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その後の冒険エトセトラ。
挑戦☆墓場のダンジョン①
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「はああっ!!」
――ばしんっ!
渾身の力を込めた一撃は、びくともせずエーリクに受け止められた。訓練用の木剣を握り締めた、私の両手にじぃんと痺れが走る。
一瞬ひるみかけたが、それでも私はあきらめない。
(……まだまだっ!)
「やああ~っ!!」
ばしんっ!
やっぱりエーリクに苦も無く防がれた。
私のとは違い、エーリクの木剣はおもちゃみたいに小さなものなのに。さすが、勇者の称号は伊達じゃない。
上目遣いにエーリクを窺うと、エーリクが力強く頷きかけた。
「よし、いいぞアリサ。その調子だ」
え、そう……かな?
エーリクに励まされ、私は再び木剣を構え直す。
深呼吸して乱れた息を整えて、めった打ちに打ち込んでいく。えいえいえいえいっ!
正攻法で打ち込んでも、姑息にフェイントをかけ急所(弁慶の泣き所だよ!)を狙っても、ならばと背後に回ろうとしても、エーリク相手には全然全く通用しない。だんだんと手の中の木剣が重みを増してくる。
「はあ……っ、はあ……っ」
私の必死さとは裏腹に、エーリクは息ひとつ乱していなかった。どころか、口の端を上げて私に笑いかける余裕すらある。
「ああ、素晴らしい攻撃だ」
「光る才能を感じるな」
「すごいぞ。さすがはアリサだ」
…………。
度重なる賛辞に、やがて私の手は完全に止まってしまった。木剣がぽろりとこぼれ落ち、地面に座り込む。
「エーリク……それ、いらないから」
「え?」
かすかに目を見開くエーリクを、キッと睨みつけた。
「過剰な褒め言葉はいりませんっ! いい子いい子っておだててさえいれば、いい子に育つと思わないでよ!? 時には心を鬼にして叱ることだって大事なんだからねっ!」
「子育ての極意か?……そんな、いくらなんでも気が早すぎるだろう」
「誰が今子育ての話をしてた!?」
目下の課題、アリサちゃん育ての話だよ!!
わからず屋のエーリクに、思わず地団駄を踏みたくなってくる。
(私だって、早く戦えるようになりたいのに……!)
私たちがシールズ村を旅立ってから、そろそろ一月が経つ。
魔空挺で楽々移動できることもあり、その間たくさんの町や村を巡った。
ゲームで慣れ親しんでいた町に、実際に自分の足で降り立つ感動。何度味わっても薄れることはなく、まして町の人たちと言葉を交わし、会話の中からおつかいのようなサブイベントまで発生したりもして。
民家のタンスから希少なアイテムを発見したり(※盗ってません)、井戸の中の隠し通路を通って宝物庫にたどり着いたり。己の小ネタ知識を総動員して仲間からも褒め称えられ、私は十二分に冒険を満喫していた。
……けれど。
「――そろそろダンジョンにだって挑戦してみたいの! だから修行に付き合ってほしいってお願いしたのに!」
まくし立てるようにして訴える私に、エーリクが無表情に首を傾げた。
「だが、俺もちゃんと言ったろう。アリサが強くなる必要はないと。俺が必ずお前を守ってみせるから、と」
「私は足手まといになりたくないの! みんなの役に立てるとは思わないけど、せめて自分の身くらいちゃんと守れるようになりたい……っ」
うつむく私の頭に、大きな手がぽんと載せられた。
無視してみても、手は離れようとしない。優しく何度も私の髪を撫でていく。
「エーリク……」
おずおずと顔を上げれば、エーリクがふわりと優しく微笑んだ。
「それは無理だ。アリサ」
「…………」
なんだと?
目を吊り上げる私に、エーリクが淡々と言葉を重ねる。
「お前が行きたがっているのは、正規のストーリーでは行かない隠しダンジョンとやらなんだろう? 俺が冒険の序盤で挑んだ、弱い魔物ばかりのダンジョンではなく」
「う。そう、です……」
「ならば、そこに巣食う魔物は強敵揃いに決まっている。付け焼き刃の修行で通用するはずがないだろう」
「…………」
ぐうの音も出ない。
はくはくと口を開くばかりの私に、エーリクが慈愛の眼差しを向ける。
「生兵法は大怪我のもとだ。ダンジョンに行きたいのなら付き合うから、お前はしっかり俺の後ろに隠れておいてくれ」
ド正論で説得され、私はぺしゃんこになってしまった。わかってるよー、ちゃんとわかってるんだけどさー?
