き地になっており、如月家があった形跡はなかったのだ。近所の人に尋ねたが、そこはだいぶ前から空き地だったと言うことだ。
もちろん、如月家の人がどうなったか分からない。心乃香はきっと「姉」は大丈夫と言っていたが、この分では如月姉の存在も消えているだろう。心乃香が思っていた以上に、心乃香は姉のことを想っていて、またその姉も、心乃香のことを想っていたのではないだろうか。
斗哉はふっと、可笑しさが込み上げていた。心乃香自身は認めないだろうが、彼女は自分と少しでも関わって来た人を、無意識下で大切に想っていた。陸や将暉に対してもそうだ。最後には結局二人を許したのだ。間違いない。そうでなければ「悲しむみんなが痛々しくて、見ていられなかった」なんて言葉は出て来ない。
人に傷つけられるのが、傷つけるのが怖くて、誰とも関わらない。だからみんな本当の彼女を知らなかった。
誰も知らなかった。誰も彼女を想わなかった――
皮肉なことに、それが世界を平穏に戻した。如月家が消えて以降斗哉の知る限り、誰も消えることはなかった。
『私が消えたって、別に世界は何も変わらないから』
心乃香が言った通りに、世界は残酷なほど彼女を必要とすることなく、何も変わらず時は流れていった。
つづく
家に帰ると「黙って一泊するなんて、どこに行ってたのっ」と母親が凄い剣幕でまくし立てて来た。晩酌しながら居間のテレビで野球の中継を観ていた父親が「まあまあ母さん、男にはそう言う時があるんだよ」と宥めに入った。
その時、斗哉のズボンのポケットにしまっていたスマホから着信音が鳴る。
『今度の土曜、三人で海行かね?』と言う、将暉からのグループメッセージだった。そのメッセージに陸が『OK』と返して来た。
スマホから消えていた、二人のログが戻っている。後二人……誰が消えていたのか確認できなかったが、この調子ならその二人の存在も元に戻ったのだろうと、斗哉はゆっくり目を細めた。
***
翌日斗哉は記憶を辿り、如月家まで来ていた。正確には「如月家があった場所」だ。
確かに如月家があったはずなのに、そこは空き地になっており、如月家があった形跡はなかったのだ。近所の人に尋ねたが、そこはだいぶ前から空き地だったと言うことだ。
もちろん、如月家の人がどうなったか分からない。心乃香はきっと「姉」は大丈夫と言っていたが、この分では如月姉の存在も消えているだろう。心乃香が思っていた以上に、心乃香は姉のことを想っていて、またその姉も、心乃香のことを想っていたのではないだろうか。
斗哉はふっと、可笑しさが込み上げていた。心乃香自身は認めないだろうが、彼女は自分と少しでも関わって来た人を、無意識下で大切に想っていた。陸や将暉に対してもそうだ。最後には結局二人を許したのだ。間違いない。そうでなければ「悲しむみんなが痛々しくて、見ていられなかった」なんて言葉は出て来ない。
人に傷つけられるのが、傷つけるのが怖くて、誰とも関わらない。だからみんな本当の彼女を知らなかった。
誰も知らなかった。誰も彼女を想わなかった――
皮肉なことに、それが世界を平穏に戻した。如月家が消えて以降斗哉の知る限り、誰も消えることはなかった。
『私が消えたって、別に世界は何も変わらないから』
心乃香が言った通りに、世界は残酷なほど彼女を必要とすることなく、何も変わらず時は流れていった。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
ほつれ家族
陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。
曙光ーキミとまた会えたからー
桜花音
青春
高校生活はきっとキラキラ輝いていると思っていた。
夢に向かって突き進む未来しかみていなかった。
でも夢から覚める瞬間が訪れる。
子供の頃の夢が砕け散った時、私にはその先の光が何もなかった。
見かねたおじいちゃんに誘われて始めた喫茶店のバイト。
穏やかな空間で過ごす、静かな時間。
私はきっとこのままなにもなく、高校生活を終えるんだ。
そう思っていたところに、小学生時代のミニバス仲間である直哉と再会した。
会いたくなかった。今の私を知られたくなかった。
逃げたかったのに直哉はそれを許してくれない。
そうして少しずつ現実を直視する日々により、閉じた世界に光がさしこむ。
弱い自分は大嫌い。だけど、弱い自分だからこそ、気づくこともあるんだ。
文化研究部
ポリ 外丸
青春
高校入学を控えた5人の中学生の物語。中学時代少々難があった5人が偶々集まり、高校入学と共に新しく部を作ろうとする。しかし、創部を前にいくつかの問題が襲い掛かってくることになる。
※カクヨム、ノベルアップ+、ノベルバ、小説家になろうにも投稿しています。
魔法少女の敵なんだが魔法少女に好意を寄せられて困ってる
ブロッコリークイーン
青春
この世界では人間とデスゴーンという人間を苦しめることが快楽の悪の怪人が存在している。
そのデスゴーンを倒すために魔法少女が誕生した。
主人公は人間とデスゴーンのハーフである。
そのため主人公は人間のフリをして魔法少女がいる学校に行き、同じクラスになり、学校生活から追い詰めていく。
はずがなぜか魔法少女たちの好感度が上がってしまって、そしていつしか好意を寄せられ……
みたいな物語です。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
巡る季節に育つ葦 ー夏の高鳴りー
瀬戸口 大河
青春
季節に彩られたそれぞれの恋。同じ女性に恋した者たちの成長と純真の話。
五部作の第一弾
高校最後の夏、夏木海斗の青春が向かう先は…
季節を巡りながら変わりゆく主人公
桜庭春斗、夏木海斗、月島秋平、雪井冬華
四人が恋心を抱く由依
過ぎゆく季節の中で由依を中心に4人は自分の殻を破り大人へと変わってゆく
連載物に挑戦しようと考えています。更新頻度は最低でも一週間に一回です。四人の主人公が同一の女性に恋をして、成長していく話しようと考えています。主人公の四人はそれぞれ季節ごとに一人。今回は夏ということで夏木海斗です。章立ては二十四節気にしようと思っていますが、なかなか多く文章を書かないためpart で分けようと思っています。
暇つぶしに読んでいただけると幸いです。
彼女は終着駅の向こう側から
シュウ
青春
ぼっちの中学生トヨジ。
彼の唯一の趣味は、ひそかに演劇の台本を書くことだった。
そんなトヨジの前に突如現れた美少女ライト。
ライトをみたトヨジは絶句する。
「ライトはぼくの演劇のキャラクターのはず!」
本来で会うことのないはずの二人の出会いから、物語ははじまる。
一度きりの青春を駆け抜ける二人の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる