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第54話「三周目〜推理と仮定〜」
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斗哉は脱力している心乃香を黙って見つめた。心乃香はその視線に気がついた。
「時間を戻すなんて……あの日の私のやったことのせい?」
斗哉は虚を突かれて言葉を失った。時間を戻したのは、彼女を取り戻すためではあったが、その理由もまったくなかったとは言えないかもしれない。結局そのことに関しては、どうにもならなかったが。斗哉はあの時のことを再び思い出し、胸が詰まった。
「ごめん……本当に、あの時のことは」
斗哉は、そう言うことしか出来なかった。
***
その願いをした後に、運悪く斗哉は『命』を持って行かれてしまった。願いは叶わなかった。斗哉は当然そのことを覚えてない。と言うか、死んでしまったのだから知るわけがないのだと心乃香は思った。
斗哉が二回目だと思っているのは、実は三回目だ。
(その代償を、私が肩代わりしたからだ。待てよ――)
「この一回目と二回目、私、消えてたの?」
斗哉は静かに頷いた。
「何で?」
「……オレにもよく」
心乃香はこの不思議な現象について改めて考えた。瀕死だった八神斗哉を黒猫が助けたことで自然の調律が歪み、私は消えてしまったのかもしれないと心乃香はふっと思いついた。
この時、勝手に代償が持って行かれていたのかもしれない。
でもこの八神斗哉にとって、自分が大切な存在だったとはとても考えられない。むしろ憎んでいたはずだ。
でも「憎しみ」も彼の一部と仮定すれば、その対象であった自分自身が代償として持っていかれても不思議ではないかもしれない。
心乃香は改めて斗哉の瞳を覗き込んだ。「何だよっ」と斗哉はビクッと身を引いた。
「いや、なんか分かった気がする」
「えっ?」
「で、なんで七月四日に戻ったの? 何か意味があるの?」
心乃香は口の前で手を組んで、斗哉に先を促した。
「えっと、時間が戻せる最大が、七月四日までだったんだ。出来ることなら三日まで戻って、あの悪巧みをなかったことにしたかった。そうすれば、如月を傷つけることもなかったのにな」
それを聞いて、心乃香は沸々と怒りが込み上げてきた。
「言葉にしたことは、決してなくならないのよ。時間を戻してなかったことにするなんて、虫が良すぎるんじゃない?」
「……そうだな」
斗哉は自分のしようとしてたことに呆れて、力なく笑った。
「でもせめて、あの告白ドッキリを実行しないために二回目の七月四日、学校を休んだんだ」
「私、七月四日に、八神が学校を休んだ記憶がないわ」
「これは想像だけど、オレが休んだ時点で未来が変わったんだと思う。どう言うことか今でも分からないけど、休み明け学校に行ったら、将暉たちみたいに如月が存在ごと消えてたんだ。誰も如月のこと覚えてなかった」
そう告白する斗哉の顔は、悲壮感が満ちていた。自分の知らないその『二回目』がどんなものだったのか。心乃香は知るのが怖くなった。
ただ、ここで一つの仮定が成り立つ。
斗哉が二回目と思っている三回目の代償――
(私が支払った代償は『自分の存在』だったのかもしれない)
斗哉は初めて願いを叶える代償に、既に『命』を持って行かれている。でも周りは彼のことを覚えてた。周りの者から『彼の記憶』は奪われなかった。それはどうしてなのかは分からない。
でも存在そのものがなくなる。心乃香は五十嵐や菊池が消えた時、『死ぬよりはいい』と思っていた。だって周りは、八神が死んだ時のように悲しむことはないのだ。悲しむ対象を覚えてないから。
でも『存在自体がなくなる』というのは、消えた本人にとっても、悲しむ対象さえ忘れてしまう周りの人間にとっても、死ぬより酷いことなのではないかと、斗哉を見ていて心乃香はそう感じた。
それでも――
「本当に馬鹿なことしたわね。私が消えた時、そのままにしておけば良かったのに。私とのこと、なかったことにしたかったんでしょ?」
