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1st round
第18話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその12」
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「……え?」
「ちょっとは楽しめたかって、聞いてるんだけど」
八神はわけが分からないという顔をしていた。本当に騙されていることに気が付いてなかった様だ。
「あの告白、嘘だったんでしょ」
「えっ」
「それで、私を笑者にしたかったんでしょ」
冷ややかに据わった目で、私は八神を睨み上げ小首を傾げた。
「あの眼鏡掛けた、癖毛の、地味で暗そうな奴だよな」
「あー、あいつか。空気過ぎて、話したこともねーわ」
「男に免疫なさそーだから、告ったら、めっちゃ慌てそう! 想像しただけで、ウケるわっ」
「コロッと騙されそう! そのままやらせてくれるかもよ」
記憶力は良い方なのだ。私は自分を馬鹿にする言葉を決して忘れない。
「ああ言うことはさ、誰かが聞いてるかもしれない場所で、馬鹿みたいに大声で話さない方がいいよ。誰が聞いてるか分からないから」
私はスッと立ち上がり、かつてないほどの冷たい心持ちで八神を見下してやった。
「あんたたちみたいなの見てると、虫唾が走るよ。他人の気持ちを全く想像できない、平気で人を傷つける悪魔みたいな人間、本当に死んでほしい。私を馬鹿にしたあんたたちのこと、絶対許さないから」
八神は反射的に立ち上がって来た。何、何か間違ってる? 本当のことでしょ。八神は何か言いたそうにワナワナと震えている、ハハ悔しいの? 私なんかに騙されて。
「何、ショック受けてるの? あんたたちがやろうとしてたことと、同じじゃない?」
言いたいことは言ってやった。もうこんな奴と一秒も一緒に居たくない。私はそのまま踵を返した。
「もう二度と、話しかけないで」
去って行く私に何も声を掛けられない様で、八神はただただ、そこに立ち尽くしていた。美しい花火の光が残酷に八神を照らし出していた。
***
私は下駄を脱ぎ、裸足で境内の階段を降りた。たまに見かける人たちは夜空に咲く花火をうっとり見上げている。私はその花火がまるで今の自分の心を映す鏡の様だと思った。
言ってやった。スカッとした。自分を馬鹿にする連中は、みんな死ねばいい。着け慣れないコンタクトで目が潤んで来た。儚く散っていく花火の残骸が目に映った。
「ざまー、みろ」
そう吐き出した。もっと晴れ晴れとした気持ちになるかと思っていた。騙された八神の顔を見て、優越感に浸れるかと思っていた。
――なのに
この言い知れない、虚無感はなんだろう。コンタクトが痛いせいじゃない。涙が溢れそうになった。
何も、何も楽しくない。やっぱり何も楽しくない。人を陥れて、馬鹿にして喜んでいる奴らの気持ちなんて、やっぱり私には分からなかった。
自分は馬鹿だ。下駄の鼻緒のせいで、赤くなってしまっている足の指の付け根を見る。
痛い。
こんな無理をして、オシャレして、慣れないコンタクトを無理に着け、来たくもないお祭りにやって来て。
この十日間もあんな奴らの為に無駄にした。こんな復讐を企てなければ、あんな会話を聞かなければ、今頃自分は好きな本でも読んで、まったりと平和に、何ごともなく平凡に暮らせていただろう。
でも聞いてしまったのだ、自分を馬鹿にする言葉を。絶対許せなかった。
このまま黙っていたら、弱者には何も言う権利はないと自ら認めることになる。世界がそうできていたとしても、自分だけは認めたくない。たとえ世界から追い出されたとしてもだ。
あいつらは私に騙されたことに激怒し、自分たちがして来たことを棚に上げ、報復して来るかもしれない。それでもいい。覚悟の上だ。殺される覚悟のないものに、攻撃する資格はない。
