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難治性骨折と……
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サッカー部が地区予選を勝ち進んでいる間、 詩奈は学校を出席し続けた。
その間は若葉との約束通り、放課後には有川 勇が様子を見に訪れ、 詩奈に対するイジメの徴候は、休憩時の罵声や嘲笑以外は無くなった。
1人で何度も過ごした分も、4人でいられる時には、学校生活の楽しさが倍増以上に感じられた。
右足首も順調に回復しつつあり、回復状況から主治医に、松葉杖を1本で歩く練習も勧められた。
松葉杖2本では1/3から1/2程度だった荷重が、松葉杖1本になると2/3まで増えたため、当初はバランスを上手く取れないなかったが、リハビリを続けるうちに随分慣れた来た。
間もなく松葉杖からロフストランド杖へと変わるのを期待していたある日、 詩奈は、とっくに痛みが無くなっていたはずの右足首に、鈍痛や鋭い痛みを覚え出した。
最初は、気にし過ぎかと思い、そのまま様子を見ていたが、その頻度が徐々に増えると、さすがに見過ごせず受診した。
学校を午前中で早退し、母と一緒に形成外科を訪れ、検査を受けると『難治性骨折』という診断が出た。
骨折からすでに3ヵ月が経過していたが、 詩奈の場合、粉砕骨折した部分の治癒状態が悪く、週2回の通院でのリハビリと、自宅に「超音波骨折治療器」をレンタルし、毎日20分超音波を照射する事になった。
「あら、 詩奈さん、今日は何か有ったの?」
廊下で作業療法士の 真香とすれ違い、呼び止められた。
「右足首がたまに痛くて、診てもらったら難治性骨折って言われたんです」
「 詩奈さんは、粉砕骨折だったから、治るまでの時間が他の骨折より少し長くかかってしまうのね。でも、よく有る事だから、心配しなくて大丈夫よ! 超音波療法は自宅で出来るし、痛くも熱くも無いから! プロ野球選手やJリーガーも使用して早く復活しているし、年配者の骨でも効果が認められているから期待出来るわ」
最初は、超音波の照射と言われ、副作用が強そうで抵抗が有った 詩奈だったが、 真香に詳しく説明されて、それほど効果が望めるのならと、早く試したい気持ちになれた。
「そうなんですか! ただ超音波あてるだけで、そんなに効果有るんですね! それなら、私の骨折も、早く治ってくれるかも!」
「大丈夫! 今の 詩奈さんなら、治りたいって気持ち強いから、効果が早く現れそうよ!」
カウンセリングが始まった頃の 詩奈は、学校生活の問題が心に大きくのしかかり、物憂げな表情をしていた。
最近は、学校での問題が解決し、笑顔も増え、早く元に戻りたい気持ちが強くなっているのをリハビリやカウンセリング時間から感じ取れていた 真香。
この調子なら、カウンセリングも卒業出来るほどだと思えていた。。
帰宅後、使用説明書をよく読んでから、早速、超音波骨折治療器を使用した 詩奈。
「どう、何か感じる?」
母が、 詩奈の右足首と顔の表情を見ながら尋ねた。
「振動のようなものが伝わっているような感じがする。それと、火傷するような感じじゃないけど、何となく暖かい。あっ、でも痛くはないから、安心して!」
特に身体に負担かけそうな器具ではなくて、胸をなでおろした母。
「これなら、毎日続けられそうで、良かったわ!」
「また学校休んで、入院とかになったらどうしようかと思ってたから、こんなラクな治療法で、効果有るなら、もっと早くから始めたかったな~」
こんなに痛くなるまで我慢していたのが、もったいなかったと思えた 詩奈。
「若いし、これに頼らなくても、回復出来ると見込まれていたんじゃない? でも、 詩奈は、学校でも色々有ったし、精神面も回復具合に随分と影響するようだから……」
