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壊れた友情を感じた時間と……

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「とにかく、俺はパス」

  瑞輝みずきの発言に、病室内が静まり返った。

「え~っ! 矢本君って、もしかして、怖いの苦手なんだ~?」

 挑発するように 恵麻えまが言ったが、無視した 瑞輝みずき

「実は、僕が苦手なんだ、ホラー系は」

  瑞輝みずきの仏頂面を取り繕うように 凌空りくが言った。

「それじゃあ、2人とも行かないの~? つまんな~い!」

 ガッカリした口調の 芽里めり

「そろそろ、俺達は帰るわ」

 ふてくされている 恵麻えまや 芽里めりを残し、 瑞輝みずきと 凌空りくが病室から出た。

「あ~っ! もう~、つまんない、つまんない、つまんな~い!!」

「せっかく戻って来たのに! 何なの、この展開って!」

 先刻、 瑞輝みずきと 凌空りくが病院に入って行くのを見かけ、帰るつもりでいた 恵麻えまと 芽里めりが慌ててUターンしたのだった。
 今日は面会に遅れたような演技までして、ダブルデートに誘おうとしていた当てが外れ、不満そうな2人。

「私も、頑張って合わせたんだけど……」

  詩奈しいなも彼女達に同調しようとしたが、内心は、 瑞輝みずきと 凌空りくが2人の誘いを断り、ホッとしていた。

「 詩奈しいなが、もっと上手く乗ってくれなかったせいだって~! 矢本君も北岡君も、なんか 詩奈しいなに同情してる感じになっちゃったじゃん!」

「そうだよね~!  詩奈しいなが1人で可哀想ぶっている感じだから、2人とも映画に行くの気が引けたんじゃない? なんかさ~、私と 恵麻えまが、悪者扱いみたいな」

 2人は、 瑞輝みずきと 凌空りくに断られた怒りの 矛先ほこさきを 詩奈しいなに向けてきた。

「私はこれでも、4人が映画に行けるように、精一杯演じたつもりだったのに……」

「その良い人ぶっているのが、裏目に出ちゃうんだよね~!  詩奈しいなはさ~、もっと、ワガママっぽく、矢本君や北岡君に嫌われるような口調で言わなきゃ! そしたら、呆れられて、私達と映画に行ってくれたのに!」

詩奈しいなも、私達に協力してくれるつもりなら、それくらいやってくれてもいいじゃん! 友達なんだからさ!」

 詩奈しいななりに、自分の気持ちを押し殺して協力したつもりでいたが、それ以上を求めて来た恵麻えま芽里めり
 2人に協力する為に、瑞輝みずき凌空りくに嫌われる覚悟で臨むよう指摘された事で、詩奈しいなの中の疑問が爆発した。

「私は……2人に.嫌われたくない!」

 いつも話を合わせて来るのが当たり前だった詩奈しいなが、自分の意見を言った事で、驚いた2人。

「何、それ? わけ分かんない! 別に好きでもない男子だったら、嫌われてもいいじゃん」

「私達の友情の方が、大事じゃないの?」

 彼女達2人にとって詩奈しいなは、言いくるめる事くらい楽勝な都合の良い友達のはずだった。
 
「今更かも知れないけど……私、矢本君が好きだから」

(やっと、言えた!! これで、もう、協力しなくて済むんだ……)

 この状況で本心を明かすのは、今までの詩奈しいなからは考えられないほどの勇気が必要だった。
 が、これから先、瑞輝みずきに嫌われるような事を発し続けるなど、今の詩奈しいなには無理だった。
 それを避ける為には、隠して来た恋心を2人に伝えるしか、もはや選択肢は無かった。

