メイド侯爵令嬢

みこと

文字の大きさ
上 下
10 / 14

8 最後の王

しおりを挟む
「ローズ。王命が来た」
「あら、早かったわね。夜会の失態がそうとう効いたようね」
「陛下も頭を抱えたそうだ」

『王命

 1、王太子エリック・エルクラドとユリーナ・ドリアドアの婚約を解消する。
 慰謝料などの費用については後日連絡する。

 2,王太子エリック・エルクラドとローズ・シュナイダーの婚約を命令する。
 費用については後日連絡する。

 デザール・エルクラド』

「よし!作戦開始!」


 その日、王国に激震が走った。
 この非常事態の時に、さらに非常事態が起こったのだ。

 特に激怒したのが、王派閥筆頭ドリアドア公爵だ。
 別にあの馬鹿王太子が惜しいとかではない。
 そもそも娘共々この婚約など興味がなかったのだ。

 無能な国王に無能な王太子。娘が幸せになるはずがない。
 娘が王太子妃教育で頑張っている時に、あの王太子は女性を侍らせて遊んでいたのだ。
 それでも国のためと我慢していた。

 その結果がこれか!

 ユリーナ公爵令嬢は現在18歳。
 高位貴族令嬢が、この年で婚約者がいない、という事はほとんどない。
 貴重な時間を奪われたのだ。あの馬鹿王太子に。

「バーグ公爵に連絡してくれ」


 どうやら、アクレシア帝国の前に、内戦が勃発しそうだ。


 ◆


「近衛第一軍、アルフレッド少佐です。近衛第一、第二軍は王家は守護に値しないと判断し、これを放棄し、各々領主軍で勤務致します」

 守る価値がないよ、アンタ達。ってことである。
 別に王太子の妃が誰でもいいが、この時期にどうこうするか?ということだ。
 イタズラに国内を刺激して、そんな王族を守るために、自国民と戦えるか!ということだ。 
 現在、王族にとって危険なのはアクレシア帝国ではなく、本来守るべき自国民なのである。 
 近衛兵全員が退官した。


 ◆


「陛下、シュナイダー侯爵です、参りました」
「うむ、ご苦労」
「陛下、失礼を承知で申し上げますが、これは何かの御冗談なのでしょうか?」
「どういう事かな?」
「いえ、先日娘が夜会から帰ってきたら酷く怒っていまして、何でも王太子殿下に馬鹿にされた、とか」
「あれは馬鹿息子の不徳の致すところだ。申し訳無い」
「いえいえ、そうではなくて、今回のアクレシア帝国がどこから侵攻してくるのか、娘が知らないとでも思ったのか、そういった事を聞こうとしたとか?いやいや子供でも知っている事を国際会議にまで出席した娘が知らないわけもないし、と少々混乱しまして」
「それを知らなかったのはエリックなのだ」
「え?」
「すまぬ」
「でも殿下がいくさの指揮をするのですよね?」
「いや、此度こたびの戦にはエリックは出ない」
「え、あ、あの噂は本当だったのですか?」
「噂?」
「えっと、その...」
「構わん、申せ」
「実は、エリック王太子が無能すぎて使えない、と」
「そうだ、あやつは馬鹿だ」

 シュナイダー侯爵は、鬼の形相で立ち上がった。

「そんな馬鹿を娘に押し付けるのですか?王命で!」
「あ、いや」
「陛下、これは由々しき事態ですぞ。こんな馬鹿げた王命を出す陛下に、馬鹿王太子。内乱が起こりますぞ」
「いや、馬鹿だからこそ優秀なそなたの娘...」
「はぁ~無能の代わりに仕事しろ!ですか。もうシュナイダー王国ですぞ、その考え方だと」
「分かっておる。ワシもどうする事もできんでの。本当に申し訳無い」

 シュナイダー侯爵は国王の前に2枚の書類を出した。

「えっと、これがですね、貴族院の書類でローズ・シュナイダーの貴族籍を抹消する、というもので、こちらが、内務省のローズ・シュナイダーはシュナイダー家の籍を抹消するというものです。
 つまり、陛下の王命2、のローズ・シュナイダーはこの国にも私の家族にも居ない、ということで、王命遂行不可能ですね」
「あ、えっ、騙したのか?貴様!」
「何をおしゃっる?宰相閣下から聞いてなかったのですか?もし王族との婚姻となった場合、我が家を離籍する、と契約書まで添付しましたが?」
「そ、そういえば。いや、でも」
「陛下、国際会議での娘をご覧になったでしょう?王族を手のひらで転がすくらい、あの子には造作もない事なのですよ。それに王命というなら、現在同盟3ヶ国の王の連名で、王命を陛下に下す事も出来るのですよ。同盟に参加している現在では」
「グッ」
「あのですね、陛下の馬鹿息子は知りませんが、私の娘は優秀なんです。馬鹿の手助けをするために頑張ってきたのではありません。馬鹿にしないで頂きたい!。あと、ユリーナ公爵令嬢も良かったと思いますよ、馬鹿を相手にしなくて済むのですからね。ではこれにて」

