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3st round

第36話「三周目〜二度目のお祭り〜」

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七月十三日 日曜日

 祭りの当日は見事に晴れて、待ち合わせの駅前は沢山の人々で賑わっていた。皆浮かれている。いや本来祭りというものは、そういうものなのかもしれない。そんな風に通り過ぎる人々を、オレはボーと眺めていた。

 もうすぐ如月がやって来る。今日ですべてが終わる。思えば長い十日間だった。そんな感慨かんがいにオレがひたっていると、聞き覚えのある声が自分に呼びかける。

「八神君、お待たせ」

 そこには、浴衣姿の如月が立っていた。

 普段の膨張した癖毛の髪を丁寧に結い上げ、可愛らしく鮮やかな飾りを刺して、薄水色の爽やかな浴衣に身を包んでいる。眼鏡をしていないせいか、いつもより目が大きく見える。その瞳でオレの顔を覗き込んできた。

 この気合いの入り方、オレを絶対出し抜くと言う相当な気概きがいを感じる。

 大体一概に浴衣と言っても、着付けるにも準備がかなり必要だったろう。眼鏡を普段掛けているにもかかわらず、黒板を凝視していたことから、相当視力も悪いはず。今、眼鏡をしていないと言うことは、恐らくコンタクト。普段していないのは、あまり合わないからだろう。それなのに自分を可愛く見せる為に、オレを騙す為だけに大変な根性だ。恐れ入るよ。

(ま、可愛いなんて、絶対言ってやらないけど)

「じゃ、行こうか」とオレは如月に促した。


***

 隣を歩く如月は「凄い人だね」と少し祭りの気に当てられたように、上ずって笑っていた。お祭り仕様の作り笑顔だろう。
 
 不意に如月がふらつく。オレが腕を掴んで支えてやると「ごめん、歩き慣れなくって」と、ハハハと如月はすまなそうに笑った。

 ドジっ子のフリだったのか。本当その徹底した所、感心するわ。オレはそのままスルリと如月の手を握った。

「あ、いや、危ないからさ」

 手を握られた如月はギョッとしていたが、暫くしてオレの手を握り返してきた。

(あの時、めっちゃドキドキしてたな、オレ。マジウケるわ)

 オレは手から伝わる如月の温もりから、虚しさと切なさを感じた。

 手を繋いだまま神社内の参道に向かう。道の周りには沢山の屋台が出ており、華やかで、いい匂いがした。売店には凄い人で中々近寄れず、流されるように本堂の参道前の開けた所に出た。ここはまだ人混みがマシで、神社関係者が呼び込みをしている。

(確か、ここで御守りを……) 

 オレは御守りを買うか迷った。一回目は買ったが、アレは如月と自分の縁を本当に結んでしまった。
 
 これから告白ドッキリ返しを受けて、その後、彼女とはもう接触することはないだろうと考えると、縁をすっぱり切る為にここは御守りを買わない方が良いように思えたからだ。

 大体如月だって、本当は自分との縁なんか結びたくなかったはずだ。ちらっと如月を見る。

「買う?」

 オレは如月に判断を委ねてみた。すると、和かに如月は頷いた。

 そう。どこまでも、オレをおとしめたいわけだ。

つづく
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