「サイテー!! この前だって、確認したのに! なんで、あの時、言わないで、今更なの?」

「後出しなんか、ズルイじゃん!!」

 2人が詩奈しいなを責め立てた。

「あの時は……2人で盛り上がっていて言い難かったし、矢本君には有川さんがいるから、どうせ近付けないって思っていたから……」

「今は、自分が有利に立ったとでも思っているの? 矢本君は、ただ怪我させたつぐないで、お見舞いに来ているだけなのに、詩奈しいな、なに期待してるの?」

 恵麻えまに指摘され、ビクッとなった詩奈しいな

「私、そんな期待はしてないよ。だけど、わざわざ自分から嫌われに行くのは嫌だから......」

 詩奈しいなが正直な気持ちを伝えたつもりでも、2人には、後出しした卑怯者としか映ってなかった。

「映画の件、北岡君や矢本君が断ってくれて、ラッキーと思ってたんでしょ! あー、もうムリだわ~、詩奈しいなとは友達やってらんない!」

「ムカつく~! 今更、後出しして、自分だけ仲良くなろうとしている魂胆が丸見えじゃん!」

「せいぜい頑張って、お見舞いしてもらいなよ!」

「私達は、もう友達でも何でも無いし、お見舞いも来ないし、邪魔もしないから!」

 恵麻えま芽里めりで、詩奈しいなの悪態をきまくって、病室から出て行った。
 
 2人がいる間は我慢していたが、去るや否や、詩奈しいなせき切ったように泣き出した。
 いつもより遅れて母が戻ったのも気付かないほどに。

「今、そこで、恵麻えまちゃんと芽里めりちゃん、見かけたけど、何だか、すごい剣幕で怒っていたのよ。詩奈しいなのお見舞いのお礼を言おうと思っていたけど、声かけにくかったから、そのまま戻ったわ……」

 そう言いながらドアを開けて入って来た母は、詩奈しいなの泣いている姿が目に入り、言葉に詰まった。
 あの2人が怒っていた原因は、詩奈しいなだったと瞬時に悟った。

「また何か有ったのね……身体だけでも辛い時に、心までだと、キツイよね、詩奈しいな

「お母さんの言う通りだった……恵麻えま芽里めりも勝手過ぎる! 自分達の事ばかりで、私には嫌われ役を押し付けて来たの!」

「それは……詩奈しいなが、矢本君を好きな事を黙っていたからでしょう?」

「だから、私、やっと、あの2人に自分の気持ち伝えたの! それなのに……」

 後出しした事で恵麻えま芽里めりが責めた事を詩奈しいなが言わずとも、先刻の2人の言動を見ていた母は察した。

「今更言われてもって気持ちだったのね、お友達には……それも分かる気がするわ……」

「それくらいの事で、あんなに責められて、友達を失う事になるなんて思わなかった……私、退院して学校に戻っても、もう友達もいなくて孤独になってしまって、どうすればいいの……?」

 女友達との友情のもろさを痛感させられた詩奈しいな

「そうまでして、詩奈しいなが守りたかったのが、矢本君への気持ちなんだよね。今日は、矢本君と北岡君は、お見舞いに来たの?」

「うん、来てくれて、恵麻えま達が映画に一緒に行こうって誘ったけど、私に気兼ねして、断ってくれたの。恵麻えま達には言えなかったけど、ホント、嬉しかったんだ、すごく……」

 そう言った詩奈しいなの顔には、まだ涙が渇いていなかったが、恋をしている人の特有のきらめきが有るのを認めた母。

「そうなんだ、良かったね。矢本君が詩奈しいなに向けてくれた言葉は、一つ一つ宝物と思って、大切にしてね。学校に戻ると、もしかしたら、今までよりもっと大変で辛くなるかも知れないけど、そんな時に、矢本君の言葉を思い出すといいんじゃないかな」

 母に言われる前から、瑞輝みずきの言葉は全て、詩奈しいなにとってのエネルギー源だった。
 そんな想いを母に共感してもらえたように感じた。

 もう、恵麻えま芽里めりは、お見舞いに来ないどころか、詩奈しいなが中学校に戻っても、今までのような友達関係は築いてゆけないだろう。
 瑞輝みずき凌空りくも、先刻のあの雰囲気の悪さから、お見舞いは控えるようになってしまうかも知れない。
 そんな状態になっても、瑞輝みずきが自分の為に、彼女達の誘いを断ったり、気遣ってくれたという事実が、今の詩奈しいなにとっては、唯一の希望だった。
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