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気付いてはいたけど……

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 あれっ.......
 慌ててエリックの部屋から出て来たけど......

 何やっているんだろう、私!

   考えてみたら、彼らなら隊長の部屋の場所くらい知っているはず!
 さっきの今だから、まだ寝てないよね、急がなきゃ!

 既に階下まで降りてしまったから、また階段上るのが面倒なんだけど......
 リゼットの為だもんね!

 3階の3号室、忘れにくい部屋で良かった!

「トントン」

「やっぱり戻って来たな! 思ったより、遅かったな~」

 エリックが言うと、傍らでアーロンが笑っていた。
 ホント、性格悪いんだけど!

「私が行く前に引き留めて、隊長の部屋の場所、教えて下さいよ~!」

「引き留めるより早く、ティアナがいきなり飛び出したんじゃないか!」

 確かに......そうだったかも。
 だって、手遅れになる前に、リゼットに知らせたかったんだもん!

 「隊長の部屋は、この棟の最上階7階の7号室だよ」

 やっぱり同じ棟だったんだ。
 7階の7号室、これまた1度覚えたら忘れないような数字。

「ありがとうございます!」

 早く行かなきゃ!
 階段しんどい......更に4階上がるなんて!
 降りたり、上ったり、上ったりで、なんかもう、息切れ酷いんだけど......
 戦闘隊にしては、私、かなり体力無い方なのかも......?
 
 やっと7階に到達!
 ティアナまだだったらいいな~!
 え~と、どうしたらいいんだっけ?
 隊長に確認するのが先決かも。

「トントン」

「ティアナ、どうした? そんな息切れしまくって、大丈夫なのか?」

 私が訪れたのが意外らしく、驚きの表情のまま質問を投げかけて来た。

「隊長、リゼット来ましたか?」

「リゼット......? どうして、ここに来るんだ......?」

 どうして......って、この鈍感男!
 リゼットが来てないんだったら、もう隊長に用は無い!

「来てないならいいんです! 失礼しました!」

「おい、ティアナ......」

 リゼットの名前が出て、私を引き留めて尋ねたかったのかも知れないけど、そんな事には構ってなんかいられない!

 早く、リゼットを見付けないと!
 今まで頑張って息切れしながら上って来た階段を今度は一目散に駆け下りた。
 上る時はあんなに時間かかったのに、降りるのは容易い。
 上り階段も降りる時みたいにラクにして欲しい!
 
 エスカレーターとかエレベーターが有ってもいいと思うんだけど、この階数だったら。

 降りて行く途中、リゼットと擦れ違うか注意していたけど、見かけなかった。

 良かった、まだ、隊長と会って無くて!
 あの事、ちゃんと伝えられる!

 3棟を出て、2棟に向かおうとした時、リゼットに会った。
 リゼットの横には、ウェイド!
 まだそんなに何日も経ってないけど、随分と久しぶりに思える。

「ティアナ、もう用事終わったの?」

「うん、そんなにかからなかった。どうしてウェイドと......?」

「2棟でバッタリ会ったの。一緒に隊長の部屋を探してくれるっていうから、お願いしたの」

 リゼット、私には1人ずつ行動した方がって言っていたのに、ウェイドにはお願いしたんだ......
 それは、ウェイドとしては、どんな心境なんだろう?

「ティアナ、元気そうだね」

「ウェイドもね」

 ううん、そんなに元気そうになんか見えないのに......
 私がそう言って、もしかしたら、嫌味に思われてしまいそう。
 ウェイドは、リゼットと別のグループになって残念そうだもん。
 
 あっ、そうか、リゼットは、何となく、ウェイドの自分への気持ちに気付いていて、隊長の部屋に行く事で、遠回しにウェイドの気持ちを拒絶しているのかも知れない。
 だから、何となく、ウェイドは暗めな雰囲気なのかも。

「隊長の部屋、分かったの! エリック達に教えてもらった! だけど、その前にリゼットに聞いてもらいたい話が有るの!」

 それを聞いた上で、隊長の部屋に行くかどうか決めて欲しい。

「うん、分かったわ、話して、ティアナ」

「僕は、いない方がいい?」

 ウェイドが決まり悪そうな表情で尋ねた。

「私達と同期の入植者だし、多分、ウェイドも、この事を知らないと思うから、一緒に聞いていて」

 リゼットに振られようとしているウェイドに、こんな話をするのは、逆効果なのかも知れないけど、でも、ここでの事情を知っておいた方が、その失恋の痛手から抜け出すにも良いのかも知れない。

 リゼットとウェイドを前に、さっきエリックやアーロンから聞いた事を全て伝えた。

「そんなにここでは、恋愛事情が違っているのね!」

「驚いたな、同性愛も多いなんて」

 2人とも、驚きながらも興味深げに聞いてくれた。

「なんか、ちょっとイヤな事を言ってるようで、ごめんね、リゼット。ここの居住区ではそういう感じだから、隊長って、一見、リゼットに夢中に見えているけど、もしかしたら、リゼットが思うような恋愛対象としてではない可能性も有るの......」

 言い難かったけど、そこのところを勘違い無いようにどうしても伝えたかった。
 リゼットほどの美少女に限って、そんな心配なんて必要は無いかも知れないけど、万が一の時に備えて。

「えっ、リゼットは、隊長に告白するつもりなの?」

 この期に及んで、まだリゼットの気持ちを掴めてなかったウェイド。

「ティアナがせっかく心配して、この話を聞かせてくれたけど、私の決心は堅いの! 私、隊長の部屋に行くわ!」

「リゼット、思い止まってくれないか!僕となら、向こうの居住区の感覚で恋愛が出来るから!」

 ウェイドが、リゼットの手首を掴んで止めた。
 まさか、リゼットの気持ちを知ったこのタイミングで、ウェイドが告白するなんて!
 そんな引き留め方をするくらい、ホントにリゼットの事が大好きなんだ!

 ウェイドにずっと憧れていた時も有ったのに......
 その私の前で、そんなシーンが展開されるのは、何だかフクザツ......
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