燃えよ、想いを乗せ

ゆりえる

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続 古典の授業

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 あくびの連発を防ぎ切れず、繰り返し何度も睡魔に襲われ、頭がカクンと下がって来る。
 颯天にとって、起きた姿勢を保つのが苦痛な、古典の授業。

(また、古典か……せっかくの現場研修期間なんだから、もっと地球防衛隊達の仕事を教わるのが優先されると思って、ずっと期待していたのに。やっている事といえば、まだ、この古典と運動場での基礎トレーニングだけ……これじゃあ、訓練棟でのボコボコにされていた訓練の方が、まだ有意義だった気がする……)

 机に縛られる時間が、こうも長いとは予想してなかった颯天は、日に日に不満が募っていた。
 しかも、授業内容は、例の大切な箇所と言われている、色の件について、引き続き訓練生達の解釈を求められていた。
 他の訓練生も颯天と たがわず、 皆目かいもく見当も付かない様子でウトウトしている者が目立っている。

 そんな中、妙に目を輝かせながら、授業にノリノリで取り組んでいる訓練生が、ただ一人。
 もちろん、それは千加子だった。

 颯天に言い放ったように、この場においても、個人名は出さないまでも、自説を懸命に主張している様子を目にした時だけは、笑いが込み上げ、颯天のきつい睡魔すら吹っ飛ぶ状態になった。

「ほう、浅谷君の意見は、独特で面白いな~! 色は人のオーラの色であり、白と黒は、色の中でも陰陽、つまりは、 ついになっている男女のオーラとな?」

 古典教師の芹田太郎が、感心しながら、千加子の解釈に耳を傾けていた。

「そうです! 他の色はともかくとして、白と黒に限っては、陰陽として揃う為の存在達なんです! そして、そのオーラの持ち主2人は、単独で行動するよりも、対の状態での行動の方が、威力が何倍にもアップするという事なんです!」

 千加子自身について、敢えて豪語しているようにしか思えない颯天。

(いいよな~! 浅谷さんのように、自分に絶対の自信有る人は……)

「なるほど~、そういう事かね~! いや~、仰天だ~! それは、なかなか良い解釈じゃよ!」

 芹田に認められ、鼻高々に颯天の方を一瞥してから、更に続けた千加子。

「あの文章の内容からすると、今まではが統べる時代でしたから、これからの時代へと交代する時期なんです! つまり、私達訓練生の中に、そのオーラの持ち主が3人混じっている! ……という事ではありませんか、芹田先生?」

「浅谷君、そう性急に結論を急ぐでない! これは、君らが思っているよりずっと、重要な事柄なのじゃ!」

 千加子の剣幕に圧倒されながらも、教師としての立場で牽制した芹田。

「ですが、私は、一刻も早く、この件について知りたいのです!!」

 その事に、まるで自分の未来がかかっていると言わんばかりの千加子。

(すごい勢いだな~! 芹田先生が認めてくれたら、その足で、雅人の所へ駆けて行って、説得させようとしているのかも……)

「まあ、ここで答えを出さずとも、研修中に、自分の目で答えを見付けると良い! さあ、次のページに進もうか。これらの龍体文字に書かれているのは、色による特徴じゃ。ここでは、その色により、役目が違っている事を理解するのが狙いじゃよ」

 改頁により、千加子のお得意分野は終了した。
 教室内には、芹田の声だけが響き、やっと静寂が戻った。
 颯天は、その静けさにより、再び睡魔と戦いながら、龍体文字で書かれた古文を目で追っていた。

「昨日の授業内容と同様に、今日の古文も大変重要な箇所であるから、暗唱出来るくらいに頭に叩き込むと良い! えーと、眠そうな君は、確か、宇佐田君だったな? まずは、4ページの文語訳の方を音読してみなさい」

 また芹田に音読の指名をされ、のらりくらりと立ち上がった颯天。

(昨日も、僕が読んだのに、また読まされるのか……眠そうにしているの、僕だけじゃないと思うんだけどな。僕は要領が悪くて、すぐに見つかってしまうけど、皆は、きっと上手く見付からないようにして寝ているんだな)

 また小さく咳払いし、喉の調子を整えてから、教科書を読み上げた。

「緑は力の象徴となり、数の多き存在なる青を導く
 赤は石に通じ、万物を石に変ふ
 黒は月のごとく癒し、万物を浄化す
 白は日のごとく燃やし、万物を灰と化す」

 読み終えると座ろうとした颯天を芹田は止めた。

「昨日の箇所に比べたら、今回の古文は見たままの意味で易しいから、もちろん読みながら内容を理解出来ていただろう、宇佐田君? 現代語訳してみたまえ」

 周囲の訓練生達は、また千加子に発言をさせる番になっていると予想していた。
 千加子自身もそのつもりで、いつでも起立出来るように構えていたが、芹田はそのまま颯天に、現代語訳をさせようとした。

(えっ、僕が現代語訳を……? そんな事、僕に出来るわけが……いや、確かに今日の古文は、分かりやすいかもな……)

「はい。緑は力の象徴となって、量産型というような存在の青を誘導する。赤は、石という意味になり、全てを石化させる。黒は月のように癒し、全てを浄化させる。白は太陽のように燃やし、全てを灰にさせる」

(こんな感じでいいのかな? 色によって、こんな感じで役割が違うとしたら、一体、どの色が最強なんだろう? 燃やしてしまうという、白? それとも、石化させてしまう、赤? あたりかな……?)

 わりと納得行くように現代語訳が出来たと自画自賛している颯天に、芹田はそれ以上を要求してくる事は無く、着席した。

「今、宇佐田君が現代語訳した通りの内容だ。訓練生諸君は、この色による役割を知った上で、どの色がより素晴らしい、若しくは、どの色が望ましいと思うか、是非、聞かせてくれるかね? いつも、発言してくれている、浅谷君から聞かせてもらうとするかね」

 芹田が指名するまでもなく、その前の時点からずっと、発言したくてウズウズしていた様子の千加子。

(わっ、浅谷さん、なんか、また不敵そうな笑いを浮かべている~! 浅谷さんの説からすると、彼女がなりたいのは、やっぱり……)

 千加子の望む色をつい連想せずにいられなかった颯天。

「私は、もちろん黒です! 陰陽の黒は、月、そして女性、浄化、雨、静、癒し、水、海、植物、精神、それら全て、私が持つイメージにピッタリなんです! こんな適役は、私を除いて、他に誰がいるというのでしょう?」

 千加子が『黒』を選ぶ気はしていたが、まさか、自身をそこまで形容しようとは思ってもいなかった颯天。

 その千加子のあまりにも傲慢過ぎる態度に、芹田の開いた口が塞がらなくなり、他の訓練生達もまた、自分の意見を述べる気すら失せたのは言うまでもない。
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