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脳筋令嬢とハイスペック王子(笑) 王子視点 前編

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 これは私の婚約者の話である。
 過去の俺はとんだメスゴリラと結婚することになっちまった、なんてほざいていたらしいが、むろんその後の私の意識はない。自分が夢の中で竹トンボのように振り回されていた夢を見たのだけは覚えている。
 もちろん現実でも私は見事に回されていたらしい。目撃していた妹は

「人ってあんなに高く上がるものなのね。」

感心したように呟いていた。

当時の私はそんな妹にそれはもう怒り、なんで止めなかったのか、あったようななかったようなちっぽけな威厳を振りかざし問い詰めていた。

「だってあんなに楽しそうなお兄様初めて見たわ。」

 この妹は目が節穴を通り越して脳にまで穴空いてんじゃなかろうかってくらい的外れな答えを返しやがった。
 どこが楽しそうっ、なんだ。地団太を踏みながら思っていた。昔の私は言うなれば本の虫、勉強大好きがり勉スタイル王子様だったのである。確かにイケメンで、聡明で、権力なんかも持っていては思い上がるのも不思議ではない。むしろ子供のころは家族と自分以外の子供は本気でキャッキャッ騒ぐだけの猿だと思っていた。
 このころの私は本当にものを知らなかった。井の中の蛙、もといチンパンジーである。己がどれだけ狭い世界で偉ぶっていたかも知らずにこの世全てが自分の赴くままになると思っていた。
 そんな時に出会ったのは一人の可憐な少女だった。
 アルフォリス・ニューアニマ、わが国カイニスが誇る武勇の名門【ニューアニマ】、その昔、旅人として国に武勇を示し、初代国王が男爵の位を与え我が国に定住することになったと聞いた。しかしそれがまさかの英断、大当たりである。
 その後も周りの強大な国々との戦争時代に活躍をし続け、途中から兵を全部ニューアニマ家に預けとけば大丈夫っしょと思った国王はこれまた予想通り。そのまま勝って勝って勝ち続けた【ニューアニマ】は国になくてはならない存在となり、むしろほかの国々が同盟を結んだりしたのも

「【ニューアニマ】まじパネェ。」

 たいていこの言葉が出てくる。
 ほかの国々の英雄譚では、
本当にそれ人間?
いや地震は人が起こすものなんだよ??
雷です、ニューアニマが雷になって落ちてきたんです。

 そんな面白?伝説が多々存在する。最近ではわが婚約者を見ていると信憑性が増しているような気もするがいったん放置。

とにもかくにも無事戦争を終わらせ、各国との同盟まで結んだニューアニマをそのまま男爵の位にしておくにはできず、国王が公爵の位を授けた。

「てか、王位継いでくんない?」

当時の国王はなんだかんだ稀にいない「こいつに任せてたら国が亡ぶ。」って感じの人だったらしく、それはもう周りの貴族や平民も力を合わして王を支えていたそうな。歴史上もっとも偉大な王と歴史書には書かれているが、王家の秘伝の書にその王の日記帳があった。

「異世界に転移して30分で王になった件ww」

 そんな自伝のようなものがわが書蔵に眠っていた。タイトルはこの上ないふざけたものだったが、中身はさらにぶっ飛んでいるような話だった。

 俺の先祖って・・・。

 最初に私がこの本を見つけた故に、ものすごく落ち込んだ。王家の恥部を嬉々として家族の前にさらしたことが今でも俺の汚点だ。

 そんなちゃらんぽらんな王でも民や貴族には慕われていた。だから王位放棄するとか、ふざけたことを抜かすたびに大臣が殴り飛ばしていたそうな。大臣、優秀じゃね?
 そんなこんなで公爵の位を授かったニューアニマ家は先祖代々カイニスの軍、防衛に関して大きく貢献した。しかもどの代にも一人だけで国を潰せそうな勢いの英傑が現れるので今でも平和な状態が続いている。
 そんな英雄でありながらも脳筋思考である家のご令嬢を研究者思考の私は気に食わないと思いつつも一応あいさつ回りにこちらに来るのだからそれ相応の対応を心掛ける。国の名門貴族でもあるゆえに下手な態度はとれない。
 そう思っていたはずなのに、

『ぎゃあああっっっっっぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 数分後の私は足をつかまれグルングルンに回っていた。それはもうグルングルンだ、人の体の中にあるものがすべて頭のてっぺんに集約するような感覚になる。
 無様にも泣き叫びながら、懇願しているのにこのメスゴリラ聞きやしねぇ。
 そうして私は意識を失った。

 翌朝、自分の部屋のベッドで目を覚ますと私がメスゴリラと婚約することが決定していた。聞かされた時はなんの悪夢かと思ったが、妹に目覚めてんですか?クソ眼鏡?と言われるお兄ちゃん、悲しいよ。ピエン。
 どうやら俺を会場内で足をつかんで振り回したあの女は、頭が沸いたのか責任を取ると、貴族が集まる中で宣言したらしい。それを聞いたわが父は承諾したらしい、らしい、らしぃっ!!!
 先ほどあった時に舌を出しながらサムズアップしてたので、股間に頭突きをかましておいた。玉座で股間を抑える恥王の完成だ。我ながらいい出来で、すがすがしい気分になった。
 まぁ決まってしまったものは仕方なく、複雑な気持ちを抱きながらもいつものルーティンの如く部屋に戻る。

「あっ、アルフレッド殿下、おはようございます。」

 奴がいた。私を振り回した由緒正しいメスゴリラの令『メキッ』「す、すみませんっ。急に不快な気分になりまして。」
 無意識に膝と手と頭を地面につけていた。我、王子よっ、もうすでに婚約者に屈服されてるんだけど。てかあいつドアノブ握りつぶしたんだけどっ、えっ?あれって一応鉄でできてたよね?

「でっ、殿下大丈夫ですか?」

 そういって近づいてくる何か、ゴリラなんかもうとっくに超越してたってわけか。ハハッ、足が震えやがる、もう立てねぇや。(頭の中では走馬灯が流れています。)

 ポンッ。

「ん?」
「ん?」

 頭の上に手が乗せられた。そのまま撫で始める超越存在。
 恐れてはいるが、とても心地よさを感じたのを覚えている。いろいろと疲れた私は暖かい気持ちに包まれたまま意識が遠のいていった。

一方、アルフォリスお嬢様は
「やべぇっ、私こんな美少年をっ・・・。」
いろいろと罪悪感に苛まれていた。
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