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朝
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——何かが、鳴っている。
それをソレだと認識した瞬間
僕はスマホのアラームを止めた。
6:45
少しの寝坊とも言えない寝坊を映す液晶に
舌打ちをして浴室へ向かう
シャンプーは切れかけてた事を忘れて
詰め替えももう無い。
シャワーを出してから気付く
いつもこうだ。
帰りに買わないとなぁ、なんて思うけど
きっと帰ってお風呂に入る時には
どうせ忘れちゃってるんだろう。
なんて思いながらボトルを開けお湯を入れ、
薄めたシャンプーで髪を洗った。
なんか上手くいかない、
こういう小さな陰鬱が朝から続くと
なんだか今日一日がダメな日だなんて、
まるで買ったばかりのノートの
1ページ目は綺麗な字なのに
汚くなった瞬間に価値が無くなるみたいな
そんな思いに駆られるのは僕だけだろうか。
手早くシャワーから上がると
起きれもしないのに保険をかけた
五分刻みのアラーム達のスヌーズが
訴えるように僕を迎えた。
手早く服を着た僕は
まだ夏の暑さが残る道を
歩いて会社に向かった。
8月も末、地面に落ちた7日の命が
蟻に囲まれている。
多分5分後には覚えて無いんだろうな
と思う。
通い慣れた道、
新鮮さなんて3日で消えた。
何も無い地元と過干渉の親から離れたい
それだけで大阪に出てきた僕は
ただ会社から近い割に家賃が安いと言う理由だけで物件を決めた。
初めての一人暮らし、
それなりに理想はあった。
綺麗でおしゃれな部屋を作りたい。
ベットは窓際でソファはここに置き
机はここ、間接照明はこっち。
掃除はマメにして綺麗にしよう。
タバコは換気扇で吸おう。
結果として部屋はひと月で汚くなり
ソファと間接照明は未だ買えておらず
タバコに関してはベットの横の窓を開けて吸う始末。
あの時の買ったノートみたいに
何一つとして成長なんかしてない。
社会人になって半年が過ぎた僕は
社会人が何たるものかも知らないまま
既に飽きた変わらない1日を繰り返す。
新人研修で言葉の言い換えを教わった。
「長所も短所も紙一重です。
子供っぽい人は遊び心がある人
仕事が遅い人は慎重な人
怒りやすい人は情熱がある人
そういう目線で人を見る事で
余裕が生まれます。」
笑顔絶やすこと無くそう話す彼女の話は
一見、素晴らしく聞こえたが
何一つ本質は変わってなかった。
長所も短所も紙一重、ならば
必死に自分の中を探してようやく履歴書に書けた長所ですらもまた言葉を変えれば短所なのだと。
程のいい言葉を上から被せ
まるで綺麗な物の様に取り繕う事に
何の疑いも持たない講師にも、
この世の真理を得たように
真剣に聞く同期にも、
選民主義の様な自分のこの考えにも
気持ち悪さと居心地の悪さを覚えた。
「おはようございます。」
突然後ろから声をかけたこの男は
自分の課の先輩社員だった。
「おはようございます。」
相手は何か続けたが適当な相槌を打ち
そうなんですね、と形だけの愛想を投げる
50代であろうその上司は
背も低く体付きは貧相で
クリーニングのおかげで何とか形を保つくたびれたスーツに身を包み
俗に言う疲れた大人に見えた。
仕事もそんなに出来る方ではなく
たまに部内を見回ってくる部長に
見付けられては晒し者の様に
進捗を聞かれ怒鳴られている。
その上司を見ていたらふと、10年後20年後、
もっと言えば定年間近の自分が重なった。
大体の収入、大体の役職、
同じ様な仕事を同じ場所で
僕は人生の大半、生きる為に通うのかと。
既に未来が決まって見え、
その瞬間終わりだな、と思った。