でもでも、憧れるじゃない。ピンチの仲間を華麗な攻撃で助けたり、強力な技で魔物を一掃してみたり。私だって一度ぐらい、勇者してみたかったのにー。
いじける私の横で、エーリクがぱらぱらと攻略本のページをめくっていく。
「ほら、どのダンジョンがいいんだ。前に行きたいと言っていたカラクリ屋敷にするか? ああ、海底ダンジョンなんて変わり種もあるな」
「……海底ダンジョンに挑むには、まずは潜水艦を手に入れなきゃいけないから。とりあえずは後回しかな」
ぶすりと否定しつつも、我慢できずに私も攻略本を覗き込む。エーリクの口角が上がって、ちょっぴり悔しい。
それでも攻略本からは目が離せない。
「うん、いきなり難易度が高いところは避けるべきだよね。エーリクの言う通り」
「なら、良い装備品が手に入るダンジョンを狙わないか。強力な防具でアリサの全身を固めれば、俺も安心していられる」
「嫌だよ。低レベルのへなちょこが、防具だけ最高級のものを付けてたらいい笑いものじゃない」
喧々諤々と議論しつつ、候補を絞り込んでいく。
あんまり巨大すぎるダンジョンは駄目だよね。なにせ私は初心者ですし。
「防具が嫌なら、武器はどうだ? アリサにも扱えるような、小型で軽いものがいいだろう」
ふんふん、確かにそれはアリかもね。
エーリクの提案に、今度は私も頷いた。
広すぎないダンジョン。トラップもあまり厳しすぎないものがいい。そして特典として、小型の武器が手に入る場所。
この条件に全て当てはまるものは――……
「うん、決めた!――ここにしよう、エーリク!」
――ばしんっ!
渾身の力を込めた一撃は、びくともせずエーリクに受け止められた。訓練用の木剣を握り締めた、私の両手にじぃんと痺れが走る。
一瞬ひるみかけたが、それでも私はあきらめない。
(……まだまだっ!)
「やああ~っ!!」
ばしんっ!
やっぱりエーリクに苦も無く防がれた。
私のとは違い、エーリクの木剣はおもちゃみたいに小さなものなのに。さすが、勇者の称号は伊達じゃない。
上目遣いにエーリクを窺うと、エーリクが力強く頷きかけた。
「よし、いいぞアリサ。その調子だ」
え、そう……かな?
エーリクに励まされ、私は再び木剣を構え直す。
深呼吸して乱れた息を整えて、めった打ちに打ち込んでいく。えいえいえいえいっ!
正攻法で打ち込んでも、姑息にフェイントをかけ急所(弁慶の泣き所だよ!)を狙っても、ならばと背後に回ろうとしても、エーリク相手には全然全く通用しない。だんだんと手の中の木剣が重みを増してくる。
「はあ……っ、はあ……っ」
私の必死さとは裏腹に、エーリクは息ひとつ乱していなかった。どころか、口の端を上げて私に笑いかける余裕すらある。
「ああ、素晴らしい攻撃だ」
「光る才能を感じるな」
「すごいぞ。さすがはアリサだ」
…………。
度重なる賛辞に、やがて私の手は完全に止まってしまった。木剣がぽろりとこぼれ落ち、地面に座り込む。
「エーリク……それ、いらないから」
「え?」
かすかに目を見開くエーリクを、キッと睨みつけた。
「過剰な褒め言葉はいりませんっ! いい子いい子っておだててさえいれば、いい子に育つと思わないでよ!? 時には心を鬼にして叱ることだって大事なんだからねっ!」
「子育ての極意か?……そんな、いくらなんでも気が早すぎるだろう」
「誰が今子育ての話をしてた!?」
目下の課題、アリサちゃん育ての話だよ!!