たとえあいつらに殺されても、後悔はない。その時は道連れにしてやる。
人には死よりも重いものがある。
私にとって「それ」は命よりも重いのだ。
つづく
「ちょっとは楽しめたかって、聞いてるんだけど」
八神はわけが分からないという顔をしていた。本当に騙されていることに気が付いてなかった様だ。
「あの告白、嘘だったんでしょ」
「えっ」
「それで、私を笑者にしたかったんでしょ」
冷ややかに据わった目で、私は八神を睨み上げ小首を傾げた。
「あの眼鏡掛けた、癖毛の、地味で暗そうな奴だよな」
「あー、あいつか。空気過ぎて、話したこともねーわ」
「男に免疫なさそーだから、告ったら、めっちゃ慌てそう! 想像しただけで、ウケるわっ」
「コロッと騙されそう! そのままやらせてくれるかもよ」
記憶力は良い方なのだ。私は自分を馬鹿にする言葉を決して忘れない。
「ああ言うことはさ、誰かが聞いてるかもしれない場所で、馬鹿みたいに大声で話さない方がいいよ。誰が聞いてるか分からないから」
私はスッと立ち上がり、かつてないほどの冷たい心持ちで八神を見下してやった。
「あんたたちみたいなの見てると、虫唾が走るよ。他人の気持ちを全く想像できない、平気で人を傷つける悪魔みたいな人間、本当に死んでほしい。私を馬鹿にしたあんたたちのこと、絶対許さないから」
八神は反射的に立ち上がって来た。何、何か間違ってる? 本当のことでしょ。八神は何か言いたそうにワナワナと震えている、ハハ悔しいの? 私なんかに騙されて。
「何、ショック受けてるの? あんたたちがやろうとしてたことと、同じじゃない?」
言いたいことは言ってやった。もうこんな奴と一秒も一緒に居たくない。私はそのまま踵を返した。
「もう二度と、話しかけないで」
去って行く私に何も声を掛けられない様で、八神はただただ、そこに立ち尽くしていた。美しい花火の光が残酷に八神を照らし出していた。
***
私は下駄を脱ぎ、裸足で境内の階段を降りた。たまに見かける人たちは夜空に咲く花火をうっとり見上げている。私はその花火がまるで今の自分の心を映す鏡の様だと思った。
言ってやった。スカッとした。自分を馬鹿にする連中は、みんな死ねばいい。着け慣れないコンタクトで目が潤んで来た。儚く散っていく花火の残骸が目に映った。
「ざまー、みろ」
そう吐き出した。もっと晴れ晴れとした気持ちになるかと思っていた。騙された八神の顔を見て、優越感に浸れるかと思っていた。
――なのに
この言い知れない、虚無感はなんだろう。コンタクトが痛いせいじゃない。涙が溢れそうになった。
何も、何も楽しくない。やっぱり何も楽しくない。人を陥れて、馬鹿にして喜んでいる奴らの気持ちなんて、やっぱり私には分からなかった。
自分は馬鹿だ。下駄の鼻緒のせいで、赤くなってしまっている足の指の付け根を見る。
痛い。
こんな無理をして、オシャレして、慣れないコンタクトを無理に着け、来たくもないお祭りにやって来て。
この十日間もあんな奴らの為に無駄にした。こんな復讐を企てなければ、あんな会話を聞かなければ、今頃自分は好きな本でも読んで、まったりと平和に、何ごともなく平凡に暮らせていただろう。
でも聞いてしまったのだ、自分を馬鹿にする言葉を。絶対許せなかった。
このまま黙っていたら、弱者には何も言う権利はないと自ら認めることになる。世界がそうできていたとしても、自分だけは認めたくない。たとえ世界から追い出されたとしてもだ。
あいつらは私に騙されたことに激怒し、自分たちがして来たことを棚に上げ、報復して来るかもしれない。それでもいい。覚悟の上だ。殺される覚悟のないものに、攻撃する資格はない。
たとえあいつらに殺されても、後悔はない。その時は道連れにしてやる。
人には死よりも重いものがある。
私にとって「それ」は命よりも重いのだ。
つづく
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