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去る人と……

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 友人と思っていた 恵麻えまや 芽里めりから ひどい仕打ちを受けた事により、 詩奈しいなは、リハビリ意欲がいっそう湧いた。
 手術日までに、松葉杖を楽々使いこなし、術後はなるべく早めに中学校に復帰する事を望んでいた。
 学校生活に開く穴が広がれば広がるほど、自分の居場所が無くなりそうな予感がし、その焦りからもリハビリに火がついていた。

 午後のリハビリ後は、その疲れでグッタリし、睡魔に襲われる事が多い。
 ウトウトしかけていると、ノックが聞こえ、ハッとなり起きた。

「あっ、はーい」

 前日より早い時間帯に現れた 瑞輝みずきと 凌空りく

「寝てたような顔してるな」

  瑞輝みずきにズバリ言われ、よだれを垂らしてないか、慌てて、口の周りを手の甲で拭いた 詩奈しいな

「バレた? リハビリって、体育の授業の比じゃないくらい疲れて……」

 髪もグチャグチャになっているのではと思い、慌てて、手櫛でとかした。

「大変だね、はいコピー。手術は週明けだったね?」

 いつものように、板書のコピーを手渡した 凌空りく

「コピー、ありがとう。手術は、入院してちょうど1週間後だから。今日は、もう金曜日だったんだね~。入院していると毎日同じ繰り返しで、曜日感覚無くなる!」

「明日と明後日は、俺達来ないから、今日は車椅子で散歩しておく?」

 週末は、 瑞輝みずきと 凌空りくは来ない。
 その間は学校も無く、届けるような板書のコピーも無いから、当然と言えば当然なのだが、彼らの面会に慣れ過ぎて、それが妙に寂しく感じられた 詩奈しいな

「それなら、お言葉に甘えて、今日は、車椅子で外出たいな~!」

 寂しい気持ちを悟られないよう、明るい口調で言った 詩奈しいな

「了解、左足に重心かけられる?」

 リハビリの成果は、松葉杖を使わないと発揮出来ない。
 詩奈しいなは、車椅子に乗るだけの為に、松葉杖を取ってもらおうとするのも億劫に感じていたが、かといって、 瑞輝みずきの肩を借りたいと言うのは、もっと 躊躇ためらわれた。

「松葉杖が有ると、上手く支えられるんだけど……」

「今日は疲れてんだろ、俺につかまれよ」

「うん……ありがとう」

  瑞輝みずきに介助される 詩奈しいなの様子を少し離れた位置から見ていた 凌空りく

  瑞輝みずきの誘導で、無事、車椅子に 詩奈しいなが座れた段階で、 凌空りくが遠慮気味に尋ねた。

「今日は、友達は来てないの? このまま、僕達だけで外に出ていい?」

「多分、来ないと思う……」

  詩奈しいなが、なるべく気にしてない様子で言おうと努めたが、少し言葉を濁した事により、 瑞輝みずきと 凌空りくが察したようだった。

「昨日の俺らの対応のせいで、気まずくなった?」

 前日の映画に誘われたのを断った事が、彼女達が来なくなった原因と思った 瑞輝みずき

「ううん、そのせいじゃなくて。私が……ごめん、この話題は、今はしたくないんだけど……」

  うつむいて 口籠くちごもった 詩奈しいなが気になった2人だが、本人の要望であるなら、それ以上は追及しなかった。

「外の空気は、やっぱり気持ちいいね~! これって、こんな風にならなかったら、気付けなかった事だよね!」

  瑞輝みずきと 凌空りくに憂慮させる隙を与えないよう、元気な声で、両腕を上げて空気を思いっきり吸い込んだ 詩奈しいな

「当たり前のものって、失った時じゃないと、そのありがたさになかなか気付きにくいって言うね」

  詩奈しいながすぐに明るさを取り戻し、安堵したように言った 凌空りく

「お父さんが来るだろうから、来るの止めとこうと思ったけど、車椅子乗りたいなら、土日も来ようか?」

  瑞輝みずきと 凌空りくが週末に来ないのは、用事が入っているとか、試験勉強のせいかと思っていたが、父が原因だったと分かった 詩奈しいな

「ありがとう、でも大丈夫! お父さんも来るから。平日に来てもらっているだけで十分! それでなくても勉強時間が減っているの、申し訳無いし!」

  詩奈しいなは、頭を大袈裟にブンブン振り断った。

「あっ、そういえば、牧田さん、あの時、頭も打っていたけど、大丈夫だった?」

 その 詩奈しいなの頭を見て、思い出した 凌空りく

「お~、そうだった! つい足にばっか気を取られて忘れてたけど、お前、頭も相当ヤバイ感じだったな!」

「一応、CT検査とMRI検査してみたけど、全く異常無かったよ! 心配してくれてありがとう」

「良かった! 打ちどころ悪かったら大変だからね、頭は」

 記憶障害などの大惨事にならず、一安心した 瑞輝みずきと 凌空りく

「なんか色々心配させて、ゴメンね。試験前なのに」

 怪我させた本人と第一発見者とはいえ、友達以上に色んな事を気にかけてくれるのが、前日、哀しい気持ちにさせられていた後だけに、 詩奈しいなの心に染み入った。
 病室に戻り、 瑞輝みずきに手伝ってもらいベッドに戻ったタイミングで、 凌空りくが尋ねた。

「手術の後って、面会出来る?」

 伝えなくてはと認識していたはずだったが、 そのタイミングで凌空りくが尋ねなかったら、伝え忘れていた詩奈しいな

「手術担当の先生に全身麻酔するから、しばらく眠っているって言われていたの! 良かった、北岡君のおかげで思い出せて! だから、月曜日のお見舞いは来なくていいよ」

 そう言いつつ、言った事により 瑞輝みずき達としばらく会えない事に気付かされ、寂しい気持ちになる詩奈。

「分かった、そろそろ試験勉強も本腰入れないと! 牧田も、手術頑張れ!」

「今度は火曜日に来るよ。リハビリとかも無理しないで」

「ありがとう、2人とも! 試験勉強、頑張ってね!」

 手術の応援をしてくれた 瑞輝みずきと 凌空りくに、 詩奈しいなも応援で返した。

 2人が去った後、病室で孤独になっていたが、彼らが残してくれた爽やかな余韻に浸っていた詩奈しいな
 その時は、彼らがずっと応援してくれているのなら、例え、友達を失っていたとしても、この先、何事も乗り越えられそうな気がしていた。
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