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罪意識と……

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「牧田さん......」

 やっと到着したエレベーターに憤りながら足を踏み入れかけていた若葉が、 凌空りくの声で驚き振り返った。
 エレベーターは、誰も乗せないまま扉を閉めて下に移動した。

「ごめんなさい、立ち聞きするつもりは無かったんだけど、北岡君が忘れたノートを届けようとして……」

  詩奈しいなの耳に会話内容が届いていたと知り、焦った若葉。

「ゴメンね、 詩奈しいな。私、 詩奈しいなの事は大好きだけど、お祭りは別問題だから、行かせてもらう!」

  詩奈しいなに対し気まずく思いながらも、自分の要求を通す若葉。

「うん……若葉の言う通りだよ。矢本君が、少し前、友達に、映画に誘われた時に断ってくれたのは嬉しかった。今回も、そうやって楽しめないからって言ってくれたのは嬉しい。でも罪拭いとして言っているなら、もう十分だから! 私は、これ以上、みんなの重荷になるつもり無い! ホントにお願いだから、3人でお祭りを楽しんで来て!」

「牧田……分かったよ」

 自分の言葉では断固として動かなかった 瑞輝みずきが、気持ちの昂っている 詩奈しいなにより説得させられた事が予想外だった若葉。

「北岡君、ノートありがとう。私は1人でリハビリ時間増やして頑張るから、北岡君もお祭り楽しんで来てね」

  凌空りくに対して話す時には、何事も無かったかのように、いつもの口調と笑顔になった 詩奈しいな
 再び呼んだエレベーターで降りていく友人達を見送った後は、声を押し殺し涙を廊下に こぼしながら、両松葉杖で病室まで戻った 詩奈しいな

(私って、疫病神みたいだ……私がいると、誰も幸せになれない気がする。いつの間にか、私、大切な友達に対して、見えない 足枷あしかせを繋いでしまっていたみたい。このままでは、本当にダメになりそう、私だけじゃなく、みんなも……)

 エレベーターから降りた後、しばらく沈黙して歩いていた3人。
 歩いているうちに気持ちを抑え切れず、今回も口を割った若葉だった。

「ねえ、私、 詩奈しいなに言い過ぎた?」

 まだ黙りこくる 瑞輝みずきと 凌空りく

「暗黙の了解って事? だって、 瑞輝みずきが悪いんだから! お見舞いの時点では、行くって言っておきながら……」

「もう行く事に決まったんだから、黙ってくれよ」

 エレベーター前での会話を聴いていた時の 詩奈しいなの事を考えると、気持ちが晴れないままの 瑞輝みずきと 凌空りく

「僕らもこんなに心苦しくしているくらいだから、牧田さんは、もっと辛いかも知れない。昨日は修羅場で、今日も最後にこんな思いをさせてしまって。一緒にいてあげたいけど、面会時間も終わったし……」

 沈んだ調子の 凌空りくの言葉で、罪意識に苛まれた若葉。

「 詩奈しいなを傷付けるつもりは無かったの、ホントに……でも、私達、毎年恒例のお祭り行事なのに、最近になって加わった 詩奈しいなのせいで、それが実現出来なくなったら、私達ももちろん不満だけど、 詩奈しいなだって、ずっと後ろめたく感じると思って……」

「分かってくれているよ、牧田さんは。ただ、若葉は、発言する場所をよく考えよう」

 若葉と 凌空りくのやり取りが素通りしていくように感じる 瑞輝みずきには、昨日と今日の 詩奈しいなの表情が頭から離れずにいた。

「 瑞輝みずきも何とか言ってよ~! なんだか、私だけが悪者になってるんだから!  詩奈しいなばかりじゃなく、私の事も少しくらいかばってくれてもいいのに……」

  詩奈しいなを傷付けた後悔と、冷たい 瑞輝みずきの態度で、明るさが取り柄の若葉もさすがに気落ちし、 瑞輝みずきからの優しい言葉が欲しかった。

「俺は……牧田に、怪我のせいで辛い目ばかり遭わせているのに、何もしてあげられてなくて、傷付ける事しか出来てないのが辛いんだよ!」

 そんな時でも、 瑞輝みずきの口から出て来たのは、自分ではなく 詩奈しいなの名前だけだったのが、心に突き刺さった若葉。

「また、 詩奈しいな……?  瑞輝みずきも 凌空りくも 、いつだって詩奈しいなの事ばかり! 私にはあんなに反論していたのに、 詩奈しいなが説得したら、すんなりOKしたし、 瑞輝みずきのバカ!」

  瑞輝みずきの発言で激怒し、1人足早に先頭を切って歩き出した若葉。
 
「若葉も 瑞輝みずきも、僕らは揃ってお祭りに行く事になったんだから、もうその 経緯いきさつは気にしないで楽しもうよ」

  凌空りくの発言で、若葉と 瑞輝みずきは無言で頷いた。
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