 シュナイダー侯爵は臣下の礼もせずに去って行った。もう主君と認めないとの意思表示なのである。



 ◆               



「ドリアドア公爵、バーグ公爵参りました」
「今度は何だ!」
「陛下、おかしな事を仰る。王命を出したのは陛下ですぞ」
「あ、ああそうだったな」
「いやぁ~あの王命が来た時はですね、娘になんて言おうか悩んだんですがね、言ったらもう飛び上がって喜びましてね。
 何でも他に思う人が居たらしくてね、馬鹿から開放されたって泣いて喜んでましたよ。なんせ王太子妃教育で頑張っている時に、女侍らせて遊んでいるような王太子でしたからねぇ。
「王太子って暇なのね」なんて言ってたんですが、オルレア王国の王太子はそれは忙しいそうで、他の国の王太子は大変ですねって労ったら、いやいやエルクラド王国の王太子がおかしいだけって笑われました。
 はい!王命賜りました。慰謝料は王宮からそれ相当のものを頂きますね。あ、大丈夫です。きっちり査定しますので、安心して下さい」
「言いたい事はそれだけか?」
「あ、そうです!旧王派閥と貴族派が一緒になりまして反王派(仮)としました。それと中立派のヴァイス公爵も一緒です。でも肝心のシュナイダー侯爵家とエスクリダ侯爵家はもうこの国には居ませんから中立派と言えるか分からないのですけどね。
 それで、シュナイダー商会がエルクラド王国から撤退しましたのでね、我々も補給は必要なので、オルレア王国にお願いして同盟に参加させて頂きましてね。
 いやいやどこかの王族みたいに小娘に任せてふんぞり返って、なんてしませんよ。ちゃんとお願いして東の国境の辺境伯軍と合流して、オルレア王国軍との合同で、アクレシア帝国の侵攻に備えます。
 大丈夫です。どこかの王太子のように、会議中女のケツ見てて作戦が分からない、なんて恥ずかしいマネはしませんから。あ、それから王妃陛下はあの国際会議の時にオルレア王国の王妃陛下と一緒に国に帰ったそうです!馬鹿の相手は疲れるらしいですね。
 そういうわけで、ルシランド王国、マロン王国同盟軍とオルレア王国と我々の同盟軍で北進するであろうアクレシア帝国を攻撃します。ま、そういう事で」

 そう言ってドリアドア公爵とバーグ公爵は出ていった。もちろん臣下の礼はしなかった。

「ワシが最後の王...か...」

 その後、ドリアドア公爵とバーグ公爵は、オルレア王国国境付近にドリアドア公国を建国。
 もちろん国王や王族の腰巾着の家臣や軍の将官達は、任を解かれ、その公国からは排除されている。

 北進してきたアクレシア帝国軍をルシランド王国、マロン王国同盟軍とオルレア王国、ドリアドア公国の同盟軍で背後と横から挟撃して、ほぼ壊滅させた。そして遂にアクレシア帝国は全面降伏したのであった。
 国境線は元エルクラド王国と同じにして、アクレシア帝国とは不可侵条約と多額の賠償金を請求。
 その他制限事項や今後の外交について話し合う事となった。

 同盟軍の完全勝利である。

 元エルクラド王国崩壊の後、ドリアドア公国が新たに誕生した。

 元エルクラド国王とエリック王太子は、アクレシア帝国の侵攻後に戦場から王都へと逃げ帰った後、王家の愚行に激怒した民衆によって捉えられ、公開処刑される事となったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

奥様は聖女♡

メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

国王に「タイムマシンを作れ」と無茶振りされたので、とっとと逃げようと思います  〜国が滅んでも私は知りません〜

みこと
ファンタジー
「此度は其方に「時を渡る魔道具」の開発をする栄誉を与える」 「はあぁぁ???」(つまりタイムマシンってを作れってこと???) いきなり何言ってんだこの馬鹿国王! 私はルナ。モーラス子爵家の長女(18歳)です。 実は私、元現代日本人の転生者です。 前世では最先端技術の研究者をしていました。 前世の知識も合わせて研究して、現代の家電製品のような魔道具の開発に成功。 若くして魔法道具研究所の、所長兼開発責任者に任命されました。 さらに王太子の婚約者でもあります。 それでこんな無茶苦茶な命令を。 「そのようなものは出来ません」 「ええい!何をごちゃごちゃと言い訳をしておる。貴様は「やる」といえば良いのだ」 とゴリ押しされちゃいました。 なぜなら、馬鹿王太子が国が滅ぶような失態をしでかしたのです。 じゃ。 開発費だけ頂いてとっと逃げようと思います。 タイムマシン?作りませんよ。 ミッションスタート!

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...