これからも通うであろう
見慣れた小汚い雑居ビルの5階
今日も1日が始まった。
それをソレだと認識した瞬間
僕はスマホのアラームを止めた。
6:45
少しの寝坊とも言えない寝坊を映す液晶に
舌打ちをして浴室へ向かう
シャンプーは切れかけてた事を忘れて
詰め替えももう無い。
シャワーを出してから気付く
いつもこうだ。
帰りに買わないとなぁ、なんて思うけど
きっと帰ってお風呂に入る時には
どうせ忘れちゃってるんだろう。
なんて思いながらボトルを開けお湯を入れ、
薄めたシャンプーで髪を洗った。
なんか上手くいかない、
こういう小さな陰鬱が朝から続くと
なんだか今日一日がダメな日だなんて、
まるで買ったばかりのノートの
1ページ目は綺麗な字なのに
汚くなった瞬間に価値が無くなるみたいな
そんな思いに駆られるのは僕だけだろうか。
手早くシャワーから上がると
起きれもしないのに保険をかけた
五分刻みのアラーム達のスヌーズが
訴えるように僕を迎えた。
手早く服を着た僕は
まだ夏の暑さが残る道を
歩いて会社に向かった。
8月も末、地面に落ちた7日の命が
蟻に囲まれている。
多分5分後には覚えて無いんだろうな
と思う。
通い慣れた道、
新鮮さなんて3日で消えた。
何も無い地元と過干渉の親から離れたい
それだけで大阪に出てきた僕は
ただ会社から近い割に家賃が安いと言う理由だけで物件を決めた。
初めての一人暮らし、
それなりに理想はあった。
綺麗でおしゃれな部屋を作りたい。
ベットは窓際でソファはここに置き
机はここ、間接照明はこっち。
掃除はマメにして綺麗にしよう。
タバコは換気扇で吸おう。
結果として部屋はひと月で汚くなり
ソファと間接照明は未だ買えておらず
タバコに関してはベットの横の窓を開けて吸う始末。
あの時の買ったノートみたいに
何一つとして成長なんかしてない。
社会人になって半年が過ぎた僕は
社会人が何たるものかも知らないまま
既に飽きた変わらない1日を繰り返す。
新人研修で言葉の言い換えを教わった。
「長所も短所も紙一重です。
子供っぽい人は遊び心がある人
仕事が遅い人は慎重な人
怒りやすい人は情熱がある人
そういう目線で人を見る事で
余裕が生まれます。」
笑顔絶やすこと無くそう話す彼女の話は
一見、素晴らしく聞こえたが
何一つ本質は変わってなかった。
長所も短所も紙一重、ならば
必死に自分の中を探してようやく履歴書に書けた長所ですらもまた言葉を変えれば短所なのだと。
程のいい言葉を上から被せ
まるで綺麗な物の様に取り繕う事に
何の疑いも持たない講師にも、
この世の真理を得たように
真剣に聞く同期にも、
選民主義の様な自分のこの考えにも
気持ち悪さと居心地の悪さを覚えた。
「おはようございます。」
突然後ろから声をかけたこの男は
自分の課の先輩社員だった。
「おはようございます。」
相手は何か続けたが適当な相槌を打ち
そうなんですね、と形だけの愛想を投げる
50代であろうその上司は
背も低く体付きは貧相で
クリーニングのおかげで何とか形を保つくたびれたスーツに身を包み
俗に言う疲れた大人に見えた。
仕事もそんなに出来る方ではなく
たまに部内を見回ってくる部長に
見付けられては晒し者の様に
進捗を聞かれ怒鳴られている。
その上司を見ていたらふと、10年後20年後、
もっと言えば定年間近の自分が重なった。
大体の収入、大体の役職、
同じ様な仕事を同じ場所で
僕は人生の大半、生きる為に通うのかと。
既に未来が決まって見え、
その瞬間終わりだな、と思った。
これからも通うであろう
見慣れた小汚い雑居ビルの5階
今日も1日が始まった。
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