学校に復帰したばかりの辛い期間の出来事を 詩奈に蘇らせまいと、言葉を濁した母。
「自分でも、まだ信じられない……この怪我の前後で、私の交友関係がこんなに変わるなんて思わなかった」
小学5年生からの友達の 恵麻と 芽里が、 詩奈から離れて行ったのは残念だったが、それ以上に、 瑞輝や 凌空や若葉と共に過ごせるようになった時間は、とても貴重で有意義に感じられていた。
だからこそ、この友情だけは決して失いたくない 詩奈。
翌朝、学校の玄関で、前日に早退した 詩奈の右足首の容態が気になりながら、待っていた 瑞輝達。
「 詩奈、足は、どうだったの?」
「また手術とか、入院って事は……?」
こんなに気にかけてくれるのが嬉しくも有り、申し訳無くも感じられる 詩奈。
「手術も、入院も要らないみたい!」
その言葉で、友人達の顔がパッと明るくなった。
「良かった!」
「痛かった原因は?」
手術や入院の必要が無い事に安心した 瑞輝と若葉だったが、 凌空は、痛みの原因も知りたかった。
「私、難治性骨折みたいで、治りが他の人よりは少し悪いみたい……」
「あっ、でも、大丈夫、超音波骨折治癒器っていうのを病院から借りて、家で照射するだけで治りが早まるから!」
瑞輝達に余計な心配をさせないよう、慌てて付け足した。
「超音波骨折治癒器......? なんだそれ、怪しい名前」
瑞輝が、初めて耳にした器具名に疑問を感じた様子。
「それがね、プロのスポーツ選手達も骨折した時に使って、早く治っていたという 優れものなの! 使ってみたけど、そこまで怪しく無さそうだから、大丈夫!」
「ふ~ん、そうなんだ、早く治るといいね~、 詩奈!」
「急いで治そうとして、無理するなよ、牧田!」
治った時には、 瑞輝や若葉は、自分から離れて行くのだろうか?
負担となりたくないから、早く治って欲しい気持ちは強いが、治ってしまうと、彼らが自分と一緒に過ごせなくなるかも知れない不安も、詩奈の心に隣合わせに有った。
そんな 詩奈の気持ちに気付いているのは、今のところ、誰よりも彼女を気にかけている 凌空だけだった。
その間は若葉との約束通り、放課後には有川 勇が様子を見に訪れ、 詩奈に対するイジメの徴候は、休憩時の罵声や嘲笑以外は無くなった。
1人で何度も過ごした分も、4人でいられる時には、学校生活の楽しさが倍増以上に感じられた。
右足首も順調に回復しつつあり、回復状況から主治医に、松葉杖を1本で歩く練習も勧められた。
松葉杖2本では1/3から1/2程度だった荷重が、松葉杖1本になると2/3まで増えたため、当初はバランスを上手く取れないなかったが、リハビリを続けるうちに随分慣れた来た。
間もなく松葉杖からロフストランド杖へと変わるのを期待していたある日、 詩奈は、とっくに痛みが無くなっていたはずの右足首に、鈍痛や鋭い痛みを覚え出した。
最初は、気にし過ぎかと思い、そのまま様子を見ていたが、その頻度が徐々に増えると、さすがに見過ごせず受診した。
学校を午前中で早退し、母と一緒に形成外科を訪れ、検査を受けると『難治性骨折』という診断が出た。
骨折からすでに3ヵ月が経過していたが、 詩奈の場合、粉砕骨折した部分の治癒状態が悪く、週2回の通院でのリハビリと、自宅に「超音波骨折治療器」をレンタルし、毎日20分超音波を照射する事になった。
「あら、 詩奈さん、今日は何か有ったの?」
廊下で作業療法士の 真香とすれ違い、呼び止められた。
「右足首がたまに痛くて、診てもらったら難治性骨折って言われたんです」
「 詩奈さんは、粉砕骨折だったから、治るまでの時間が他の骨折より少し長くかかってしまうのね。でも、よく有る事だから、心配しなくて大丈夫よ! 超音波療法は自宅で出来るし、痛くも熱くも無いから! プロ野球選手やJリーガーも使用して早く復活しているし、年配者の骨でも効果が認められているから期待出来るわ」