「……ふざけんな」
斗哉は俯いたまま、心乃香にそう吐き出した。
つづく
「時間を戻すなんて……あの日の私のやったことのせい?」
斗哉は虚を突かれて言葉を失った。時間を戻したのは、彼女を取り戻すためではあったが、その理由もまったくなかったとは言えないかもしれない。結局そのことに関しては、どうにもならなかったが。斗哉はあの時のことを再び思い出し、胸が詰まった。
「ごめん……本当に、あの時のことは」
斗哉は、そう言うことしか出来なかった。
***
その願いをした後に、運悪く斗哉は『命』を持って行かれてしまった。願いは叶わなかった。斗哉は当然そのことを覚えてない。と言うか、死んでしまったのだから知るわけがないのだと心乃香は思った。
斗哉が二回目だと思っているのは、実は三回目だ。
(その代償を、私が肩代わりしたからだ。待てよ――)
「この一回目と二回目、私、消えてたの?」
斗哉は静かに頷いた。
「何で?」
「……オレにもよく」
心乃香はこの不思議な現象について改めて考えた。瀕死だった八神斗哉を黒猫が助けたことで自然の調律が歪み、私は消えてしまったのかもしれないと心乃香はふっと思いついた。
この時、勝手に代償が持って行かれていたのかもしれない。
でもこの八神斗哉にとって、自分が大切な存在だったとはとても考えられない。むしろ憎んでいたはずだ。
でも「憎しみ」も彼の一部と仮定すれば、その対象であった自分自身が代償として持っていかれても不思議ではないかもしれない。
心乃香は改めて斗哉の瞳を覗き込んだ。「何だよっ」と斗哉はビクッと身を引いた。
「いや、なんか分かった気がする」
「えっ?」
「で、なんで七月四日に戻ったの? 何か意味があるの?」
心乃香は口の前で手を組んで、斗哉に先を促した。
「えっと、時間が戻せる最大が、七月四日までだったんだ。出来ることなら三日まで戻って、あの悪巧みをなかったことにしたかった。そうすれば、如月を傷つけることもなかったのにな」
それを聞いて、心乃香は沸々と怒りが込み上げてきた。
「言葉にしたことは、決してなくならないのよ。時間を戻してなかったことにするなんて、虫が良すぎるんじゃない?」
「……そうだな」
斗哉は自分のしようとしてたことに呆れて、力なく笑った。
「でもせめて、あの告白ドッキリを実行しないために二回目の七月四日、学校を休んだんだ」
「私、七月四日に、八神が学校を休んだ記憶がないわ」
「これは想像だけど、オレが休んだ時点で未来が変わったんだと思う。どう言うことか今でも分からないけど、休み明け学校に行ったら、将暉たちみたいに如月が存在ごと消えてたんだ。誰も如月のこと覚えてなかった」
そう告白する斗哉の顔は、悲壮感が満ちていた。自分の知らないその『二回目』がどんなものだったのか。心乃香は知るのが怖くなった。
ただ、ここで一つの仮定が成り立つ。
斗哉が二回目と思っている三回目の代償――
(私が支払った代償は『自分の存在』だったのかもしれない)
斗哉は初めて願いを叶える代償に、既に『命』を持って行かれている。でも周りは彼のことを覚えてた。周りの者から『彼の記憶』は奪われなかった。それはどうしてなのかは分からない。
でも存在そのものがなくなる。心乃香は五十嵐や菊池が消えた時、『死ぬよりはいい』と思っていた。だって周りは、八神が死んだ時のように悲しむことはないのだ。悲しむ対象を覚えてないから。
でも『存在自体がなくなる』というのは、消えた本人にとっても、悲しむ対象さえ忘れてしまう周りの人間にとっても、死ぬより酷いことなのではないかと、斗哉を見ていて心乃香はそう感じた。
それでも――
「本当に馬鹿なことしたわね。私が消えた時、そのままにしておけば良かったのに。私とのこと、なかったことにしたかったんでしょ?」
「……ふざけんな」
斗哉は俯いたまま、心乃香にそう吐き出した。
つづく
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