上 下
23 / 95
1st round

第23話「斗哉の葛藤」

しおりを挟む
「どういうことだ」

 オレはわけが分からなくて、うまく息ができなかった。

「そのまんまの意味だよ。お前が死にたくないって願った。で、その代償として、あの女が消えたってこと」

 オレのせい?
 オレのせいで、如月は消えたのか。
 うまく思考が働かない。

「良かったじゃんっ」

 陽気な黒猫の声が、オレの心を鷲掴んだ。

「彼女のこと、忘れたかったんじゃないの」

 ――そうだ。オレはあの日のことを忘れたかった。

「忘れるどころか、なかったことになったし、その彼女も存在しないし、もう二度と彼女のことで苦しむことはないよ」

 自分は心のどこかで、彼女に消えてほしいと思っていたのかもしれない。自分に非はないと、自分は悪くないと思いたかった。それには彼女の存在が邪魔なのだ。

「きっと彼女の存在が消えたのは、お前が本当はそう願ってたからだよ。命も助かり、邪魔者も消えた。お前の人生バラ色じゃんっ」

 黒猫はそう囁くと、スッと鳥居の上から姿を消した。

 オレにはもう、黒猫を呼ぶ気力は残っていなかった。真っ暗になった境内に、ただただ立ち尽くすしかなかった。

***

 自分が、自宅にどう戻ってきたか覚えてない。オレはそのまま自室のベッドに突っ伏した。自分は悪くない。悪くないと言い聞かせながら。

 だいたい、如月が地味で暗く、男に免疫なさそうな陰キャなのは本当のことだろ。本当のことを言って何が悪い。本人だって自分をそう思ってるから、それが本当のことだから傷ついた。

 そう思われたくないんだったら変わればいい。勝手に傷ついて如月はなんの努力もしていないじゃないか。他人にそう思われたって、仕方ないだろう。

 その時、あの祭りの日の如月の浴衣姿を思い出して胸の奥が詰まった。

(あれは、違うっ。オレを騙すためにした努力だ)

 努力と浮かんで、慌てて頭を振る。違う、違うっと別のことを考えようとした。

 結局、如月はオレを騙して笑いたかったのだ、何ら自分らと変わらない。たかが悪口を言われたからって自分を正当化し、やってることはオレたちと同じだ。正義ぶったって、オレたちと同じ穴のムジナなのだ。悪なのだ。

 オレはそう考えると「悪」の如月が、この世からいなくなって良かったのだと思い始めた。

 たとえ如月が消えたのが自分のせいだとしても、オレはむしろ良いことをしたのだ。オレが「悪」をこの世から一人消してやった。だいたい、あんなうだつの上がらない人間が一人消えた所で、世の中になんら影響はない。誰も悲しまない。悲しむどころか誰も覚えてないんだから。

 むしろ彼女が消えたことは「必然」なのだと、オレは思うことにした。

***

 オレは次の日から、心と体が分離したような感覚に陥った。心は自分を正当化し、気丈に何事もなく過ごそうとしているのに、体がついてこない。うまく命令できない。

 遂には眠ることができなくなってしまっていた。どうしてだ。病気は気からというように、気を張っていれば体がついてくるものではないのか。今、自分に真逆なことが起きている。

 どうしたら、どうしたら。

 オレは体が動かなくなっていく中で、もしかしたら自分はこのまま「如月の呪い」に殺されるのかもしれないと思っていた。

***

 ほどなくして、やっと浅い眠りにつくことができた。これですべてから解放される。そう思っていた。

 真っ白い空間に、見覚えのある古い鳥居が見えた。あれは……隣町の神社のあの鳥居だ。でもこれは夢だ。やっと眠れたのだ。良かった。そう夢の中で目を閉じかけた時、またあの鈴の音が聞こえた。

 オレはそれに応えるように、瞼を再び開ける。目の前にあの黒猫が座ってこちらを見ていた。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

井上キャプテン

S.H.L
青春
チームみんなで坊主になる話

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】眼鏡ごしの空

一茅苑呼
青春
幼なじみの『彼』に似た先輩。 「いまでもオレ、松原のことが好きだよ」 ───『彼』に似ているから駄目なのに、『彼』に似すぎているから、突き放すことができない……。

パラメーターゲーム

篠崎流
青春
父子家庭で育った俺、風間悠斗。全国を親父に付いて転勤引越し生活してたが、高校の途中で再び転勤の話が出た「インドだと!?冗談じゃない」という事で俺は拒否した 東京で遠い親戚に預けられる事に成ったが、とてもいい家族だった。暫く平凡なバイト三昧の高校生活を楽しんだが、ある日、変なガキと絡んだ事から、俺の人生が大反転した。「何だこれ?!俺のスマホギャルゲがいきなり仕様変更!?」 だが、それは「相手のパラメーターが見れる」という正に神ゲーだった

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...