最初は、超音波の照射と言われ、副作用が強そうで抵抗が有った 詩奈だったが、 真香に詳しく説明されて、それほど効果が望めるのならと、早く試したい気持ちになれた。
「そうなんですか! ただ超音波あてるだけで、そんなに効果有るんですね! それなら、私の骨折も、早く治ってくれるかも!」
「大丈夫! 今の 詩奈さんなら、治りたいって気持ち強いから、効果が早く現れそうよ!」
カウンセリングが始まった頃の 詩奈は、学校生活の問題が心に大きくのしかかり、物憂げな表情をしていた。
最近は、学校での問題が解決し、笑顔も増え、早く元に戻りたい気持ちが強くなっているのをリハビリやカウンセリング時間から感じ取れていた 真香。
この調子なら、カウンセリングも卒業出来るほどだと思えていた。。
帰宅後、使用説明書をよく読んでから、早速、超音波骨折治療器を使用した 詩奈。
「どう、何か感じる?」
母が、 詩奈の右足首と顔の表情を見ながら尋ねた。
「振動のようなものが伝わっているような感じがする。それと、火傷するような感じじゃないけど、何となく暖かい。あっ、でも痛くはないから、安心して!」
特に身体に負担かけそうな器具ではなくて、胸をなでおろした母。
「これなら、毎日続けられそうで、良かったわ!」
「また学校休んで、入院とかになったらどうしようかと思ってたから、こんなラクな治療法で、効果有るなら、もっと早くから始めたかったな~」
こんなに痛くなるまで我慢していたのが、もったいなかったと思えた 詩奈。
「若いし、これに頼らなくても、回復出来ると見込まれていたんじゃない? でも、 詩奈は、学校でも色々有ったし、精神面も回復具合に随分と影響するようだから……」
学校に復帰したばかりの辛い期間の出来事を 詩奈に蘇らせまいと、言葉を濁した母。
「自分でも、まだ信じられない……この怪我の前後で、私の交友関係がこんなに変わるなんて思わなかった」
小学5年生からの友達の 恵麻と 芽里が、 詩奈から離れて行ったのは残念だったが、それ以上に、 瑞輝や 凌空や若葉と共に過ごせるようになった時間は、とても貴重で有意義に感じられていた。
だからこそ、この友情だけは決して失いたくない 詩奈。
翌朝、学校の玄関で、前日に早退した 詩奈の右足首の容態が気になりながら、待っていた 瑞輝達。
「 詩奈、足は、どうだったの?」
「また手術とか、入院って事は……?」
こんなに気にかけてくれるのが嬉しくも有り、申し訳無くも感じられる 詩奈。
「手術も、入院も要らないみたい!」
その言葉で、友人達の顔がパッと明るくなった。
「良かった!」
「痛かった原因は?」
手術や入院の必要が無い事に安心した 瑞輝と若葉だったが、 凌空は、痛みの原因も知りたかった。
「私、難治性骨折みたいで、治りが他の人よりは少し悪いみたい……」
「あっ、でも、大丈夫、超音波骨折治癒器っていうのを病院から借りて、家で照射するだけで治りが早まるから!」
瑞輝達に余計な心配をさせないよう、慌てて付け足した。
「超音波骨折治癒器......? なんだそれ、怪しい名前」
瑞輝が、初めて耳にした器具名に疑問を感じた様子。
「それがね、プロのスポーツ選手達も骨折した時に使って、早く治っていたという 優れものなの! 使ってみたけど、そこまで怪しく無さそうだから、大丈夫!」
「ふ~ん、そうなんだ、早く治るといいね~、 詩奈!」
「急いで治そうとして、無理するなよ、牧田!」
治った時には、 瑞輝や若葉は、自分から離れて行くのだろうか?
負担となりたくないから、早く治って欲しい気持ちは強いが、治ってしまうと、彼らが自分と一緒に過ごせなくなるかも知れない不安も、詩奈の心に隣合わせに有った。
そんな 詩奈の気持ちに気付いているのは、今のところ、誰よりも彼女を気にかけている 凌空だけだった。
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