わからず屋のエーリクに、思わず地団駄を踏みたくなってくる。
(私だって、早く戦えるようになりたいのに……!)
私たちがシールズ村を旅立ってから、そろそろ一月が経つ。
魔空挺で楽々移動できることもあり、その間たくさんの町や村を巡った。
ゲームで慣れ親しんでいた町に、実際に自分の足で降り立つ感動。何度味わっても薄れることはなく、まして町の人たちと言葉を交わし、会話の中からおつかいのようなサブイベントまで発生したりもして。
民家のタンスから希少なアイテムを発見したり(※盗ってません)、井戸の中の隠し通路を通って宝物庫にたどり着いたり。己の小ネタ知識を総動員して仲間からも褒め称えられ、私は十二分に冒険を満喫していた。
……けれど。
「――そろそろダンジョンにだって挑戦してみたいの! だから修行に付き合ってほしいってお願いしたのに!」
まくし立てるようにして訴える私に、エーリクが無表情に首を傾げた。
「だが、俺もちゃんと言ったろう。アリサが強くなる必要はないと。俺が必ずお前を守ってみせるから、と」
「私は足手まといになりたくないの! みんなの役に立てるとは思わないけど、せめて自分の身くらいちゃんと守れるようになりたい……っ」
うつむく私の頭に、大きな手がぽんと載せられた。
無視してみても、手は離れようとしない。優しく何度も私の髪を撫でていく。
「エーリク……」
おずおずと顔を上げれば、エーリクがふわりと優しく微笑んだ。
「それは無理だ。アリサ」
「…………」
なんだと?
目を吊り上げる私に、エーリクが淡々と言葉を重ねる。
「お前が行きたがっているのは、正規のストーリーでは行かない隠しダンジョンとやらなんだろう? 俺が冒険の序盤で挑んだ、弱い魔物ばかりのダンジョンではなく」
「う。そう、です……」
「ならば、そこに巣食う魔物は強敵揃いに決まっている。付け焼き刃の修行で通用するはずがないだろう」
「…………」
ぐうの音も出ない。
はくはくと口を開くばかりの私に、エーリクが慈愛の眼差しを向ける。
「生兵法は大怪我のもとだ。ダンジョンに行きたいのなら付き合うから、お前はしっかり俺の後ろに隠れておいてくれ」
ド正論で説得され、私はぺしゃんこになってしまった。わかってるよー、ちゃんとわかってるんだけどさー?
でもでも、憧れるじゃない。ピンチの仲間を華麗な攻撃で助けたり、強力な技で魔物を一掃してみたり。私だって一度ぐらい、勇者してみたかったのにー。
いじける私の横で、エーリクがぱらぱらと攻略本のページをめくっていく。
「ほら、どのダンジョンがいいんだ。前に行きたいと言っていたカラクリ屋敷にするか? ああ、海底ダンジョンなんて変わり種もあるな」
「……海底ダンジョンに挑むには、まずは潜水艦を手に入れなきゃいけないから。とりあえずは後回しかな」
ぶすりと否定しつつも、我慢できずに私も攻略本を覗き込む。エーリクの口角が上がって、ちょっぴり悔しい。
それでも攻略本からは目が離せない。
「うん、いきなり難易度が高いところは避けるべきだよね。エーリクの言う通り」
「なら、良い装備品が手に入るダンジョンを狙わないか。強力な防具でアリサの全身を固めれば、俺も安心していられる」
「嫌だよ。低レベルのへなちょこが、防具だけ最高級のものを付けてたらいい笑いものじゃない」
喧々諤々と議論しつつ、候補を絞り込んでいく。
あんまり巨大すぎるダンジョンは駄目だよね。なにせ私は初心者ですし。
「防具が嫌なら、武器はどうだ? アリサにも扱えるような、小型で軽いものがいいだろう」
ふんふん、確かにそれはアリかもね。
エーリクの提案に、今度は私も頷いた。
広すぎないダンジョン。トラップもあまり厳しすぎないものがいい。そして特典として、小型の武器が手に入る場所。
この条件に全て当てはまるものは――……
「うん、決めた!――ここにしよう、エーリク!」
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