59 / 95
3rd round after
第59話「三周目〜本が好きな理由〜」
しおりを挟む
二人が岡山に着いたのはお昼より少し前で、ここから特急に乗り換えが必要だった。更にその後、出雲大社に行くまでは何種類かの電車を乗り継ぐ。
斗哉はこんな長距離の移動を一人でしたことがなく、本当にスマホがある時代に生まれて良かったと思った。これがなければ、こんな所まで一人で来るのも苦労しただろうし、心細かったかもしれない。
(いや、一人じゃ、なかったか)
斗哉は後ろを物珍しげに見渡しながら着いて来る、心乃香の方を振り向いた。
「何?」
「何? じゃねえよっ。何だよそれっ? いつの間に買ったんだよっ」
「桃シェイク。岡山って行ったら、桃でしょ。あげないわよ」
「いらねーよっ」
(本当に、マイペースな奴)
こいつを見てると、すべてがどうでも良くなってくると、斗哉は呆れて溜め息を吐いた。
***
ここから出雲市まで約一時間。
電車に揺られてると眠たくなってくるのはどうしてだろうと、斗哉はウトウトしてきたが、心乃香はリュックから文庫を取り出すと、本を読み始めた。斗哉は書籍はもっぱら電子書籍派だ。電子書籍なら何処でも読めるし、がさばらない。
「如月って、本当に本好きなのな」
心乃香はその問いにすぐ答えなかった。しばらくすると、本を愛おしそうに見つめボソリと呟いた。
「本を読んでいる時は、世界から切り離されるから」
世界からの乖離――他者と関わりたくないと言う拒絶――
「如月は、何で着いて来たの? オレたちのこと大嫌いなんだろ。許せないんだろ。だったら本当は、放って置きたかったんじゃないのか」
斗哉は疑問に思ってたことを、一気に吐き出した。
「……私」
心乃香は、窓の外を見ながら呟いた。
「いつか何処かの孤島に移住して、一人でひっそり好きなことだけやって暮らしたい」
「は?」
「でも今は、無理なのは分かってる。親の扶養下にいるし、中学生が今の世の中、一人でなんか生きていけない」
「……親と仲悪いとか?」
心乃香は斗哉の問いに対して、呆れるようにフフッと笑った。
「そういうことじゃないのよ。全てのしがらみから解放されたいってこと。いくら他人と関わりたくないからって、陸の孤島にでも一人で暮らさなきゃ、どうしたって関わるってことよ」
「どうして、そんなに関わりたくないんだよ」
「他人と関わると、その人に気を遣ったり意見を合わせたり、嫌われないようにしたり……そういうことが、煩わしいから」
「それは仕方ないだろ。他人と関わるってそう言うことじゃん。それに一人って寂しくないか」
心乃香は、斗哉の杓子定規な答えにうんざりし嘲笑した。
「はっ、出た、陽キャの理屈。一人だと寂しいだろって決めつけ。寂しくなんかないわよ、別に。せいせいするわ」
斗哉を睨みつけると、心乃香は静かに呟いた。
「他人に傷つけられたり、傷つけたりするくらいなら、一人の方がずっといい」
「それじゃ、何で」
「今の普通に中学生やってる状態じゃ、どうしたって他人に関わる。五十嵐や菊池だってクラスメイトとして私に関わってる。関わってる以上は、どうしたって私の中から排除できない。消えたことが私の頭から離れない」
「それって……」
簡単に言えば、二人を心配してるってことじゃないかと斗哉は思った。心乃香が他人と関わりたくないと言う裏には、他人が自分にとって、大きな存在だからなんじゃないかと感じていた。
つづく
斗哉はこんな長距離の移動を一人でしたことがなく、本当にスマホがある時代に生まれて良かったと思った。これがなければ、こんな所まで一人で来るのも苦労しただろうし、心細かったかもしれない。
(いや、一人じゃ、なかったか)
斗哉は後ろを物珍しげに見渡しながら着いて来る、心乃香の方を振り向いた。
「何?」
「何? じゃねえよっ。何だよそれっ? いつの間に買ったんだよっ」
「桃シェイク。岡山って行ったら、桃でしょ。あげないわよ」
「いらねーよっ」
(本当に、マイペースな奴)
こいつを見てると、すべてがどうでも良くなってくると、斗哉は呆れて溜め息を吐いた。
***
ここから出雲市まで約一時間。
電車に揺られてると眠たくなってくるのはどうしてだろうと、斗哉はウトウトしてきたが、心乃香はリュックから文庫を取り出すと、本を読み始めた。斗哉は書籍はもっぱら電子書籍派だ。電子書籍なら何処でも読めるし、がさばらない。
「如月って、本当に本好きなのな」
心乃香はその問いにすぐ答えなかった。しばらくすると、本を愛おしそうに見つめボソリと呟いた。
「本を読んでいる時は、世界から切り離されるから」
世界からの乖離――他者と関わりたくないと言う拒絶――
「如月は、何で着いて来たの? オレたちのこと大嫌いなんだろ。許せないんだろ。だったら本当は、放って置きたかったんじゃないのか」
斗哉は疑問に思ってたことを、一気に吐き出した。
「……私」
心乃香は、窓の外を見ながら呟いた。
「いつか何処かの孤島に移住して、一人でひっそり好きなことだけやって暮らしたい」
「は?」
「でも今は、無理なのは分かってる。親の扶養下にいるし、中学生が今の世の中、一人でなんか生きていけない」
「……親と仲悪いとか?」
心乃香は斗哉の問いに対して、呆れるようにフフッと笑った。
「そういうことじゃないのよ。全てのしがらみから解放されたいってこと。いくら他人と関わりたくないからって、陸の孤島にでも一人で暮らさなきゃ、どうしたって関わるってことよ」
「どうして、そんなに関わりたくないんだよ」
「他人と関わると、その人に気を遣ったり意見を合わせたり、嫌われないようにしたり……そういうことが、煩わしいから」
「それは仕方ないだろ。他人と関わるってそう言うことじゃん。それに一人って寂しくないか」
心乃香は、斗哉の杓子定規な答えにうんざりし嘲笑した。
「はっ、出た、陽キャの理屈。一人だと寂しいだろって決めつけ。寂しくなんかないわよ、別に。せいせいするわ」
斗哉を睨みつけると、心乃香は静かに呟いた。
「他人に傷つけられたり、傷つけたりするくらいなら、一人の方がずっといい」
「それじゃ、何で」
「今の普通に中学生やってる状態じゃ、どうしたって他人に関わる。五十嵐や菊池だってクラスメイトとして私に関わってる。関わってる以上は、どうしたって私の中から排除できない。消えたことが私の頭から離れない」
「それって……」
簡単に言えば、二人を心配してるってことじゃないかと斗哉は思った。心乃香が他人と関わりたくないと言う裏には、他人が自分にとって、大きな存在だからなんじゃないかと感じていた。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる