上 下
33 / 95
3st round

第33話「三周目〜二度目の告白〜」

しおりを挟む
 如月は唖然とオレを見ていた。まさにそれは、豆鉄砲を喰らったような顔だった。

 一回目の時はそう思っていた。だが如月は、既に自分たちの悪巧みのことを知っていたはずなのに――大体、体育館裏に呼び出されるベタなシチュエーション。「告白される」と想像できそうなものなのに、何であえてその誘いに乗って来たのか。

「……え?」
「いや、だから、その……オレ、如月のことが好きなんだ」

 本当に驚いているように見える――

 だが次の瞬間、如月の目の色が変わったように感じた。如月は俯いて、モジモジしながら呟いた。

「……や、八神君と殆ど話したこと、ないよね。わ、私なんかの、どこが好きなの?」

 殆ど? 一回目は「話したことがない」ときっぱり言われた気がする。確かに、今まで如月と話したこともなかった。ヤバイ……会話の内容が変わった? もしかして今朝、教室で会話してしまったせいか。
 
 オレは、早くも一回目と違う会話の内容に焦りを覚えた。ただそれを、顔に出すのはもっとまずいと切り替えた。

「か、可愛いところ」

 確か、好きになった理由をこう答えた。笑顔が引きつる。ちゃんと笑えているだろうか。

「えっ、あ、あの、でも、私、八神君のことよく知らないし。えっと……」

 この時、如月は自分が騙されていることを知っていたのに、この態度。告白を鵜呑みにしてないぞ、さあどう来る? とオレの出方を伺っていたのだろう。怖すぎる。

「それじゃあさ、とりあえずオレのことをよく知ってもらう為に、二人でどこか出かけない?」
「えっ」

 ん? また如月が、素に戻った気がする。何なんだろうこの違和感。

「来週、隣町でお祭りあるの知ってる? 一緒に行かない?」
「えっと……」

 如月は恥ずかしそうに俯く。何なんだそのキャラは? こいつの演技力凄いな。文芸部じゃなくて、演劇部に入った方がいいんじゃね。

「……ダメ?」

 オレは甘えるように続けた。まあ、オレも大概たいがいだけどな。如月は真っ赤になって、俯きがちに答えた。

「わ、分かった。……いいよ」

 この時、一回目のオレは「楽勝だ」と勘違いしていた。だが既に、オレは完全に如月の術中に嵌っていたわけだ。
 
 何が「地味で暗くて、男に免疫なさそうな陰キャ」だ。完全に男を手玉に取って来てる。大人しそうな風態で、こっちを喰らおうとしてる。マジ怖い。女って怖い。

***

 オレは体育館裏で如月に告白した時のことを、改めて思い出していた。

 あの「違和感」――

 如月は祭りの夜、オレたちの会話を「聞いていた」と言っていた。恐らく教室に入ろうとした時、オレたちの声を廊下から、聞き耳を立てていたのだろう。

 ということは会話の内容は分かったが、「誰が話しているか」までは分からなかったのではないか。

 だからあの会話の主を確かめる為に、わざわざ体育館裏に現れたのだ。体育館裏にいるのがオレだと確認し、初めて会話の主が誰だか分かったんじゃないだろうか。
 
 だから「素」で驚いた。

 オレたちが誰か見極めて、報復する為? 怖すぎるんだけど。

 如月の恐ろしさと執念に改めて恐怖しながら如月の方を見遣ったら、ふっと彼女と目があった。慌てて如月は真っ赤になって俯いた。

 分かってる「フリ」だよな。オレに気のあるフリ。実際少なからず女は男に対して、こんな計算をして、男に気を持たせてるのかもしれないとマジマジと感じ、オレは軽く女性不信になりそうだった。

***

(終わった……)

 緊張の糸がとけたように、オレは自室のベッドに倒れ込んだ。

 とりあえず一日目が何とか終了した。如月は消えなかった。これを七月十三日まで続けるのかと思うと、どっと疲れが襲って来た。しんどすぎる。メンタルがやられそうだと思った。でも、もう止めようと思えなかった。

 如月がいない世界線――相手すらいない、戦えない状態より、まだマシに感じたからだ。

 それに不思議と心地よい疲労感のようなものが襲って来て、今夜はぐっすり眠れそうだと思った。

 ただ眠る前に、一回目どんなことがあったのか改めて確認しなければと、ノートを引っ張り出した。誤差が生じると咄嗟に対応できない。未来が変わってしまう。

 オレはノートに、覚えている出来事を書き出して行った。自分はこれから如月に報復を受ける為に、何を一生懸命やってるのかと少し可笑しくなった。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が、実はドッキリだった? わかりました。それなら、今からそれを本当にしましょう。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるエルフィリナは、自己中心的なルグファドという侯爵令息と婚約していた。 ある日、彼女は彼から婚約破棄を告げられる。突然のことに驚くエルフィリナだったが、その日は急用ができたため帰らざるを得ず、結局まともにそのことについて議論することはできなかった。 婚約破棄されて家に戻ったエルフィリナは、幼馴染の公爵令息ソルガードと出会った。 彼女は、とある事情から婚約破棄されたことを彼に告げることになった。すると、ソルガードはエルフィリナに婚約して欲しいと言ってきた。なんでも、彼は幼少期から彼女に思いを寄せていたらしいのだ。 突然のことに驚くエルフィリナだったが、彼の誠実な人となりはよく知っていたため、快くその婚約を受け入れることにした。 しかし、そんなエルフィリナの元にルグファドがやって来た。 そこで、彼は自分が言った婚約破棄が実はドッキリであると言い出した。そのため、自分とエルフィリナの婚約はまだ続いていると主張したのだ。 当然、エルフィリナもソルガードもそんな彼の言葉を素直に受け止められなかった。 エルフィリナは、ドッキリだった婚約破棄を本当のことにするのだった。

恋とは落ちるもの。

藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。 毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。 なのに。 恋なんて、どうしたらいいのかわからない。 ⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031 この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。 ※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

私の作った料理を食べているのに、浮気するなんてずいぶん度胸がおありなのね。さあ、何が入っているでしょう?

kieiku
恋愛
「毎日の苦しい訓練の中に、癒やしを求めてしまうのは騎士のさがなのだ。君も騎士の妻なら、わかってくれ」わかりませんわ? 「浮気なんて、とても度胸がおありなのね、旦那様。私が食事に何か入れてもおかしくないって、思いませんでしたの?」 まあ、もうかなり食べてらっしゃいますけど。 旦那様ったら、苦しそうねえ? 命乞いなんて。ふふっ。

sweet!!

仔犬
BL
バイトに趣味と毎日を楽しく過ごしすぎてる3人が超絶美形不良に溺愛されるお話です。 「バイトが楽しすぎる……」 「唯のせいで羞恥心がなくなっちゃって」 「……いや、俺が媚び売れるとでも思ってんの?」

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...